マリリンはフランクを愛していない。
設定
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。
夫 フランク
妻 マリリン
子 ジョン (産まれていない場合もある)
子 ジャッキー (産まれていない場合もある)
子 ダンク (産まれない場合もある)
上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
本当は離れに女性を入れる予定などない。
もしかしたら私を見てくれるようになるかもしれないと口をついて出てきた言葉だった。
「そう、ですか」
マリリンは遠い目をして私以外の誰かを思い浮かべているのか、気のない返事をする。
「私を受け入れられないなら離婚してくれないか?」
そう言うと、マリリンの焦点がやっと私に向かい、何度か瞬きをして、私の言ったことが理解できたのか、溜息を一つはく。
「マリリンは私のことなど愛していないのだろう?」
いつも遠い目をして私以外の誰かを思っている。そんな気がする。
「私は互いに思い合える結婚を望んでいるんだ」
マリリンは私と体を重ねるのが嫌なのだと、心と体が示している。
何度も口にする「いや」と言う言葉、掌で私の体を押し返す。時には拳で叩かれることもある。
そんな拒否にどれだけ私が傷ついているのかなんてマリリンは考えもしないのだろう。
「好きな人が居るのなら別れよう」
マリリンはまた息を吐き、私から視線を外した。
「私にも我慢の限界がある」
マリリンの視線は私に戻ってこない。
「政略結婚でもないのに、私はマリリンにどこまで馬鹿にされればいいのだ?」
「馬鹿になどしていません」
こちらも見ず、興味なさそうに溜息をつき、そう答える。
マリリンが私を馬鹿にしていると思うのは思い過ごしなのだろうか?
「私は結婚相手には愛されたいし、私を尊重して欲しいと思っている。思う相手がいるのなら、その人の下に行けばいい」
マリリンは唇を噛み締め、私を睨んだ。
せめて、私と対話する努力をして欲しい。
私は離婚届をマリリンの前に差し出した。
「サインしてくれ」
マリリンは離婚届を私の方に押しやりながら言った。
「好きな人でも出来たのですか?」
「今までの私の話を聞いていなかったのか?好きな人がいるのは君だろう?」
また黙り込む。
「サインしてくれ」
マリリンがペンを持ち上げる。サインするのかと思ったらペンを窓の方に投げつけ、離婚届を二つに破いた。
「離婚はいたしません」
「そうか・・・私と枕を共にする気もなく、心を通わせる訳でもない。私はマリリンとは一緒に暮らしていけない」
「・・・・・・」
私は敷地の端に人が一人だけ住める家を建て、マリリンにそこに住んでもらうことにした。
「君のために家を建てたよ。そこに一人で住んでくれ。離婚したくなったら教えてくれ」
マリリンは小さい家に文句を言い、私を罵ったが、離婚届にサインすることはなかった。
マリリンが何を思っているのか分からないが、私と愛を育む気はないのだろう。
マリリンに初めて出会ったのはお見合いの席だった。
マリリンの美しさに心を奪われ、何度かデートをして、マリリンの気持ちもデートの回数だけ確認した。
マリリンも嬉しいとはにかみ、承諾した結婚だったはずなのに、初夜ではっきり違うのだと分かった。
口づけをしようとしたらマリリンは唇を噛み締め、顔をそらす。
驚いてマリリンの名を呼ぶと「ごめんなさい」と言って私の首に腕を回す。
なのにまた、私を拒否する。
口づけを諦め、頬にキスをして胸に触れようとしたら「いや」と言われた。
拒否を示された瞬間に私は動きを止めマリリンに触れるのを止めた。
その途端マリリンは私に取りすがり「続けて」と言う。
歯を食いしばり、私に触れられるのを受け入れようとしていたが、マリリンは私を拒絶していた。
流石に続ける気が失せ、ベッドから降りると、泣いて私に取りすがった。
「ごめんなさい」
謝られた私は一体どうすればよかったのか。
嫌がっている者を無理に抱いたり出来ない。
「無理に今日しなければいけないものでもない。明日にしょう」
そう言って私は寝室から出た。
その後マリリンは私を誘うが結果は同じで、私は寝室に通うことを諦めた。
その後、私とマリリンは同じことを何度も繰り返し、枕を共にすること無く半年の月日が流れた。
私は結婚式を執り行ってくれた司祭様に現状を相談することにした。
「奥様のご実家に相談されてみてはいかがですか?」
「相談しました。あちらの言い分は縄で縛ってでも好きにしてくれたらいい、とのことでした。私は心を通い合わせたいのであって、無理やり体をどうにかしたいわけではないのです」
「そうですね。心を伴ってこその結婚ですものね。・・・三年。白い結婚が続くのなら、婚姻解消が出来ます」
「白い結婚?」
