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「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」  作者: 瀬崎遊


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一人になってしまったフランク

「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」


 父が母に告げた言葉が信じられなかった。

「父上・・・な、なにを・・・言っているんですか?」

「お前には関係ないことだ。子供が口を出すなっ!!」

「関係ないわけ無いでしょう!父親が愛人を家に連れ込むと言って喜ぶ子供がいるとでも思っているんですか?」


 父は先程までの高圧的な態度が少し抑えられた。

「ジャッキーには二度と口を利いてもらえないと思ってくださいね!!」

「な、何を・・・」

 ジャッキーは父親っ子で父のことが好きで仕方のない子だ。


「父上が母上と離婚するのなら好きにしてください。ですが私達子供が父上に付くと考えないでください。私は嫡男ですから家に残りますが・・・いえ、新しく迎える方が産む方を嫡男とお考えですか?それなら私も母上についてモンロー家に身を寄せたいと思います」


「何を馬鹿なことをっ!!」

「でもよくあることじゃないですか、新しく迎えた人が産むこの方が可愛くなって前妻の子供を蔑ろにするなんて話は」

「そんな事するわけ無いだろう!!」


「母上と結婚した時に『君だけが欲しい』と母上に仰って、十六年たったら離れに女性を入れると言う父親のどこを信用しろと?」

「ぐっ・・・」

「父上ほど信用のおけない相手はいないということですよね?」


 母は私によく言った。というような満足顔で頷いていた。

「あなた、私達は取り敢えず実家に帰らせてもらうわ。あなたが離れに女性を入れたいのなら好きにしてください。離れと言わず本邸に入っていただいたらよろしいのでは?・・・ジョン、準備を」

「はい。母上」


 私は妹弟と私と母の準備を頼み、一時間掛からずに準備を終えて馬車に乗り込んだ。

 それでも父は私達を引き止めはしなかった。


 母の実家であるモンロー家に着くと、お祖父様は「あの男はマリリンを大事にすると言ったから嫁がせたのに、大事にしないのなら別れてしまえーーーっ!!」と屋敷中に聞こえるような怒声を発していた。


 実家へ帰ってから父から何も音沙汰なく翌月になった。

 父は、母が実家に帰っているにも関わらず、本当に離れへ女性を入れたと執事から手紙が来た。


 祖父が怒り狂って離婚届けを送り、子供達全員の親権はモンロー家にあるとして送りつけた。

 執事に父が留守にする日を確認して、その日に家に残してきた荷物をすべて引き上げるために荷物をまとめあげて、すべての荷物を引き上げさせた。


 私は空になった自分の部屋を見て、案外広かったのだなとそれだけを思った。

 父が離婚届を送り返してこないまま月日は流れて、執事から離れの人との間に子供が生まれた。と手紙が送られてきた。


 祖父は新たな離婚届と親権をモンロー家に任せる二通の書類を持って父のところへと足を運んだ。

 その日、祖父は離婚届も親権を放棄する書類にもサインを貰って帰ってきた。

 一通の手紙とともに。

 その手紙は母に渡され、母が読むと二つに引き裂いた。


 その手紙を見せてもらったが、書かれているのは『愛しているのはマリリンだけだ帰ってきてくれ。お義父上に有無を言わせずサインをさせられたが、離婚はしたくない』と書かれていた。

 私達家族がその手紙を読んで馬鹿馬鹿らしくて付き合いきれないと思った。


 母は祖父に離婚届を直ぐに提出してくるように頼んで、私達はモンロー家の子供となった。

 各所機関にもその通達は届けられ、学校でもジョン・モンローと呼ばれるようになった。


 今までは侯爵家の嫡男に嫁に来てもらう結婚相手を探していたが、今は嫡女の家へ婿入する相手を探している。

 仲の良かった侯爵家の女子が都合のいいことに、その立場の子で婚約打診をしたところ快諾され、私の婚約はあっさり決まった。


 私の婚約の話は両親の離婚から面白おかしく広まっていき、父の耳にも入ったらしい。

 私に手紙が届いて『我が家を継ぐのはどうするつもりだ!!』と少々お怒りな手紙を頂いたが、私は祖父にすべてを任せた。

 

