6-2
自分より年若い二人の世話を焼きたがるクラシベスは、いろいろな話、例えば街の成り立ちなどについてを二人に語りました。
「昔からこの街では人と人魚が共生していたんだけどね、遠い国で人と人魚の切ない恋物語が誕生してからは、人魚を一目見るためにこの街へやってくる観光客が増えたらしいわ。お義母さまもその物語がお好きらしいから、そのおかげでお義母さまは私達の結婚をすんなり認めてくれたのよ」
「そうやって有名な観光地になったんですね」
「そうよ。そして観光客に対する宿屋とかで儲けたおかげで、ベルシン商会はとても大きな商会に発展したのよ」
「そうなんですね。ちなみにその物語はベルシン商会で売っていますか?」
「私の持っている本を貸してあげる。読んだら感想聞かせてね」
里に居た頃、娯楽に触れることを許されていなかったフォールは、初めて聞いたその物語に対して興味津々な様子を見せました。そしてフォールの様子を見たクラシベスもまた、嬉しそうにうなずくのでした。
その後は漁港や商会などを見て回り十分に観光を堪能し、歩き疲れたとことで宿泊場所についての話し合いになります。
「二人とも、もしよかったらうちに泊まらない?」
「なりません!」
「良いじゃない。いつもレイラと二人だから少し寂しいのよ」
「ご迷惑でなければ」
「え、俺も?」
レイラは気まずそうなリッタを警戒して厳しく睨みつけていますが、二人の泊まる場所が無事に決まりました。
しばらくしてたどり着いた家は十分な広さ、大人三人と子供が複数人住んだとしても問題ないほどの空間を有していました。
「つかぬことをお聞きしますが、結婚してから何年ほど経ったのですか?」
「十年くらいかな」
その返答に二人とも思わず黙り込んでしまいました。なぜなら、結婚してからある程度の年数が経っているのに、家の中から子供の気配を感じることができなかったからです。
「どうしたの、急に黙って。ああ、大丈夫よ、子供のことなら気にしてないから」
ぎこちない笑顔とともに吐き出されたその言葉に慣れを感じてしまった二人は、本心からの言葉だと思えず、やはり沈黙することしかできませんでした。
「どうしても子供が出来ないの。だから養子を貰おうかって話をしているんだけどね」
「そうなんですか」
結婚なんて、どこか縁遠かった二人にとっては難しい話題で、二人とも気の利いたことなんて言うことができませんでした。
しかし人の心を解さない狼は遠慮など持ち得ず、容赦なく思うがままに言葉を吐き出します。
「染色体の本数が違うからな、子を為し辛くとも仕方あるまい」
「「ルディ(様)!?」」
「なんだその失礼な言い方は!」
「いいの、大丈夫よ。もっと酷い言い方されることもあるから。石女だって噂されたりね。その、染色体…?のせいだっていうなら、わたしのせいでも、彼のせいでもないんでしょ?そう言ってくれるだけ嬉しいのよ。…ところで、誰の声?」
本当に言葉通り平気なのか、二人はその貼り付けたような笑顔からクラシベスの感情を読み取ることはできませんでした。
しばらく家の中で過ごした二人は気が付いたことがありました。それは、家の中の空間は余りに広く、家の中でただ暮らす時間はあまりに長いということでした。
そのせいで、僅かな間を過ごした二人にも、ここで暮らしているクラシベスの寂寥や孤独が伝わってくるようでした。
「いつもはどのように過ごしているのですか?」
「普通に生活をしているわよ。たまに海に泳ぎに行ったり、お料理をしたり、他にも編み物をしたり。後は海の神様に主人が無事に帰還することを祈るくらいね」
平和な生活を語るその表情は、その人魚の生活に対する満ち足りなさを感じさせるものでした。




