怒りの頂点に来ると口を利かなくなるマリリン。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる。・・・なんて言ってみたりなんかして・・・」
人の顔とはこうまで変わるものなのだと初めて知った。
「いや、ほんと、言ってみただけで・・・」
キッと睨みつけて何も言わずに私の足を踏みつけて足音も荒く出ていってしまった。
このときの出ていったは本当に荷物をまとめて出ていったという意味で、後日離婚申請書にサインしたものが届けられた。
当然私は離婚申請書を破いて送り返してやった。
ちょっと言ってみただけ・・・いや、本当は一人の行かず後家を押し付けられそうになっていたのだが、マリリンが出ていったと聞いて申し入れを引き下げてくれたのだが、私が望んでのことではなかったので言い訳くらいは聞いてくれてもいいのではないかと思っている。
一ヶ月経っても二ヶ月経ってもマリリンは帰ってきてくれなかったので、流石に本気で怒っていることが理解できたので馬を走らせて謝罪に向かった。
それが運悪く盗賊に襲われている馬車に出くわしてしまい、行きがかり上仕方なく助けるしかなかった。
それが件の行かず後家で、助けた感謝と愛情を捧げられることになってしまった。
とても、本当にとても丁寧にお断りしていたのだが聞く耳を持っていない人で、私はその場から馬を駆って逃げ出した。
マリリンの実家にやっとたどり着き、親父殿にカクカクシカジカコウコウでと説明すると「それは災難でしたな」と私の味方になってくれた。
母上殿とマリリンに両方の足を踏みつけられて蹲って事情を説明する事三日三晩。やっと謝罪を受け入れてもらえて許してもらえることになった。
マリリンをやっと連れて帰ることができた時、執事に「離れに女性が住み着いてしまいましたが・・・」と言われた。
またマリリンは私の足を踏みつけて実家に帰ろうとしたので、今度は必死で捕まえて暴れるマリリンに「本当に知らない!!」と必死で説明した。
マリリンのあまりの怖さに手を離しそうになったけれど足の痛みを堪えながら「執事の説明をちゃんと聞こう!!」と必死で説得した。
家の者たちは(執事までもが)マリリンのあまりの変わり様に恐れ慄いて遠巻きに眺めるばかりでちっとも役に立たない。
それだけ愛されているなんて愉悦に浸ることもできずに足の痛みからやっと復活してマリリンを抱きしめた。
そのままマリリンを持ち上げて(決してお姫様抱っこなどではない)寝室へ連れ込んで口づけて、抵抗がなくなるまで口づけて、・・・口づけて、マリリンの腕が私の首に回った頃マリリンと愛し合った。
事が終わってやっと話を聞ける状態になって、マリリンに服を着てもらって侍女の入室を許可した。
侍女たちは頬を赤く染めながらマリリンの準備を整えて、執事の前に戻れたのは半日が過ぎていた。
執事の説明を聞いたところやっぱり件の行かず後家で、父親に連絡を取って迎えに来てもらった。
私は件の行かず後家には会わないまま、嵐が直撃して過ぎ去るように居なくなった。
噂で行かず後家の方も現実を知ってどこかの後妻に入ったと聞いたが真実は私には解らない。
ただ、マリリンは怒りが頂点に来ると行動が先に出て口を利かなくなることを知った。
これからは言葉で怒っている間に謝罪して許してもらうことが大事だと知った私の痛い経験だった。