「はい。清い関係のままいれば、婚姻解消することが出来ます」
「三年、ですか。長いですね」
「そうですね。ですが、それ以外で離婚は難しいと思います。嫌がる者に無理にペンを持たせてサインなどさせられません」
「そう、ですね。分かりました」
私は司祭様に礼を言い、教会を後にした。
マリリンは社交には好んで付いてきたが、私達のよそよそしさに、不仲なのだと直ぐに噂が流れた。
すると今まで大して女性に関心を持たれなかった私に、女性が関心を持つようになった。
私は近寄ってくる女性を相手にせず、軽く流していた。
結婚して二年半が経つ頃、社交デビューをして間もないような若いアルストファという令嬢が私に告白してきた。
「お慕いしています。ご結婚されているのは知っておりますが、気持ちを伝えることを許して下さい」
鵜呑みには出来なくて、礼を言うに留めた。
「私はまだ婚姻中なので、君の気持ちは受け取れない。私のような者を思ってくれてありがとう。嬉しく思う」
アルストファとの生活をほんの僅か、夢見たが、現実にはマリリンがいる。どちらにも不実なことはできなかった。
マリリンとは結婚当初から週に一度だけお茶に誘う。
心が通い合えばこの結婚もなんとかなるのではないかとほんの少しの期待を込めて。
お茶の間、マリリンはずっと自分の境遇に文句を言うが、妻として私を思ってくれることはないままだった。
婚姻して三年の月日が経ち、私は教会に白い結婚であることを申し出て、婚姻撤回を申請した。
マリリンとその両親が教会に呼び出され、白い結婚であることが証明され、私達の婚姻は撤回された。
無駄な三年間だったと溜息しか出なかった。
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フランクに狭い家に押し込まれ、宝石の一つ、ドレスの一着も買い与えられなくなってしまった。
やっと結婚までこぎつけたのに、この結婚は想定外すぎる。
フランクは処女性を重く見るタイプのようで、初夜のベッド脇にはメイドが居て、処女の確認をするという。
安易に、初っぽくしていればいいと思っていたのに、それが叶わず、私の結婚はここで躓いてしまった。
愛だの恋だの子供っぽいことを言うフランクを鼻で笑っていられたのも、離婚を切り出されるまでだった。
枕を共にするくらいなら、いつでも受け入れられる。たとえ相手が誰であっても。
ただ、メイドに囲まれて受け入れてしまえば処女でないことが直ぐにばれてしまう。
血を用意することも考えたし、針で突く事も考えたが、じっと見ているメイド達をごまかすことが出来そうもない。
メイドを買収しようとも考えたが、フランクに忠誠を誓っているのか、誰も私に靡かなかった。
メイド達の間では私が処女ではないからフランクを受け入れられないのだと噂されている。
フランクだけは私に想い人がいると思っているようだけど。
本当におめでたい人だわ。
フランクとの結婚の前に私は一人、子供を産んでいる。
その子の父親は使用人で、ただ見た目が美しい男だった。
中身は使用人なのでどうでも良かったが、美しい男を自分の思うがまま動かしていることで満足していた。
知識が足らず、妊娠してしまい、気が付いた時にはおろすことも出来なくなっていた。
ただの火遊びが、両親に殺されるかと思うような惨劇になった。
両親に散々殴られ蹴られたけれど、子供はすくすくとお腹の中で育っていった。
生まれてきた子は私と使用人のいい所を受け継いだ、とても可愛らしい男の子だった。
生まれてくるまで両親は、孤児院にでも捨てる心算だったのだけれど、生まれてきた子の顔を見て父は育てると言い出した。
跡継ぎが居なかったので丁度良かったのもあったのだろう。
。
妊娠は想定外だったし、生まれてきた子など興味もなかったので、どうでもよかった。
両親は私のような失敗はしないと、今から教育計画を立てている。
子供など思うようになど育たないのに。
両親を哀れに思う。
週に一度、フランクにお茶に誘われ同席するが、私の状態を改善してくれる気はないようだ。
まぁ、働かずダラダラしていられるのはありがたいけれど、何の楽しみもない。
結婚したら、フランクのお金で散財する気だったのに本当に上手くいかない。
結婚式から三年が経ち、教会から呼び出された。
教会から呼び出されるような事に思い当たらず、首を傾げて教会へと赴いた。
教会の指定日に行ってみると、父もそこに居て、白い結婚の為、婚姻撤回をフランクが申し立てていると言われた。
婚姻撤回って何?と首を傾げていたら、司祭様が詳しく説明してくれた。
淡々と婚姻撤回の手続きが進み、私は狭い家に帰ること無く、父は家へと連れ帰った。
「お前は一体何をしているんだっ!」
父が激怒して私を殴りつける。
「結婚するまで散々足を開いていながら、何故亭主には足を開かんのだっ!」