 ジャッキーは好きな男の子がいると言って、その相手と婚約できないか祖父に尋ねていた。

 祖父は相手を徹底的に調べ上げて、婚約の話し合いが何度ももたれて、ジャッキーも私に遅れること七ヶ月で婚約が決まった。


 その誓約書には、ジャッキー以外の女性を囲う場合、ジャッキーが許さない場合即離婚という項目があった。

 但し、三年間子供ができなかった場合は上記の通りではない。と書かれていて、私は祖父の父への怒りがよくわかった。


 ジャッキーの婚約も父の耳に入ったのか、ジャッキーに手紙が来ていたがジャッキーは読みもせず祖父に渡していた。

 ジャッキー曰く「いい年をしてみっともない。恥ずかしい父親」ということらしい。


 ああ、離れの女性は二人目を産んでどちらも女の子だった。

 それからは私の下に父からの手紙が何通も届いたが、馬鹿らしくなったので読みもせず送り返している。

 私に相手にされないと気がついた父は末弟のダンクに手紙を送ってきたが、ダンクは私達がそうしているからと言って、やはり手紙を読まずに送り返していた。


 祖父は私達に同じだけの教育を与えてくれた。

 叔父夫婦には女の子しかいなかったので、その女の子たちが家を継ぎたくないと言い出して、私は既に結婚して相手の家に入ることが決まっていたため、ダンクがモンロー家を継ぐことになった。


 祖父も従姉妹たちも大喜びしてくれたので、私は変な確執が生まれなくてよかったと胸をなでおろした。



 父の家の執事から、離れに入れた女性が出ていったので帰ってこられてはいかがか?と連絡が来たが、丁重にお断りした。

 なんでもその女性も子供を連れて出ていってしまったために父の跡を継ぐ子供がいなくなってしまったらしかった。


 直ぐに父がモンロー家にやって来て、祖父と話をしていたが祖父は「子供達はモンロー家の子供なのでそちらには委ねられない」と断ったそうだ。

 私達子供に家に帰ってくるように言ったが、ジャッキーが「お父様はまた新しい女性を連れてきて、子供が出来たら用無しとばかりに私達を捨てることは目に見えています。はっきりとお断り致します」


 ダンクは久しぶりに見た父親を懐かしがっていたけれど、ジャッキーの剣幕に押されて「姉上の言うとおりです」と言っていた。


 私は冷静に「親権を手放してしまった以上どうにもならないでしょう」と父に伝えた。

 今の時代、妾や側室、愛人なんてものは認められない。

 それを父の勝手でしたことだ。

 責任は父が取るしかない。

 父は肩を落としてモンロー家を後にした。


 それから父からの手紙は母へと届いたが、返事をするでもなく、送り返すでもなく相手にしないというスタンスを母は取っていた。



 私が学園を卒業して一年の期間を空けて結婚することになった。

 結婚式には父は呼ばないと決めた。

 正直なところ、同じ男としてちょっと可哀想に思ったけれど、ジャッキーの拒絶感は半端なくて、呼べるような雰囲気でもなくて、父が悪いのだから父一人に泣いてもらおうと思った。


 

