治水工事のために愛妾を受け入れた旦那様を救います。
設定
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。
夫 フランク
妻 マリリン
上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
「・・・どういう意味でしょうか?」
「カルサンテス家の四女を愛妾として迎え入れなければならない」
「どうしてそんな事に?」
冷静に見える妻が凄く怖い・・・。
「モンサル川の治水工事をカルサンテス家と二分して行うことを王から頼まれたんだ。だが我が家には半分の工事を執り行うだけの金が無くて・・・」
「それで」
「我が家が負担すべき金額の半額をカルサンテスが出してくれる代わりに、四女を引き受ける約束になってしまった」
「それはどの程度詰めたお話になっているのですか」
「四女を離れに住まわせる。必要な費用はカルサンテスが出す。だ」
契約書に書かれている通り読み上げた。
「では白い関係でもかまわないのですか?」
「それはどうだろう・・・?」
「ランド!!」
妻が執事を呼ぶ。
「はい。奥様」
「カルサンテスをどこまでも深く調べてくれるかしら。特に四女の方のことも詳しく」
「かしこまりました」
「カルサンテスからは屋敷を整える為の金品はいただいたのですか?」
「いや、まだ何も・・・」
「あなたは愛妾として迎え入れたいのですか?」
妻の視線がとても冷たい。慌てて否定しないとどんな目に遭うかわからない。
「とんでもない!!」
「そう、なら、離れに放り込んで相手をすることはないわね?」
「そ、それが許されるのなら・・・」
「許されるように話を持っていかなくてどうするのですか!」
「申し訳ありません!!」
ビシッと直立不動になり、反射的に妻に謝罪してしまっていた・・・。
カルサンテス伯爵が我が家に四女のアススルを連れてきたのは話が出てから一ヶ月が経った頃だった。
調べた結果、歳は24歳。気位が高く、まるで自分は公爵令嬢だと言わんばかりの振る舞いをすると噂がある。
格上の人にも平気で言いたいことを言って、相手を戸惑わせるのは日常で、学園を卒業した頃から友人知人も居なくなっていた。
24歳になる今日まで、浮いた噂の一つもなく、夜会に招待されることすら最近はないとのことだった。
「カルサンテス伯爵、ようこそおいで下さいました」
妻が私の一歩前に出てその場を取り仕切ろうとする。
「私、フランクの正妻、マリリンでございます。以後お見知りおき下さい」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
席に付き、お茶が準備されて使用人たちは部屋から出ていく。ランドだけは妻の背後に立つ。
何故私の背後に立たないのか、言っても無駄なことなので何も言わず私は黙る。
「今回はカルサンテス伯爵には治水工事を助けていただいて本当に情けなく思っております」
カルサンテスとアススルは満足そうな顔をした。
「工事では我が家の負担の半分を引き受けてくださるそうでありがとうございます。どれほど感謝してもしきれません」
「お約束さえ守っていただければこちらはかまいません」
「ええ。勿論。離れにアススル様を住まわせるだけでございましょう?かかる費用等すべてカルサンテス伯爵が出されると伺っております」
「いやそれはちが・・・」
「ええ。ええ。伺っております。離れはすべての家具調度品すべて片付けさせました。現在建物のみとなっております。何時でも調度品、人材を入れていただいて結構です」
「それはっ!!」
カルサンテスは想定外に話が進んでいって驚いていることだろう。
「アススル様が住まわれるのに必要な工事もあるでしょうから何時でも作業員を入れていただいてもかまいませんよ。アススル様、安心してくださいね。決してフランクを離れに近付けたり致しませんから。いえ、フランクだけではなく、しっかり見張りを付けて、離れには一切男性が近づかないように致しますから伯爵も安心してくださいませ」
「それは違う!フランク殿にアススルの面倒を・・・」
「伯爵、そのようなことを口に出してはいけません。まだ一度もお嫁に行ったことのない娘さんを愛妾のような扱いにするなど以ての外でございます。私の目の黒いうちは絶対そのような心配はいりませんよ。お父様である伯爵のお気持ちはよく分かっております。可愛い娘に愛妾になれなどありえませんものね」
妻は何度も「解っています」と一人納得顔で言いながら物憂げな顔をしてアススルを見て憐憫の目を向けた。
アススルは妻の顔を見て腹に据えかねたのか口を開こうとしてカルサンテスが留めた。
「奥様はなにか勘違いされているようだ」
「あら、勘違いですか?」
「アススルを愛妾としてフランク殿に預けるのですよ」
「あら、ありえませんわ・・・」
「ありえない?」
「妻より愛妾のほうが年上だなんて・・・」
アススルが真っ赤になって血の気が引いていくのか、真っ青になっていった。
「私、まだ21歳ですの。子供も産んだばかりですし、主人の夜のお相手にも困っておりませんし、アススル様は主人の最も苦手なタイプでございますし・・・」
私は妻、カルサンテス、アススルの顔が怖くて見れない。
「主人の好みのタイプは・・・私を見ていただければ分かるかと思いますが、小さくて弱々しい見た目で、その実、頭のいい人間なんです」
チラリとアススルを見て、目を伏せ首を小さく左右に振る。
「アススルを愛妾として受け入れられないと言うことですか?約束が違うと思いますが!!」
「いえ、ですから我が家の離れをお好きにお使い下さいと言っております。ただ主人の訪問はないだろうと言っております。愛妾の契約書もございません。契約書に書かれているのは離れに住まわせることと、離れでの費用は全てカルサンテスが出す、治水工事の当家の負担分の半額を出していただく。ことだけです」
「それはっ・・・」
「伯爵にご心配いただかないようアススルさまの身の安全は保証すると言っているのです」
「さっきから聞いていて、話にならないではないか!」
「そうでございますね。ですが、最初のお約束を我が家は破ってはおりません」
ランドが一枚の書類を出す。
「ここには性交を強要する文言はありませんし、愛妾にするなどの記載もございません」
「それは書かずとも解っていることだろう!」
「いえ、契約書に書かれていることがすべてでございます」
「我が家が治水工事から手を引いてもいいのかね?」
「良くはありませんが、手を引かれて困るのはカルサンテス伯爵ではないかと思っております」
「我が家は手を引かせてもらおう!!」
「左様でございますか」
私は驚いてマリリンの顔を見たが、マリリンは涼しい顔をしたままだった。
カルサンテスが帰っていった後、私はマリリンにどうするつもりか問いただした。
「契約書に背いたのはカスサンテス伯爵の方ですもの、裁判を起こします」
「勝てるのか?」
「やってみなければ解りません」
治水工事が止まって困るのは国。
裁判は短期間であっさりと判決がおり、カルサンテスに契約書の通りに支払うよう命じられた。
アススルを愛妾とする記載が一切ない為、愛妾とする必要もなく、五年間、離れはアススルが住むためにしか使用してはならない、但し五年のうちに住まなかった場合は自由にしてもよい。と判決がおりた。
アススルは我が家の離れに住むこと無く、治水工事も無事、終わった。
アススルはどこかの愛妾になったと噂を耳にした。
END