離れに来た女は何の子供を産んだのか?
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。
夫 フランク
妻 マリリン
子 ジョン (産まれていない場合もある)
子 ジャッキー (産まれていない場合もある)
子 ダンク (産まれない場合もある)
上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。
一話完結なのでどの話から読んでいただいても大丈夫です。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
「えっ?冗談ですよね?!」
「すまない。本当なんだ」
「私というものがありながらどうして?!私、許せないわっ!!」
「まって、待って!!まず、話を聞いて!!」
フランクは焦ったように私を必死に宥めるが、私はそれどころではなかった。
「カントロール公爵家の四女、マリアルーノ様のことは知っているだろう?」
「噂しか知りませんが・・・」
「カントロール公に預かって欲しいと頼まれたんだ」
「マリアルーノ様を愛妾にされるのですか?!」
「いやいやいや!!違うからっ!カントロール公に再婚話があるらしいんだが、マリアールノ様が嫌がっていて、家を出るといい出したらしくて、何処かわからないところにいかれるくらいなら、我が家に預けようとお考えになったらしくて・・・」
「いつまで預かるのですか?」
「マリアールノ様がご結婚されるまでの一年ほどの間と聞いている・・・。それに、使用人も全て公爵邸から連れてくるそうだから、私達は屋敷を貸すだけのことなんだ」
「ですが、いい方向に向くとは思えません。他所様の揉め事に関わっていい事はありませんよ」
「だが、既に決まったこととして私に話が来たんだ・・・断れないんだ」
フランクは沈痛な顔をしているが、私の内心はもっと複雑だった。
一年ほど前、フランクが遠征で半年ほど家を開けた時に一人の男を拾った。
この国では珍しい黒髪に黒い瞳、少し尖った耳に、肌の色は褐色。彫りの深い精悍な印象の男が背中を切り裂かれて屋敷の敷地内に紛れ込んでいた。
最初は本邸の客間に入れて、治療していた。私はフランクがこんな目にあっていたらどうしようと、甲斐甲斐しく男の世話をしていた。その甲斐があったのか、男の怪我の具合は目に見えて良くなっていった。
最初に言葉を交わしたのは「私のことは誰にも言わないでくれ」と言うことだった。
「暫くの間でいい、ここに置いてくれ」
言っていることはお願いだったが、男はとても不遜だった。
フランクが居ないなか、私に判断はできなくて「誰にも知らせないので、出て行って下さい」とお願いした。
その男は立ち上がれるようになると本当に出て行ってくれて、ホッとしていると、知らぬ間に離れに住み着いていた。
メイド達を誑かし、必要なものは本邸から運ばせていた。
それを知ったのは男が出ていった日から一ヶ月以上が経っていた。
着替えなどは、メイド達に貢がせたようで、我が家の離れで、主のような顔をしていた。
執事のサントスを始め、男性使用人に出ていくよう何度も言いに行かせたが、男はこちらの話は聞いてくれないまま、今も住み着いている。
私も何度か男に会いに行き、出ていくよう頼んだある日、腕を掴まれ腰を抱かれてしまった。
抵抗も虚しく、男に好きにされてしまい、その姿をメイドに見られてしまう。
そしてそのメイドが言ったのは「これで奥様も私達の仲間ですね」だった。
私は男の力に敵わず、無理矢理体を開かされたのだと自分に言い聞かせたけれど、私は三日にあげずに男の下に通うようになっていた。
メイド達にクスクスと笑われ、時には抱いてもらえず、メイド達と戯れているのを「見ていろ」と命令され、私はドレスを握りしめて物欲しそうに眺めているしかなかった。
何度も男に抱かれ、抱いてもらえずに屈辱を味わわされ、それでも男の下に通わずには居られなかった。
遠征から帰ってきたフランクに愛され、あの男のことは一時の気の迷いだったと自分に言い聞かせ、フランクを何度も求めた。
フランクはそんな私を喜んでくれ「早く子供が欲しいな」と私の額にキスをして、眠りについた。
火の付いた体はフランクに愛された程度では収まらず、あの男が欲しくて離れへと向かってしまった。
「亭主では物足らなかったのか?」
「お願い。抱いて」
男を口に含むが、男は全く反応を示さなかった。
「つまらない女だ。まだ、ステラの方が私をその気にさせる」
私より十歳は年上のメイドのステラと比較され、それ以下だと言われ私は屈辱に震えた。
クツクツと笑われても、この男が欲しくてたまらなかった。
「娼館にでも行って男の喜ばせ方でも教えてもらってきたらどうだ?」
気が狂いそうになるほどに男を欲したが、その日から一度も相手にされなかった。
男に「離れを使うことになったから出て行って欲しい」と言ったが、聞きいれてはくれないまま、公爵家の使用人達が準備のために離れにやって来た。
遂にバレてしまうわ。
恐ろしいような、ホッとするような複雑な気持ちになりながら、公爵家の使用人達は離れに向かっていった。
それから数日経ったけれど、公爵家の使用人たちは誰も男のことは何も言ってこず、マリアルーノ様がやって来た。
「この度は私のわがままを聞いていただきありがとうございます。なるべくご迷惑をおかけしないようにいたしますが、よろしくお願いいたします」
「困ったことがあったら何でも言って下さい」
マリアルーノ様はまだ十七歳で線は細いのに女性らしい体つきをしていた。
フランクの視線はマリアルーノ様をなぞり、頭の中で服を脱がせているのがまるわかりだった。
その日の夜、フランクはマリアルーノ様を抱いていると想像しながら私を抱いた。
けれど、私はいつ男のことがバレるのかと気が気でなくて、フランクのそんな思いは気にならなかった。
一週間ほどした時、マリアルーノ様とお茶を飲んでいる時「恥ずかしい話なのですが」と切り出され、話を聞いてみると「黒髪に黒い瞳、少し尖った耳に、肌の色は褐色。彫りの深い精悍な印象の男に抱かれる夢を見るのだ」と顔を赤くした。
「私に子を産ませたいと言って毎夜、抱かれる夢を見るのです。それがなんだか生々しくて、朝起きると体がだるかったり、体に何かが挟まっている様に感じるのです」
「それは・・・本当に誰かがいるのでは・・・」
「いえ、違います。本当に夢なのです。それは間違いありません。・・・私、欲求不満なのかしら?」
マリアルーノ様は夢だと言い続けて離れへと帰っていった。
私のことは抱いてもくれないのに、マリアルーノ様には子を産ませたいってどういうことなの?!
