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「二人はそこそこ戦える?もしそうだったなら、護衛として二人についてきて欲しい場所があるんだけれど」
ある日の午後、クラシベスは唐突に提案してきました。
「この二人を連れて行くのですか!?それには賛同しかねます!護衛は私一人で十分です!」
主人の意図に反してついてこられることを嫌がった付き人は、反対する様子を見せましたがその意見が通ることはありませんでした。
「相変わらず頭が硬くて困っちゃう。ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「気になるでしょ?今日は孤児院に行こうと思っているの。そこに行くまでに治安の悪い場所があるから、護衛は必要でしょ?」
行き先が孤児院だということに何となく目的を察しましたが、二人とも口にはしませんでした。
その後、訪れた孤児院には人間のみではなく人魚、さらに他の種族などの多種多様な種族の子供がいました。
そこにたどり着いたレイラは、先ほどの態度から一転して恍惚とした表情でクラシベスのことを称賛します。
「もとより、孤児院への援助はベルシン家の事前活動の一環ですが、若奥様は精力的にこの活動を行われていらっしゃる。本当に素晴らしいことです」
「そんなことないのよ。ここに来たのは打算もあるの。気が付いているかもしれないけど、養子探しも兼ねているの」
想像通りの目的に黙り込んでしまった二人を見て、クラシベスは説明を続けました。
「うちの主人が言うにはね、イワノフさんの家が五人目の子供を授かったのだけれど、経済的に厳しいらしいから養子に取れないかって。けれど私はそれに反対なの。だって、その子が受けるはずだった親からの愛情を、私が奪ってしまうことになるかもしれないでしょ?だからといって、孤児だったらその後ろめたさがないってわけでもないけどね」
ひたすらに懊悩し、自責すらしていたクラシベスは、自分とは一回り以上年の離れた二人に縋るように語り続けます。
「私が思うに、親が子供に対して与える最初の愛情は名前だと思うの。じゃあそれを与えられない私は、他の親より劣っているの?」
クラシベスは悲観的な問を投げかけると、自分で答えました。
「それはわからない。だから私が子供のためにできることは、帰る場所と愛情を与えることだけ。けれど、欲を言えば私だって本当は血のつながった子供が欲しかった」
「それならば他の雄の…」
「「ちょっとちょっと!」」
狼のあまりにひどい発言の気配に、二人とも慌てて静止させました。
「ルディ、お願いだから発言する前にちょっと考えて」
「生物として、種の存続を考えるのは当然だというのに」
「それじゃあ、ベルシン家の血をひいていないから駄目なの」
二人は慌てて静止をしましたが、同じようなことを何度も言われたことがあるクラシベスは、あまり傷ついた反応を見せませんでした。
「二人ともごめんね、つまらない話をしちゃって」
クラシベスの謝罪を受けたフォールは、他人事だとは思えませんでした。認めてられたかったのに、認めてくれる存在がいなかった。その辛さに身に覚えがあったからです。
「そんなことありません。ただ、そうやって、もらい受けようと思っている子供のことを考える時間も、大切な愛情なんだと思います。だからきっと、クラシベスさんの行動は間違っていません!それと、立派な親になれると思います!」
かつての自分を思い浮かべているのか、それとも他の人を思い浮かべているのか、クラシベスのために言っているのか、自分でもわからないままに、フォールは珍しく大きな声を張り上げてクラシベスの考えを肯定するのでした。
ただただ認めるための心からの叫びは、クラシベスが心から求めていた言葉でした。
「うん、…うん。そうよね。たとえ産めなくっても、名前を与えられなくっても、私なりの方法で子供を愛すればいいのよね。…うん、ありがとう」
子供を産めないことを責めないで欲しかった、自分の考え方を認めて欲しかった。
付き人のレイラもベルシン商会の者として子供を産まないことを認めることは出来ない、他の多くの者も後継ぎを求めている、結婚して子供を産まないという価値観は一般的でない。そのせいでフォールのようなことを言ってくれる存在は、これまでにいませんでした。
だからこそ心から求めていた言葉を初めて受け取れたおかげで、どこか憑き物が落ちたかのようにクラシベスは微笑みを浮かべました。
「じゃあそうね、少し話が変わるのだけれど、あなた達の名前にはどんな意味が込められているの?」
そして最後に、自分に心を救ってくれた二人はどのような名前なのか、親に愛されていたのか、気になったクラシベスは、名前に関する話を聞いてきました。
「俺は里を守るための騎士って意味だったはず。クラシベスさんは?」
「私?私は健康でいて欲しいって願いを込めて綺麗な鱗って意味よ。人魚にとって鱗がしっかりしていることは、十分に健康なことの証らしいからね。それで…」
「そろそろ子供達と交流したほうがいいんじゃない?」
「よろしいかと存じます、だ!」
「ふふっ、そうね」
フォールの言葉のおかげで、クラシベスは心からの笑顔で子供達と交流をすることができましたが、誰を養子に取るかは即日では決めかねるのでした。