 私の結婚式よりも前に母が再婚すると言い出して、まさか父と?!と思っていると、全く関係のない人で祖父もジャッキーも大喜びしていた。

 私とダンクは内心複雑だった。

 母には幸せになってもらいたかったが、再婚するのはちょっとだけ嫌だった。


 母は一ヶ月後にユルデン・シューカット侯爵の後添いとして、私達子供をモンロー家に残されて、母一人シューカット家に嫁いで行ってしまった。


 いつでも遊びに来てとシューカット侯爵にも誘われたが、実際に行けるかは別問題だと思っていた。

 母が嫁いで一週間ほどしたらジャッキーが「明日出掛けるから準備しておいてね。朝の十時出発だから」と言いわたされた。



 ダンクと二人準備してホールで待っていると馬車に乗せられ、どこにいくのかも解らないまま到着したのはシューカット侯爵家だった。

 シューカット家では家族が帰ってきたと同じように使用人達にも扱われ、居心地が悪かったのは初めだけで、シューカット侯爵と昼食を食べ終えた頃には「チェスをしようか」と誘われて、私とダンクが交代にシューカット侯爵とゲームを楽しんだ。


 夕食もごちそうになり「泊まっていけばいい」とお誘いを受けたが、ジャッキーが「また来るので、次の機会に」と断っていた。

 

 それからも二週間に一度はシューカット侯爵家へ遊びに行くようになり私は泊まらなかったが、ジャッキーとダンクはしょっちゅう泊まりに行くようにもなった。

 シューカット侯爵ともよそよそしい他人という感じではなくなり、伯父さんくらいには思えるようになった。


 母は幸せそうに笑っていて、それを見ている侯爵も幸せそうにしているので、母の結婚に不満を持っていた気持ちが急速にしぼんでいった。


 

 私の結婚式に父親代わりとしてシューカット侯爵が出席し、モンロー家はシューカット侯爵とうまく付き合っていることを対外に示すことが出来た。



 妻が二人目の子供を産んでしばらくした頃、父の執事から手紙が来た。

 父が臥せっているので一度顔を見せてくれないかということだった。


 私は一人で会いに行くことにした。

 久しぶりに見た屋敷はどこか寂れた雰囲気があった。

 執事は私が来たことをとても喜んでくれて、執事に病状等の話を聞いてから、父の寝室へと向かった。


 生気のない父は私を見てそれは嬉しそうに笑った。

 ほとんど声も出ていなかったが「会いたかった」や「申し訳ない」と口を動かしていた。

 動かない体で私の手を取り「ありがとう」と涙した。


 この家の後始末を頼みたいと言われて、私は了承するしかなかった。

 執事に書状を渡され、父が死んだ後は私達三人の兄弟の産んだ子供に父の侯爵家を継がせて欲しいと執事が父の代わりに話した。

 私は全てに了承して、父が目を閉じたので別れを告げて屋敷を後にした。


 ジャッキーとダンクに父の容態を話して最後だから会いに行けと長男として命令を出した。

 ジャッキーは最後まで抵抗したが、私は許さなかった。

 

 ジャッキーは父を見た途端「お父様」と言って泣きついた。ダンクも同様に父に抱きついて泣いていた。

 父はそれは嬉しそうに笑って「会いたかった。すまなかった」と何度も何度も謝っていた。

 最後に「マリリンにすまないと伝えてくれ」と言われてジャッキーが「必ず伝えるわ」と約束していた。


 翌日、父が亡くなったと使いが来て、喪主を私にして欲しいと頼まれた。

 私は義父に相談すると「立派に喪主を務めてきなさい」と背中を押し出してくれた。


 葬式には私達子供と母とシューカット侯爵も参列してくださった。

 もちろん妻も義父母も参列した。

 葬式の規模は残念なことに侯爵家としては小さなものだった。


 父の死亡届を出すときに知ったことだけど、離れに住んだ女性は入籍されておらず、産まれた女の子二人も実子としての届け出はされていなかった。


 ジャッキーとダンクは私に沢山子供を作れと言って、私の子が父の侯爵家を継ぐことを望んだ。

 少々変則的ではあるが、義父が元気な間は妻の家のことは任せて、私は子供が大きくなるまでの中継ぎとして父の跡を継ぐ形になった。

 

 結局父は一時の感情ですべてを失ってしまって、死ぬまで寂しい思いをしただけだった。

 私は愚かな父の死を心から悼んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 また違った話の展開で、面白かったです。 フランクは自業自得ですね。
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