愛妾を入れてから子供ができないことを調べた男
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
「うそ!冗談よね?!」
「本当だ。変更はない」
「どなたが・・・?」
「レミナ・ジュストーだ」
「レミナ?!私の親友だと解っていて離れにいれるのですか?!」
「レミナも望んでいるらしい・・・」
「そんな!それこそ嘘よっ!!」
「もう決まってしまった。私も強く拒否したのだが受け入れてもらえなかった」
これ以上マリリンの嘆きを聞いていられなくて私はその場を逃げ出してしまった。
この時ちゃんと話し合うべきだったのだ。
マリリンの泣き声が耳に残って私は酒を飲んで忘れようとしてしまった。
マリリンとは恋愛結婚だった。政略が絡まない結婚などないので、純粋な恋愛結婚だとは言えないかもしれないが、間違いなく愛し合っていた。
だが結婚してから四年。マリリンに子供が出来ない。
今もマリリンを愛している。
けれど貴族として大事な事の一つに跡取りを作る必要がある以上、愛妾を迎えるのは仕方のないことだった。
両親が初婚の女だとまた子が出来るかどうか解らないからと言い出して、子供を産んだ経験のある相手を探すことになった。
年齢的に釣り合いが取れ、その上出産経験のある相手はレミアしかいなくて両親がレミアへと話しを持っていってしまった。
マリリンとレミアは親友なので断ってくるだろうと思っていたのに、レミアはあっさりと了承した。
レミアは私達と同時期に結婚して直ぐに子を産んだ。
男の子を産むと婚家からすぐに放り出された。
その理由を散々調べたがその理由は解らなかった。
レミアにも尋ねたが「その理由は話せないと決まっております」と言って何も話さなかった。
レミアは来月に離れに入る事になっているが、離れには既に出入りしている。
屋敷を自分好みにしたいからと言ってそれは楽しそうに屋敷を整えている。
「ふっふふ。マリリンに会わせてもらえます?マリリンは今どんな気持ちかしら?」
嫌な女だ。
「レミアは私の愛妾になることをどう思っているんだ?」
「光栄ですわ」
「マリリンのことはどう思っているんだ?」
「どうとも。子供の産めない女など何の価値もありませんでしょう?」
この女のことは愛せない。
「子供が生まれたらマリリンに育てさせる」
「あら、マリリンに他人の子供を育てるだけの度量があるかしら?それも愛している旦那様が他の女を抱いて出来た子供を」
ああ、レミアの目つきも気に入らないし、言い草も気に入らない。
マリリンを傷つけてまでこの女を抱くことに意味はあるのか?
貴族に子供が必要だとしても、両親に言われたからとしても出産経験のある女にこだわらなくても良かったのではないかと今更ながらに思う。
レミアを選んだことは誰にとっても失敗だ。
もう既に後悔している。
マリリンにレミアが離れに入ると話してからマリリンは色々と呑み込むようになってしまった。
私との関係も一線を引くようになった。
私が求めれば応えるが、マリリンからは私の側に寄ってくることはなくなってしまった。
レミアが離れに入る日、レミアはマリリンに会いたがったが私は許可しなかった。
「レミア、君は愛妾という立場だ。それ以上にはなり得ない。私からの愛も求めるな。絶対に愛せない。本邸への立ち入り、離れ以外の場所の自由は認めない」
「まぁ、私を閉じ込める気ですか?」
「他所の子供を作られても困るから、妊娠するまでは離れから出るときはこちらが用意したメイドを連れて行ってもらう」
「解りましたわ」
その日の夜レミアと関係を持った。
数ヶ月経ったけれどレミアにも子供が出来ない。
マリリンとの心の距離は開いていく一方だ。
もしかしたらマリリンはもう私のことなど愛していないかもしれない。
私は今更、子供が出来ないことで医者にかかる決意をした。
その結果は私は非常に子供ができにくいことが解った。
子種が非常に少ないのだと。
全くないわけではないので子供が出来ないわけではない。
レミアを入れる前に検査すべきだったと後悔した。
両親にその診断書を送り、マリリンにもその話を伝えた。
マリリンは感情のこもらない声で「そうですか」としか言わなかった。
両親と相談するために領地へと足を運ぶ。
「私が子作りを頑張るより父上が子供を作るほうが早く子供が出来るかもしれません。血筋の子供が欲しいなら父上がレミアを引き取って子作りしてください。ただし、レミアには子育てはさせるべきではないでしょう。人格的に問題がありますから」