「処女であることが重要だったのよ!!」
「なに?」
「今どき信じられないけど、ベッドの周りにメイドがずっと居て、誤魔化しようがなかったのよ。だから仕方なかったのよっ!」
「結局はお前の浅はかな行動がすべてを台無しにしたんじゃないかっ!!」
両親とのののしりあいは夜遅くまで続いたが、婚姻撤回が成されてしまってはもうどうしようもなかった。
「フランク殿からの援助がなければ我が家は食い詰めることになってしまう・・・」
父が頭を抱え、そう言った。
「三年間援助してもらっていたものを返さねばならない」
「フランク様にお願いして、返金を待っていただくことはできないのですか?」
母が父に取りすがり聞いているが、父は首をふる。
「婚姻前の契約があるんだ。結婚から五年以内に婚姻が上手くいかなかった場合は全額一括返金すると」
「そんな事聞いていないわよ!」
「マリリンが契約書に目を通していないだけだ。ちゃんと写しを渡した」
父がのろのろと立ち上がり、執事に屋敷の売却手続きをと伝えている。
「ここを売ったら私達はどこに住むのですか?」
「いくらで売れるかによる」
「そんな・・・」
屋敷を手放しただけではフランクに返すだけの金額に足りず、領地の多くを売り払うことになり、わずかに残った領地に建っていた、フランクが建てた家よりも小さなあばら家に私達は住むことになった。
執事やメイドは全員解雇してしまい、家の中のことを自分たちでしなければならなくなった。
冷たい水で真っ赤になった手を見て、昔の生活に戻りたいと何度も思う。
使用人なんかと寝るんじゃなかった・・・。
せめてフランクと寝るだけ寝てみれば良かった。
もしかしたら騙し通せたかもしれなかったのに。
泣き言を言いながら衣服を冷たい水につけた。
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マリリンとの婚姻が撤回され、私は仕事を頑張ろうと精力的に動いた。
仕事は思うように物事が進むのに、どうして結婚だけは上手く進まないのかと落ち込んだ。
半年ほどの時間が経ち、縁談話も持ち上がるようになってきた。
届いた釣り書に目を通していると、その中にアルストファの釣り書があった。
マリリンの失敗で、自分の見る目の無さに気づいてからは、調査を念入りにしてもらうようにした。
調査の結果、アルストファと後二人が候補に残った。
アルストファが残ったことが嬉しくて、もう結論は出ているのではないかと思った。
アルストファとその家をもっと深く調査してもらうことにする。
深く調べると、二〜三気になるものもあったが、結婚に際して問題になるようなものではなかった。
アルストファに会うことを決意し、会う日が決まった。
我が家にやってきたアルストファを見て、変わっていないと思った。
挨拶を済ませ、たわいない話をする。
アルストファの視線はずっと私に向いていた。
「私の気持ちは、あの時から何も変わっていません。どうか、私を選んで下さい」
「私は婚姻撤回っていう傷持ちだけどいいのかい?」
「はい。私は婚約破棄された傷持ちです」
「婚約破棄の事を聞いても?」
「相手の方に大きな借金があることが分かりました。その金額は返済が不可能なほどの金額でした」
「婚約者のことは好きではなかったのかな?」
「恋心のようなものはあったと思います。ですが、借金のことが発覚して話をしようとしても話にならなくて、それが続いて恋心も覚めてしまいました。確かにフランク様に近寄ったのは、打算もありました。ですが、婚姻に対する態度や私のことも真摯に対応してくださったことで、私にはフランク様しか居ないと思うようになりました。私をフランク様の特別にしていただけませんか?」
真っ直ぐすぎて私の方が目をそらしてしまいそうだ。
「正直、君は若くて、眩しくて、私が手にしていい相手だと思えない」
アルストファの眉尻が下がる。
「本当に私で後悔しないかい?」
「フランク様がいいのです」
「分かった。では、この話を進めようと思う」
アルストファが手を胸の前で合わせ、花がほころぶような笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
話を進めた途端に結婚の話になり、早々に結婚することで双方合意した。
ウエディングドレス姿のアルストファはとても美しく、やはり私には勿体ないと改めて思った。
初夜の際、メイド達はベッド脇に控えなかった。
後で理由を聞くと、マリリンにはおかしな噂があったのだと聞かされた。
結婚前に言ってほしかったと言うと、私に聞く耳はなかったと思われます。と言われてしまった。
回り道をしてしまったが、アルストファという伴侶を得て私は今、幸せだ。
HAPPY END
今回ちょっと苦しかったでしょうか?