マリリンが離れへと移された
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
「なぜ・・・?誰を?!」
「公爵家の圧力に勝てなかったんだ」
「公爵ってことはアルストール公爵家のこと?」
「・・・そうだ」
アルストール家というのは陛下の妹が嫁入りした家で、気位ばかりが高くて公爵家としては位は高くても、実情は伴わない家だった。
「アルストール家の嫁入り出来なかったリリアンベル様が離れに入ってくるってこと?」
「・・・そうだ」
「本当のことを話してくださいませ」
「・・・マリリンを離れに入れてリリアンベルを本妻として扱うように言われている・・・」
「そう、なら私は離れに入ることにしますね」
「マリリン!!」
「シア!!この屋敷の中のものを全て離れへと入れてちょうだい!!絨毯一枚、蝋燭一枚たりとて残さないで!!」
「マリリン、さすがにそれは・・・」
「アルストール家は持参金をいくら持ってくると言っているのかしら?」
「・・・それは」
「フンッ。持参金の百や二百持ってこずに何を言っているのやら。いつ来るつもりなのかしら?」
「はっきりとは言っていなかったが・・・」
「一日でも遅く来てもらうように引き伸ばしてね。フランク」
マリリンは離れに入り切らないものは、客室を倉庫代わりにして、本館にあったものを全て本当に収納してしまった。
その何もない本館にリリアンベル嬢はやってきて、屋敷に使用人の一人もいないことを私に問い詰めてきた。
「妻・・・マリリンが言うには、本館にあるものは全てマリリンの息が掛かったものなので、リリアンベル嬢は自分のものを入れられるべきでしょうとのことでした」
部屋の確認をして「客室のベッド一つないではないですか!!」
「はい。私とマリリンとで用意したものなので・・・この建物は陛下にいただいたものだったので、マリリンも、自分のものだとは言いませんでした」
「今日私にどこで寝ろというの?!」
「持参金もなかったので、全て用意してこられるとばかり思っておりました。公爵様と連絡を取って、使用人を用意するところから始めてもらってください。ベッドもなにもないので、私は離れに参ります。あっ!それと、本館にかかる金銭は一切出せませんので、公爵様に出していただくように交渉してください。ここで生活できるようになったら声を掛けてください」
それから一ヶ月とちょっとしてから本館の準備が整ったので、私に本館で生活するようにと声がかかった。
本館に行くと、使える部屋は夫婦の寝室と妻の部屋と使用人たちの部屋だけが整えられたようだった。
「私の部屋は準備してもらえなかったのですね。本館だと言うのに、応接室一つ使えないのですね・・・お客様が来られたらどうするんですか?」
「それはおいおい準備いたします!!」
「そうですか。では恥をかかないところまでの準備が出来たら声を掛けてください」
「夫婦の寝室は整っているのですから問題ないでしょう!!」
「嫌ですよ。お客様を一人迎えられないような状態で夫婦だと思われるのは私の恥にもなりますので」
それから長くこちらに声はかからなかった。
「マリリン、本館の準備が整ったら逃げようはないよ」
「それは仕方ないと解っているわ。陛下の息がかかった公爵家からの話だもの私達の力では跳ね返せないわ」
マリリンは私の腕の中にもたれかかり「愛している人を誰かと分かち合うなんて、夢にも思わなかったわ」
「私もだよ」
「公爵家に散財させてやったと思うことで、諦めるわ」
「私が愛しているのは、マリリンだけだよ」
マリリンには三人目の子供がお腹にいる。
せめて出産まで声がかからないといいのになと思った。
残念なことに生まれる前にリリアンベル嬢から声を掛けられた。
リリアンベルが用意した執事のハルクを通して、本邸で生活をするようにと伝えられたが、マリリンが出産間近なので産まれるまで待つようにと断った。
マリリンが出産したら本当にリリアンベルと枕を共にしなければならないようだ。
「愛しているよマリリン」
マリリンは私の気持ちが解っているのか、頭を私の胸にこすりつけて「私も愛しているわ」と答えてくれた。
マリリンが三人目の子、ダンクを産んで一週間程たった時、リリアンベル嬢の所に向かうと連絡を入れた。
こちらからのメイドを一人入れて、間違いなく月のものが来たことを確認してから、本邸へと通うことになる。
不思議なことにリリアンベル嬢に月のものが来たと連絡が入らない。
どういうことかと執事に様子を見に行かせると、リリアンベルのお腹は大きくなっていた。
どこの誰か私には解らない相手と姦通したらしく、私の子ではない子を妊娠したらしい。
と公爵家へ連絡を入れると公爵が慌ててやってきて
「これだけ長い期間あったのだからフランク殿の子供だろう!!」
と、おっしゃったので私は自己弁護をした。
本館の準備が整っていなかったので一度も関係を持ったことがない事。本館の準備が整ってからはマリリンが出産間際だったので、心配をかけたくなかったので妻の元にいたので、リリアンベル嬢とは数時間、執事が必ず一緒に居るときにしか接触していない事を伝えた。
私の執事だけなら信用ならなかっただろうが、ハルクや公爵家が用意した使用人が「私との間に子供ができるようなことはなかった」と証言してくれた。
公爵がリリアンベル嬢を問いただすと、使用人の一人と関係を持ってしまって、子供が出来たと白状した。
リリアンベル嬢は出産をして、公爵がその子供を何処かへと連れて行ってからリリアンベル嬢のことを頼むと言って、リリアンベル嬢を本邸に置いたままにしていってしまった。
可哀想にリリアンベル嬢は子供を取られたことで心身のバランスを崩してしまって、私とどうにかなれるような状況ではなくなってしまった。
リリアンベル嬢の状況を事細かく公爵へ連絡を入れるようにリリアンベル嬢の執事に伝え、私は時折昼間に様子を見に行くだけになった。
一年が経って公爵に『何の関係も持てない相手をいつまでも我が家においておくのは止めていただきたい』と手紙を送った。
公爵がリリアンベル嬢の様子を見に来て、妻どころか愛妾としても役に立たない状況だと理解してくれリリアンベルを公爵家へと引き上げてくれることになった。
本邸の荷物も引き上げてくれと言ったが「そちらで処分してくれ」と肩を落として帰っていった。
私達が離れへと移り住んでから、四年弱の日が経っていた。
マリリンは、清々しい顔をして「四年苦しめられて、たったこれだけの家具類だけなんて、割に合わないわ」と文句を言っていたけれど、リリアンベル嬢と関係を持たずに済んで私はホッとした。
子供達は本邸を物珍しそうに彼方此方見て回り、マリリンは好みではない家具類を離れと本邸で入れ替えると張り切っていた。
一番の被害者はリリアンベル嬢だよな。
そう思いながら久しぶりの執務室で私は仕事を始めたのだった。




