覚醒したモザイクの男
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何か瞼の外が明るい......また俺は死んだのか? まぁそりゃそうだよなあんだけの攻撃を受けたんだ、あのクソ女神に貰った才能も焼け石に水だろう。
というか体がヤケに重いな......死後ってのはこんな世界なのか━━?
「......きて......起きて......」
「んんっ.....」
「おはようご主人......」
俺が思い瞼を開けるとそこに映ったのはまるで宝石のような輝きを放つ黄金色の瞳で俺をジッと見つめ、右目近くの涙ぼくろが特徴的な黒髪ボブカットの少女だった━━。
「君は.....誰だ......? 俺天国でこんな子指名した覚えは......」
そう言うとその少女は目をジトっとしながら頬を膨らませる......。
「えっ......ご主人は私の顔を忘れたんだ......」
「え......誰......?」
「私......ヨルだもん......」
「へ......? 俺の知ってるヨルは焼いたマグロと俺のケツの匂いが好きな黒猫でこんなソシャゲに出てきそうな子じゃ......」
その子の顔をよく見ると、黒髪の間から猫の耳みたいなモフモフしたものがニョッキリと生えている。
そして首元には俺が昔買った首輪と同じ柄チョーカーが巻かれていた━━。
「そのチョーカー......」
「コレは私のたいせっ......。それよりご主人の癖に可愛いとか言うのやめて......恥ずかしいじゃん......」
一体なんなんだこのツンデレは......まさか鶴じゃなくて猫の恩返しか? "つじ亜やの"が主題歌のやつか!?
「君は......本当にヨルなのか......?」
「そうだよ......ご主人のことは何でも知ってる。馬刺しが好きなことも私のお腹の匂いが好きなことも、この世界の勇者達に散々虐められて悲しい思いをしたことも━━」
「っ......! そっか......本当に......」
俺はその言葉を聞いて思わずその子を抱きしめる。
すると彼女から放った匂いが鼻をくすぐり、その落ち着く香りはヨルであることを完璧に証明していた。
それが分かった瞬間俺の目から自然と涙がボロボロ溢れる━━。
「ヨル......本当にヨルなんだね......! 良かった......生きていてくれて本当に良かった......!」
「ちょっと......涙で肌濡れちゃうよ......。それに私今裸でとっても恥ずかしいんだからやめて......」
「ああ.....! ごめんっ!」
俺は我に返って咄嗟に体を離し、自分が唯一身につけていたボロボロの下着をヨルに羽織らせる。
「......ご主人のエッチ......」 プイッ
「ばっ.....ちげーよ! 誰が飼い猫なんか......にぃ......?」
とは言ったものの俺の服を彼Tのように着こなすヨルをチラチラと見てしまう。
猫耳にお尻からは黒い尻尾、そして正に猫のような美しいスレンダーな曲線と程よい胸の膨らみ、そして艶やかな黒髪とは対照的なほど白く美しい肌は絶賛思春期童貞である俺にとっては破壊力抜群のものだった━━。
「やべっ......俺のアキラが100%になっちまう。それより何でヨルはネコ娘に成れたんだ? サイゲェムスのソシャゲとコラボでもしたのか?」
「違うに決まってるじゃん......。女神様に次の世界ではご主人と同じ目線で過ごしたいってお願いしたらこの姿に変身出来るようになった」
「そういうことだったのか......。でもさ、それなら何故今までその姿になれなかったんだ?」
「それは.....ご主人の才能が”覚醒”することが条件だって言われたの。猫から人へ成る私の願いは大きすぎるから家族であるご主人に条件を託すと━━」
「なるほどな......どうりでヨルの願いが俺の分まで消費させられるし覚醒するまでの間地獄だったワケだ、まぁそれより何より無事でよかったよ。しかし俺のこの身体は一体━━」
俺は自分の体を見回すと勇者や羊頭にやられた傷は完全に回復し、見た目はただの小島よ○おになっていた━━。
「と......とりあえずブーメランパンツを手配しないと即逮捕だな。あ、でも金すらないんだった......これからどうすれば良いのやら......」
俺は悩みを共有しようとヨルの顔を一瞬チラッと見る━━。
「もしかして......私斡旋される......?」