母は父が愛妾を持つことには難色を示したが、レミアを父上になすりつけることには成功した。
ただレミアは強い不満を漏らした。
「私に父と同年代の男の子を産めというのですか?!」
「君を愛していればそれはあり得ないかもしれなかったが、私は君を愛してはいない。誓約書をみてくれ。この家の跡継ぎを産むことが役目であって、その相手は私とは書かれていないんだ。だから父の下に行ってもらう」
「そんなっ!!」
「この数ヶ月、君がマリリンの悪口を言うのを黙って聞いていたが、私は心底腹を立てていた。マリリンは君がこの離れに入ってからも君の悪口など一言も言いはしなかった」
「だから何だというのです?石女のくせに!!」
「マリリンに何の問題もない。もう人を貶す言葉もその顔も見たくはない。今週末に領地へと移ってもらう」
「嫌です!!」
メイド達に荷物をまとめるように伝え出発日と時間を伝えて私はマリリンの下へと急いだ。
マリリンは私に子種が少ないことを聞いてもやはり感情のこもらない声で「そうですか」としか言わない。
レミアを父の下に送ることになったと伝えてもやはり「そうですか」と言って目を瞑った。
マリリンの離れた心を取り戻そうと一緒にいられる時間を作り、話しかけ贈り物をしたけれどマリリンの心は閉ざされたままだった。
「マリリン、私と離婚したいかい?」
マリリンはニッコリと微笑んだ。
「そうですね」と。
それからもマリリンを私に縛り付けている。
マリリンを愛しているからと言い訳をして。
父がレミアに男の子を産ませることができた。
レミアに引っ掻き回されているのか母が離婚すると言い出している。
好きにすればいいが、子供をレミアから引き離さないと碌な子供にならないと手紙を送った。
父とレミアの間に二人目の子供が産まれて、父よりも子供ができにくいのだと知って自分に幻滅した。
性欲がないのならいいのに性欲はなくなったりしない。
今夜もマリリンを抱きながら私を見て欲しいと願う。
「マリリン。愛しているんだ」
「そう、ですか・・・」
あぁ、もう駄目なんだと思った。
それでも決心がつかず無駄に時間だけが過ぎていった。
マリリンの顔色がすぐれない日が続いて、私は医者を呼んだ。
医者は笑顔で「おめでとうございます。ご懐妊です」と言った。
私は嬉しくてマリリンに「おめでとう!!」と言うとマリリンは妊娠で喜んでいるのとは正反対の顔をして「そんな・・・」と言って口元を押さえた。
マリリンは男の子を産んだ。ジョンと名付けた。
後継者問題が持ち上がることになる。
父は爵位は私に譲ったものだからと言って私の子を後継者にすると言い、レミアを屋敷から追い出した。
何があったのか聞きたくなかったのに、母が孫の顔を見ると言って私達の屋敷に滞在することになり、色々と愚痴をこぼした。
「レミアという女は前の婚家でも嫌われて追い出されたのだわ。本当に嫌な女だったのよ!私より愛されているのという顔をして屋敷の中をウロウロしてっ!」
「嫌な女と私もそう思いますが、愛妾を入れると最終的に決めたのは母上でしょう。私は最後まで嫌だと言いました。レミアを迎えたことでマリリンとうまくいっていないのです。いつまでここに居る気ですか?母上にまで引っ掻き回されるのは遠慮したいのでそろそろ帰ってください」
「本当に私達が愚かだったわ。愛妾など入れて」
「本当に愚かでした」
「マリリンにも謝ったのよ」
「なんと答えました?」
「何を言っても『そうですか』しか答えないのよ」
「私にも同じです」
母が帰って屋敷の中には子供が泣く以外の音がしない。
マリリンが子育てを放棄するのではないかと心配したけれど、マリリンはジョンを愛した。
私への感情はやはり死んだようなものだったけれど、ジョンには笑顔を見せている。
マリリンは一度妊娠してから子供ができやすくなったのか、二人目、三人目と子供を産んだ。
三人目が出来た頃、マリリンはあきらめたのか私への当たりが柔らかくなった。
『そうですか』以外の会話が出来るようになり、私は幾度目かの謝罪をした。
少し顔をひきつらせていたけれど謝罪を受け入れてくれた。
「三人も子供が出来ては離婚できなくなってしまいました。それなら仕方ありません。許して受け入れるほうが生きやすいでしょう」
「これからも誠意を尽くすと約束する」
「そうであって欲しいと思います」
マリリンは心から許してくれることはないのだろう。
それでも私はマリリンを愛しているから決して手放さないと心に誓った。




