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車椅子の女性が二人に話しかけることに嫌な顔を見せていた付き人の女性は、ひざ掛けをまくって下半身を見せたことを確認すると怒りを露わにしました。
「若奥様!困ります!こんな身元のわからない者達に、そう易々と肌を見せてはなりません!」
「ちょっと、レイラ。そうガミガミ言わなくても良いじゃない。あなた達もそう思うわよね?」
そう言って二人に話しかけてきた壮年の人魚の気質は、出会ったことのない類のものだったので、どのように応対するべきなのか、二人は迷っていました。
「人魚って陸地でも暮らせるの?」
そのせいもあって、普段通りの口調で話しかけたリッタに対して、付き人の女性は恐ろしい形相で怒鳴ってきました。
「おいお前!若奥様に失礼な口を聞くな!」
「す、すみません」
怒鳴りつけられたリッタは、そのあまりの気迫に謝ってしまいました。そして気押されたリッタに代わりフォールが会話を続けます。
「申し訳ありません。よくわからないのですが、えっと」
「クラシベスよ」
「クラシベスさんは、その、偉い方なのですか?」
「偉くないわよ」
クラシベスの謙遜する言葉を聞いた付き人の女性は、大きな声で否定をします。
過ぎたる愛、過ぎたる忠誠心は彼女を視野狭窄に陥らせているようでした。
「そんなことございません!ベルシン商会の現会長のご子息であるミハイロ様の奥方であるクラシベス様は、いずれベルシン商会の会長夫人となられるお方、つまり立場あるお方なのです」
「ごめんね。この子ちょっとだけ頭が硬いのよ。そもそも、うちの主人は勘当されて今は漁師をやっているから、私はベルシン商会とは何の関係もないのよ。それなのにわざわざ私に付き人を派遣して…。そんなことよりも、私はあなた達のお話を聞きたいわ」
「私達の話、ですか?」
「そうよ。馬鹿にしているわけじゃなくて、口調とか所作からしてあなた達って家柄とかも違いそうでしょ?だからどうゆう関係なのか、気になっちゃって。私の予想だとお嬢様と従者の駆け落ちとか、ずばり愛の逃避行でしょ?」
自信に満ち満ちた回答は、あっているとも大きく外れているとも言い難く、黙り込んでしまった二人の様子を見て、踏み込みすぎたせいで距離を取られたのだと思ったクラシベスは、反省をして自分に関する話題に転換します。
「私の話を先にした方が話しやすいかしら?そうねえ、私達の出会いは船上の彼に対して私が一目惚れしたのがきっかけだったのよ。まだ若かった彼は本当にきれいな人だったのよ。その後、いろいろあって船が沈没して、溺れていた彼を私が助けたのだけれど、彼ったら気を失っていてそのことを憶えていないのよ。ひどいと思わない?それからいろいろあって彼との交流が始まったのだけれど、人間と人魚では暮らす場所や文化が違うから、結婚に至るまでは色々と苦労したのよ。ご両親との挨拶では…」
怒涛の勢いで語られる馴れ初め話に対して、あまり興味を示さないリッタ、興味を示すフォール、聞き慣れており微動だにしない付き人、三者三葉の反応を示しました。
その後、満足するまで語ったクラシベスは、ようやく話すのを終えると二人を観光へと連れ出そうとします。
「いけない、ずっと話してちゃ駄目よね。ところで、二人ともこの街は初めて?」
「はい」
「じゃあ、私が案内してあげる」
「はあ」
どうしても二人の世話を焼きたがるクラシベスに対する付き人のため息を合図に、彼らは歩き出しました。
二人はクラシベスが何故ここまで自分達の世話を焼こうとするか疑問に思いながらも、この街にいる間は彼女とその付き人のレイラと過ごすことになりました。