「そんな事する訳ねーだろ! 俺は吉○興業の後輩芸人か! ていうか元ネコ科の癖によくそんな言葉知ってるな。まあいいや......それより此処って一体何処なんだろうな......?」
「それが......ご主人をおぶって適当に歩いてたから私にも━━」
「おうおうなんだぁ!? コイツこんな道端に全裸で寝てるぞ? 酔っ払いか? これじゃあ追い剥ぎにすらならねぇなぁ!」
「たしかに。でも情けない格好にしちゃ良い女連れてるなぁ」
そう言って林道の脇から現れたのは世紀末みたいな肩パッドを付け、上半身はほぼ裸という如何にも柄の悪そうなスキンヘッドと普通の服を着た複数人の取り巻きだった━━。
「そうだよ、俺は見ての通り小銭どころかパンツすら持ってない......だからさっさとどっかに行ってくれ。俺の息子はこう見えてシャイでね、銭湯以外でジロジロ見られるとまともにオシッコすら出来ない程縮こまっちまうんだ」
「バカか! テメェのイチモツなんざに興味ねーよ! 俺達はお前の隣にいるその可愛い可愛い獣人に興味があるんだ。輝く黄金の瞳に綺麗な顔......そそるねぇ......。殺されたくなかったらさっさとソイツをよこしな」
奴らは腰から青龍刀の様なモノを取り出し、ニヤニヤししながらヨルへと近づく━━。
「嫌......来ないで......!」
ヨルは爪を立てながらスキンヘッドを威嚇するがヤツは対照的にただニヤニヤとしている。
「へへへへへ......そんな可愛い顔で見つめるなよ、今すぐ犯したくなっちまうじゃねぇか」
「まぁ待てよアウトロー。その見た目と下品な面は出る物語を間違えてるぞ? もっとこう......百裂拳とかやる世界でイキったらどうだ?」
俺はヨルを守るためオトコ達の前に立ち塞がる。
しかしこの世界の人間共はこんな奴らばっかりなのか? 人権は無いし弱いものは徹底的に搾取される......やっぱり最低最悪の世界だ━━。
「そこをどけや全裸のクソガキ、痛い目に遭いたくないだろ? だったら大人しくソイツを渡すんだな。そいつはボスへの手土産にするからよぉ!」
「ダメダメ。彼女を引き抜くにはコンカフェオーナーの許可が要るんでね、それ以上近づくなら出禁だけじゃ済まないぞ。お前のボスにクレーム入れてカスタマーハラスメントしてやろうか?」
「ハァ? 何言ってんだお前? 武器どころか服すら持たないお前に一体何が出来るんだよ? お前は大人しくここらの山を仕切ってる俺様の剣で死んどけやぁぁぁっ!」
俺が半ば八つ当たり気味で挑発するとスキンヘッドの男が青龍刀を思い切り俺に振り下ろす━━。
カ゛キ゛ン゛ッ━━!
「なにっ......!」
奴の青龍刀は俺の腕に当たった瞬間、ポッキリと折れて刃先が地面に突き刺さる━━。
「この鋼の刀を素手で......! お前ぇ......ナニモンだ!」
「鍛え方が違うんだよ。お前も勇者に女を寝取られればこうなれるさ」
とりあえずこの身体の硬さでヤツをブン殴れば気絶させられる事も可能だろう、しかし今は攻撃よりもヨルの安全を最優先するために脅しだけしてこの場から逃げるのが先決だ......。
そう考えた俺は拳を構え、ヤツの次の動作を探る。
「なんだぁてめぇ......やんのか......?」
「やってやるさ......流石に全裸で死ぬのは"腹上死"よりも恥ずかしいからな」
「ふざけやがって......死ねぇぇぇぇっ!!!!」
鬼の表情で襲いくるヤツをスローモーションで捉え、こめかみを掠める位置で拳を放った瞬間━━。
......ス゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛━━!
「えっ......?」
凄まじい轟音と共に衝撃波と突風が発生し、スキンヘッドの耳と目と鼻から大量の血が流れる━━。
「ク゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ......! い゛て゛ぇ っ......!」
「お......おい......一体何が起こりやがった......!」
「い......今のは魔法か......!?」
「冗談じゃねぇぞ......なんなんだよ......あれっ.....!」
ビビる男達の背後に見えたのは......拳の形で抉られ無惨にも更地と化した"山"だった━━。
「ご主人......」
俺の放った一撃に皆驚いているが正直1番驚いてるのは俺の方だった。
「これは......どゆこと......?」
* * *
俺の身体は今までダメージが半減されるだけで攻撃力なんてまともに無かったはず......でもそれなら今のはなんだ━━?
