マリリンとの結婚式に違う女が現れた
すいません。今回は「離れ」を「離宮」に変えています。
「マリリン・・・来月、離宮に女性を入れる事になる」
「本当だったのね・・・」
マリリンのすべてを諦めた顔に私は慌てた。
「離宮に女性を入れることは取りやめられないが、マリリンとの結婚を諦めたわけではない!」
「それは・・・酷い話ですね」
「そ、それはそうだが・・・」
「私は身を引きます。離れに入られる予定の方を王妃に迎え入れてください」
「私はマリリンを愛しているんだ!」
マリリンを掻き抱く。
「陛下はよほど殿下と私が結婚するのが嫌なのですね」
「それは・・・」
「殿下が受け入れなければ済む話だったのではないですか?」
「ごめん。マリリンと結婚するためには受け入れるしかなかったんだ」
「ここまで反対されているのなら無理に結婚する必要はありません」
「私は結婚式を取りやめたりしないぞ!!」
「ですが、王族の方々に反対されて結婚しても幸せになることはできません。離れに入られる方とご結婚なさってください」
慌ててマリリンを引き止めるために無理矢理に口づける。
抵抗されて力で押さえ込む。
マリリンは抵抗をやめたけれど応えてもくれなかった。
このままだと本当に結婚式に来ない気がしたのでマリリンの父親であるモンロー伯爵に話を通して結婚式に連れてくるように命じた。
モンロー伯爵は嫌そうな顔をしたが、王族である私に逆らいはしなかった。
離宮に入ったのは一つ年上のマカイアという高位貴族の女だった。
見目美しく、所作も美しい。さすが高位貴族の女性だと言えるだろう。
だがその洗練された一つ一つの仕草が鼻につく。
マリリンのことも「中級貴族でよく王族に名を連ねようなどと考えたわね。愚かすぎるわ」と貶した。
それでも私はこの女を受け入れなければマリリンと結婚できない。
マカイアをその夜抱いた。
それからはマカイアはまるで私の妻のように振る舞う。
立場を弁えろと注意してもやめない。
夜に訪れる毎にマカイアは私の手に負えなくなっていく。
マカイアが離宮に入ってから二ヶ月が経ち、やっとマリリンとの結婚式の日になった。
祭壇の前で待つ私の横にマリリンが並び立った。
式が進み口づけのためにマリリンのベールを上げると、そこにいるのはマカイアだった。
「どうして・・・」
「陛下と王妃様のお望みです」
「司教!!私はこの結婚は相手が違う!私はこの女とは結婚しない」
司教は私の言うことは聞かず結婚式を進めていく。
誰も私の言う事を聞き入れはしなかった。
結婚式は終わり、国民の前にマカイアと並んで立たされる。
私は手をふることもできずにただ立ち尽くすだけだった。
マカイアは本宮に居を移していた。
マリリンはどうなったのかと聞くが返事はなく、一人の側近が「そのうち誰かと結婚されるでしょう」と答えた。
私はその日からすべての職務を投げ出した。
酒に溺れ、部屋に来た侍女たちに手当たり次第に手を出した。
マカイアが私の寝室に訪れるが、一切相手にしなかった。
陛下に窘められたが鼻で笑ってやった。
「いつの間にか妻が入れ替わってましたからね。生きる希望もなくなるというものです」
「いつまでそんな事を言っているんだ!!」
「そんな事?!一生の問題ですよ?!陛下がたった一つの約束も守ってくださらないのですから私がなすべきことを拒否してもいいでしょう?」
「馬鹿なことを言うな!!お前は王太子なのだぞ!!」
「廃嫡してくださって結構ですよ。ご覧の通り酒に酔ってないときなどないのですから」
陛下は私の側近たちに「酒を飲ますな!」と強く言い私の手の届くところには酒がなくなってしまった。
私は城を抜け出して場末の酒場で酒を浴びるように飲んで、揉めて殴られ蹴られても酒を飲んだ。
そんなことが何度も続くと城から抜け出される方が問題が大きくなるからと部屋で酒が飲めるようになった。
何ヶ月酒浸りの生活をしていただろうか?
もう時間の感覚もなくなっていて、ウトウトしている時に誰かが私の許しもなく部屋へ入ってきた。
ソファーで眠っていた私は朦朧としていたので私に覆いかぶさってくる者が誰か理解できていなかったが、殺したいほど憎い相手だと本能で思ったのだと思う。
運がいいのか悪かったのか、テーブルの上に果物を剥くためのナイフが置かれていて私はとっさにナイフを掴んで、私に覆いかぶさってきた女の後ろ首にナイフを力任せに振り下ろした。
何度も何度も。血が私の上に落ちてきたがそれでもかまわずナイフを振り下ろした。
私の上に乗っている女がピクリとも動かなくなって重かったので払い落として、また酒を口に含んで眠りについた。
叫び声が聞こえたが眠かったので無視してまた目を閉じて夢の世界へと入りかけたらドタバタと何人もの足音が聞こえて、誰かに揺り動かされ、名を呼ばれる。
「殿下!!起きてください!!」
「うるさいなっ!」
仕方なく目を開けてテーブルの上にある酒に手を伸ばして一口飲むと取り上げられた。
「殿下!何をしたか解っているのですか?!」
「何がだ?」
「床を見てくださいっ!!」
「あぁあっ?」
言われて仕方なく床を見るとマカイアが血まみれで床に倒れていた。
私の手も血まみれだ。
「おい、風呂の用意を」
「殿下!!」
「このままでは陛下の前にもでられないだろう?」
「・・・!!」
風呂に浸かって汚れを洗い落とす。
さっぱりとしたいい気分だ。
マカイアが二度と私の前に現れないと思ったら凄くいい気分になれた。
陛下が怒鳴り散らして王妃は泣き喚いていたが気にならなかった。
「もっと早くこうすれば良かった。やっぱり間違った女との結婚は正さなくてはなりませんね。父上。母上」
そう告げると陛下も王妃も絶句していた。
マカイアを殺したことは秘密裏に処理された。マカイアの死は病死と発表された。
廃嫡なり、死罪なりしてくれてかまわないと陛下に伝えたが一人しかいない王子を廃嫡することも殺すこともできなかったらしい。
マリリンとやっと会えたけれど、マリリンは私を見て怯えた。
それでも私はマリリンを手放せなかった。
マカイアの喪が明けたら直ぐにマリリンと結婚することが決まった。
普通の王子の顔をして執務をこなし、マリリンと結婚する日を待ち望んだ。
今度の結婚式はちゃんとマリリンが現れた。
結婚するまでは怯えていたマリリンも前と変わらない私に安心して笑顔を取り戻すようになり、結婚式の時には飛び切りの笑顔を見せてくれた。
私はやっとマリリンを手に入れた。
マカイアではなくマリリンを殺してしまって王子が崩壊する話にしようと思っていたのですが、書き上がったらこうなっていました。




