3-4
「ごめん、私旅に慣れてなくてちょっと体調悪いかも」
山に登る当日の朝になって訪れたオドレイの体調不良により、急遽二人と一匹で登ることになりました。
頻繁に噴火しているにも関わらず、入山には制限がなく普通に見送られたことに驚きながらも、二人は何を聞くべきか考えていました。
「神様なんてほんとにいるのか?前の国ではそれらしいのなんて居なかったし」
「作法は習ったものと同じなんでしょうか?」
どこかずれた疑問を浮かべながら二人は山を登りました。
「火口に近づくって危ないのでしょうか?すごく暑そうですけど大丈夫なんですか?」
「溶岩に触れたら熱いが、標高の影響で気温はむしろ低い。それよりもガスと気圧に気を付けるべきだ」
狼の忠告に従い高山病を防ぐために一泊して再び登り、特に何の問題もなく火口付近に到着しました。
「着いたけど、ほんとにいる?」
「いるのじゃ。それで何をしに来たのじゃ、人好きの狼。まあ、お主の相手は他の奴らよりかなりマシじゃから構わぬが」
気配も音もなく、気が付くと老人のような話し方をする幼げな見た目の女性のドワーフが現れました。
「お願い申し上げます、王様のためにもあのような儀式をやめさせていただけないでしょうか?彼はとても辛そうでした。彼のためにもお願いいたします」
彼女こそが崇められている火の神だと判断したフォールは、かつての自分と似た境遇で異なる覚悟を持った王様を尊敬しているのか、あわれんでいるのか、嫉妬しているのか、理解できないままに懇願をしていました。
「ちょっと待った、俺達は理由を聞きに来ただけで止めさせに来たわけじゃないでしょ。確かに王様は辛そうだった、けれど勝手に止めるのは王様の覚悟に失礼だと思うよ」
「あの儀式の理由を聞きに来たと、そんなの儂の好みじゃないからじゃ」
儀式を止めるつもりはないのか最初の懇願を無視し、あまり理解をしていない様子の二人に対して理由についての詳しい説明を続けます。
「髭の生えたガタイが良い男よりも、髭の生えていない華奢な男の子が好きなのじゃ」
「この雌はドワーフにも関わらず、ドワーフらしからぬ美醜の価値観を抱いて生まれたのだ」
「大変だったのじゃよ。顔がいい男を王に仕立て上げて、肉体労働ができないようにしたおかげでガタイがちょうど良くなり、顔がいい男と女で交わらせたおかげでわし好みの容姿になり、もっと堪能するために髭を剃らせたのじゃよ。つまりあの儀式は単に儂好みの男を作るためのものじゃ」
様々な者の尊厳を踏みにじる行為を悪びれない態度に、ムッとしたフォールは言い返しました。
「けれど王様は傷ついていました」
「これでもマシになった方なのじゃ。週一ぐらいに剃らせてた男は気が狂ってしまってのう、年一程度で我慢してるのじゃよ」
しかし、そんなことも意に介さず、自らを正当化する発言しかされませんでした。
「かつては儂もこの国に住んでいたのじゃ。その頃に望んでもいない子作りをさせられたのじゃから、儂を守らなかったこの国にやり返すついでに少しくらいいい思いをしてもいいじゃろ」
「だからってそんなの、あんまりじゃないですか」
「お主、儂の同類じゃろ?その狼の巫女ということは生贄じゃな。お主は彼氏に守られたからそんな偽善が言えるだけじゃよ」
かつては自分の境遇を嘆いており、今はその役割から逃げ出したことに罪悪感を抱いているフォールは、何も言い返せませんでした。
二人と一匹は何も解決することが出来ないままに山を下りることになりました。
「どうだった?」
帰ってきた二人を迎え入れたオドレイにも明るく返事をすることもできず「私達の力じゃ、どうしようもできませんでした」諦めの感情とともに吐き出された言葉は、滞在の終わりを意味している言葉でした。




