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一夜明け、髭剃りの儀が始まる日がやってきました。
「今日の昼頃から始まるから楽しみにしてろよ」
「噂だと火口に剃った髭を投げ入れているらしいけど、そこまで見に行けないからね」
ヴァレリオとその妻、グレタの解説に興味をそそられますが、なかなか儀式は始まらず、今か今かと待ち侘びて過ごしていると、にわかに屋外が騒がしくなりました。
二人がその声に慌てて外に出ると、王様と数名の護衛が山を登り始めている様子が見えました。他のドワーフよりも幾分華奢な王様は髭を蓄え、己の使命を果たすために山の頂上を見据えています。
「フェデリコ様ー、無事戻ってきてくださーい」
そんな王様を見送りにきた多くのドワーフが声援を送っていました。
王様が見えなくなったところで、儀式について聞きたいフォールが質問をします。
「どのようになったら儀式が成功なのですか?」
「さあ?儀式が終われば、よさそうだったらそれを祝って飲んで、悪そうだったら嫌な気を吹き飛ばすために飲んで騒ぐんだけだからな。成功とか失敗とか考えたことねえや」
答えにもなっていないし飲みたいだけではないか、三人はそう思いながらも口には出しませんでした。
「とりあえず今日は山の中腹より少し上にある山小屋に泊まって、明日の昼頃に火口に到着して、夜に帰ってくる予定らしいから、それまではのんびりしてな」
残された彼らは王様の帰還を待つほかないため、ゆっくりと過ごすことになりました。
待っている間に鍛冶の体験などをして過ごし、王様が帰ってくる予定の夜がやってきました。
そろそろ帰ってくる頃合いではないか、そう思いながら晩御飯を食べていると唐突にデュポン山が噴火したのです。
「山が噴火していますけど、儀式は成功ですか?」
「さあ?そんなことより王様は無事か?」
想定外の事態に驚きながらも外に出ると、夜の闇に紛れて山を下りてくる人影がありました。
「私は暗くてよく見えないんだけど、二人は見える?」
「俺は見えましたけど。フォールも見えた?」
その言葉にフォールは頷きました。夜の闇の中、二人が目にしたのは儚げな少年のような姿をしたドワーフ、その正体は先日まで蓄えていた立派な髭を失った王様でした。
「そうか、見えちまったか。きっとお前達が見たのは、髭を剃った王様の御姿だ。見ていられない、おいたわしい御姿だろ?」
ヴァレリオがため息をつきながら聞いてきたその言葉の意味を二人とも理解できませんでした。
なぜなら夜の闇の中に見えた王様の顔立ちは、二人にとって綺麗なものだったからです。