子供なら私が産んであげるのにっ!
そこまで思考して、男を探しに行こうと離れに向かいかけると、公爵家の使用人がやって来て「離れには来るなと彼の方が仰っています」
そう言って私を離れに近づけなかった。
「あなた達も・・・」
「私達も愛されております。ですが、彼の方が望まれているのはマリアルーノ様でございます」
私は悔しくて涙を流しながら本邸に戻った。
フランクにどうしたのかと何度も聞かれたが、言えるはずもなく、フランクに慰められ続けた。
腹立たしくて、離れにも行けず、マリアルーノ様にも合わずに半年が過ぎた頃、遠くから見かけたマリアルーノ様は大きなお腹を愛おしそうに撫でていた。
いくらなんでも半年ほどであそこまで大きくなるものなの?!
まるで産み月のように大きなお腹で、幸せそうにお腹をさすっていた。
私が近寄っていくと、公爵家の使用人達に阻まれ、マリアルーノ様には会わせてもらえなかった。
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少し、眠るのが怖い。
知識で知らないことを夢に見る。
あんなはしたない夢を見るなんて、私はどうかしてしまったのではないかしら?そう不安になる。
使用人に相談しても「思春期にありがちな極普通のことだから気にしなくてもよい」と言われるけれど、夢で体に違和感を感じるなんてことがあるのかしら?
子が出来るまで、この夢は続くのだとわけもなく信じてしまっている自分がいた。
「ごゆっくりお休み下さい」と使用人に言われ扉が閉じられる。
眠りに落ちたと気がつく前に男は現れて私の夜着を取り除いていく。
口付けられ体中を愛撫され、一つになる。
夢の見始めの頃は痛みを感じていたけれど、今はもう痛みは感じない。
男は果てても蓋をしているように私の中に居続ける。
「あぁ、妊娠したな。それも双子か」
「えっ?」
「私の子を大事にしろ」
「はい・・・」
その日を境に男に抱かれることはなくなったが、二週間ほどで胎動を感じるようになった。
これも夢なのかしら?
妊娠していることが異常だと感じず、私はお腹の子を大切に思った。
日に日に大きくなるお腹に使用人達も驚いていたけれど、皆にとても大切に扱われた。
「彼の方もお喜びでしょう。もう、いつ産まれてもおかしくないほど大きなお腹になりましたね」
使用人達が嬉しそうに、愛おしそうに私のお腹を見つめる。
妊娠したと言われたあの日から、五ヶ月しか経っていなかった。
夢でしか会わなかった男が現にも現れ、私のお腹を愛おしそうに撫でる。
男が撫でるとお腹の中の子たちは喜んで私を蹴ったり叩いたりする。
それを見て男は喜び、お腹に声をかける。
「十分に育ったなら出てくるといい」と。
陣痛が起こり、あまりの痛みに夢ではないのではないかと思ってしまう。
男は私に口づけ「これは夢、幻だよ」と私に言い聞かせる。
「夢、幻・・・」
陣痛が始まってから三十分程で一人目の子が産まれ、更に五分後に二人目が生まれた。
「よく頑張ったな」
そう男は言って、私の頭を撫でた。
使用人が抱いて見せてくれた我が子は、額の少し上辺りに真っ黒で少し捻れた角が生えていた。
赤子は泣きもせず、乳を欲しがり二人同時に含ませると、すでに歯が生えていて、犬歯が異様に尖っていた。
歯を立てられ、痛みで声をあげると男が「母は人間だから歯を立ててはいけない」と赤子の頭を撫でた。
二週間ほど授乳すると、子供達は立ち上があり、喋っていた。
「我が子を産み、育ててくれて嬉しいよ。これで君の仕事は終わりだ」
男と子供二人の姿が消え、私は夢から覚めた。
体は重く、だるかったが、使用人達が口を揃えて「お嬢様は、もう半年も寝たきりだったのですよ」と言った。
お腹に触れても子が居るはずもなく、乳も出なかった。
あれは本当に夢だったのだろうか?
父と婚約者が見舞いに来て「やっと会えた」と二人して涙を流していた。
私は訳も分からず「ご心配おかけして申し訳ありません」と答えた。
父は家に帰るように言い、その日のうちに馬車に乗せられ公爵家へと連れ帰った。
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「マリリン、マリアルーノ様は結局何の病気だったか聞いたかい?」
「いえ、何も聞かされておりません。体調が戻り次第、婚約者の方とご結婚されるのだとか」
あの男はきっと人間ではなかったんだわ。
マリアルーノ様がこの家に来ることを分かっていて、ここの離れに住み着いたのね。
マリアルーノ様はあの婚約者で満足できるのかしら?
物足りなくて、あの男を求め続けるがいいわ。
私はあの男の子供を産んだマリアルーノ様が憎かった。
END