「もしかして......気絶する前に聞いた"覚醒"ってこういう事なのか?」
予想が正しければ俺の身体は覚醒を遂げた事によりとんでもない攻撃力を手に入れたのかもしれない。
例えば今まで受けた総ダメージ量を最大値とし、一撃一撃がそれに匹敵する攻撃を行えるようになったとか......?
そうでもないとあんなデカい山を一撃で幹線道路みたいに出来るほどの破壊力に説明がつかない━━。
そう考えるとこれまでのダメージの半減というのはそれ相応の攻撃を行えるようにする為の超絶鬼畜な身体の土台作りだったのか━━?
「へっ......あの不摂生女神はとんでもないモノを俺に与えたのかもしれないな......」
「て......てんめぇふざけやがってぇぇ......。お前人間じゃないだろ! 本当の正体を言いやがれっ!」
耳から血を仲間していたスキンヘッドは、ふらつきながら立ち上がると全裸の俺に折れた青龍刀を構えて攻撃に備える。
そして俺は股間を手で隠し、モザイクに備える━━。
「お......俺の名前はえっと......その......とにかく明るいヤツ村だ......! 趣味はイギリスのオーディション番組に出る事さ」
サトウタケルだなんて言ったら勇者一行に居たヤツと思われかねないからな......ココは一旦裸っぽい偽名で通そう━━。
「ヤツ村だと? なんだそのヘンテコな名前はふざけてんのか!? 今の技からしてインチキ臭えしここで確実にお前を殺す━━!」
また"殺す"か......俺はこの世界に来て何回殺されれば良いんだよ......この世界ではそんなに俺の命はお粗末なものなのか? もううんざりだ━━。
「つくづくこの世界の人間は物騒だ......何か気に入らなければすぐに死刑だ処刑だ殺すだの中世のヨーロッパ以上に人権が無いようなもんだ。俺は今まで良いことをすれば自分が犠牲になれば必ず誰かが評価してるって思ってた......だがそんなものは幻想だと痛感したよ。だったら俺も郷に従うべきだよな......ドブに嵌められた弱い人間に生き残る資格などないと━━」
俺はゆっくりスキンヘッドに近づくとヤツは必死に虚勢を張る━━。
「く......来るなぁっ! 本当に殺すぞ!?」
「ああ殺してみろよ......。だがその折れた聖剣を俺に突き立てた瞬間お前は背後の山みたいなUの字になるけど文句は無いよな? なんせ文字通り無防備な人間を先に殺そうとしたのはそっちだ......それは殺される覚悟があっての蛮行だよな?」
俺は半ばこの世界への八つ当たりの気持ちで脅すとヤツは地面にへたり込みながら後退る━━。
「いや......ま......待ってくれ! 俺はそんなつもりじゃ!」
「大の大人が泣きべそかくな、俺は勇者や魔人から死ぬ寸前まで追い込まれてもべそ一つかかなかったぞ。まあいい、その涙に免じて今から3回俺が攻撃してアンタが耐えれたら許してやる......俺も覚悟を決めたとはいえ人を殺すのには少し抵抗があるんでね━━」
俺は今までサンドバッグにされ続けて来たので人間はおろか魔人や魔物すらこの手で殺したことが無い。
だからよくある異世界の連中みたいに簡単に何かを殺す事には怖さと若干の後ろめたさがあった━━。
「わ......分かった......でも一体何をするんだ?」
「殴ったら1発でああなっちゃうからね......とりあえずデコピンかな」
「デコピンだと......お前俺を馬鹿にしてんのか......?」
「してるよ。お前だって俺を全裸の変態と馬鹿にしたんだからイーブンだろ? それに俺はまだこの身体に慣れてないんだ......もう一回殴って山の生態系をおかしくしたらそれこそ国中から指名手配されちまう。だから先ずお前で力加減を練習させてもらうんだよ━━」
俺は左手の中指と親指に力を入れる━━。
「じゃあ1発目━━」
「ま......まて......!」
「あぁ1発じゃ足りないのかーい」
「な......なんの歌歌ってんだ......!」
「Tik○Tokでちょっと前に流行った歌だよ」
「てぃっく......? なんだそ━━」
ピンッ......!
「ばべっ.......」
ス゛シ゛ャ゛ァ゛ッ━━!
「「ゲ......ゲルドさん......!」」
スキンヘッドの男は首から上が消し飛び、血が噴水のように首から大量に吹き出して全裸の俺に降り注いだ━━。
「ご......ご主人......」
「やばいよ......ヨル......俺遂にやっちまった......」
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