蔑ろにされたマリリンはまともに見えるけれど、壊れてしまっていた。
設定
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。
夫 フランク
妻 マリリン
子 ジョン (産まれていない場合もある)
子 ジャッキー (産まれていない場合もある)
子 ダンク (産まれない場合もある)
上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。
一話完結なのでどの話から読んでいただいても大丈夫です。
不定期更新になります。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
一夫多妻のこの国では第二夫人、第三夫人は当たり前だった。
けれど、結婚して経った一ヶ月で新しい妻を迎えるとは思いもしなかった。
「マリリンには言っていなかったが、マリリンと婚約する前から付き合っていた人なんだ」
そんな酷いことをほころぶような笑顔で私に言うなんて、今まで私はフランクのどこを見ていたのだろう?
「マリリンと結婚するまでは第二夫人や第三夫人を迎えることは許さないと父上に言われていたので今まで我慢していたんだ。すまないが、マリリンを第二夫人にしたいと思っている」
この人は私への気遣いは一切ないのだろうか?
「それはお義父様は納得されているのですか?」
「納得はしないだろうけど、両親との付き合いは今まで通りマリリンに頼むね」
私はこの人を許せるだろうか?
「かしこまりました」
翌日連れてこられた方はハイデリリーという方で、私より小柄で儚い雰囲気な方だった。
信じられないことに、お腹が膨らんでいた。
「ハイデリリーは私が守ってあげなくちゃいけないって気にさせるんだ。妊娠六ヶ月になるから急いでハイデリリーと婚姻を結びたかったんだ」
だから私との結婚を急いだのか。
本来なら私達はまだ結婚する予定ではなかった。
フランクが私との結婚を急いだ時には求められて、とても嬉しかったのに。
全てはハイデリリーのためだったのね。
「わたくし、本館を明け渡したほうがいいのでしょうか?」
「いや、父上達の目があるから本館にはマリリンが住んでくれていいよ。ただ、立場を優先されるのはハイデリリーだから、その辺は間違えないでくれ」
ハイデリリーの肩を抱いたままフランクは私にこれからのことを話す。
「ハイデリリー、私はマリリンと子供を作らなくてはならないから、夜はマリリンのもとに通うことになるけれど、愛しているのはハイデリリーだけだから、安心して」
この男は私の目の前で何を言っているんだ?
表情を変えずに笑顔でいることがこんなに苦痛だったことは今までなかった。
ハイデリリーがくすりとフランクに笑いかけ「そのような物言いをしてはなりませんよ」とフランクに言い、わたくしに向かって「暫くの間、フランクのことをお願いしますね」と言った。
この時の私の屈辱を誰か分かってくれるだろうか?
眼の前の二人に私以上の屈辱を与えてやりたいと思った。
離れの準備ができてから離れに入るのだと思っていたのだけれど、フランクはハイデリリーに本館の客室を与え、離れの準備が整うまでここで生活するようにいい、私には妊娠中のハイデリリーを助けるようにと言った。
その日の夜、私の部屋にやって来て、事が済むとハイデリリーの部屋へと行ってしまった。
あまりにも惨めで、私は裸のまま涙が止まるまで泣き続けた。
その翌日も、またその翌日も同じように扱われ「早く妊娠してくれよ」とフランクにため息交じりに言われた。
「ハイデリリーが妊娠中だからあまり心労を掛けたくないんだ」
「なら、私のもとに通うのをおやめになられたらいいのではないのですか?」
「マリリンに子供ができないと、父上が五月蝿いからな。仕方ないよ。男子を必ずと言われているんだ」
「わたくしとの間にできた子供をフランク様は愛せるのですか?」
「どうだろう?生まれてみなくては判らないな」
「愛されない子を私は産みたいと思わないのですが・・・」
「君がそんなつまらないことを言う人だとは思わなかったよ。貴族として果たすべき務めは果たしてくれないと」
「申し訳ありません・・・」
「分かってくれたならいいよ」
子作りのためだけに毎夜、フランクは通い続け、ハイデリリーの部屋へ帰っていく日々が続き、離れの準備が整い、ハイデリリーとフランクは離れへと移り住んだ。
後二ヶ月もするとハイデリリーの子供は産まれてくるだろう。
私は未だ妊娠しない。
フランクに触れられることが嫌でたまらないのに、フランクに好きに扱われることに甘んじなければならない。
ハイデリリーがいつ産まれてもおかしくない時期になると、フランクは離れに行ったまま本館に戻ってこなくなった。
戻らないフランクの両親がやって来て「まだ妊娠しないのですか?」と私が石女だと言い、義母が私を責め立てた。
「女としての魅力も足りないのではなくて?だからフランクが本館に居ないのでしょう?!フランクの子でなくてもいいわ、あなたがマリリンを妊娠させては?」
そう義父に向かって言った。
義父に全身を舐め回すように見られて、私はゾッとした。
「わしの子ができたらややこしいことになるだろう」
「そうかしら?それはそれでいいと思うのだけれど?」
義父母の会話が私にとって望ましくないものになっていく。
「フランク様のご意見もあるかと思うのですが・・・」
「まぁ、そうね。とにかく早く子供を作ってちょうだい。ハイデリリーの子を我が家の跡継ぎにすることは絶対許せませんからね」
「フランクはハイデリリーを望んでいるのにどうしてハイデリリーが第一夫人では駄目だったのですか?」
「あの子は伯爵家が平民に産ませた子なのよ。伯爵の子だと言い張ってはいるけど、本当に伯爵の子かもわからないのよ。だからハイデリリーが何人子供を産んだとしても、我が侯爵家の跡取りには出来ないの。それはフランクも理解しているわ。愛と貴族家は別物だと」
ハイデリリーが女の子を産み、夜中の泣き声が五月蝿いからと言ってフランクが本館で生活するようになった。
ハイデリリーに出産祝いを贈ったけれど、ハイデリリーからも、フランクからも礼の一つもなかった。
昼間はハイデリリーの下でハイデリリーを慈しみ、夜は私の中で排出する。
その後も私の横で眠る。
フランクが所用ででかけている時にハイデリリーが本館へといきなりやって来て「フランクがあなたの下にいるのは、愛されているからじゃないのだから勘違いしないで!!」と、私に言い、私を突き飛ばして、転んだ私を見て意高げに鼻で笑い、離れへと帰っていった。
横で眠るフランクを殺してしまおうかと何度思ったかわからない。
私は毎晩、我慢し続けた。
ハイデリリーがフランクの相手が出来るようになった頃、私がやっと妊娠した。
「マリリンは妊娠までに本当に時間かかったね。男の子であって欲しいよ」
そう言って離れへと向かったフランクは本館へ足を運ぶことはなくなった。
ハイデリリーが妊娠していた時には毎日ハイデリリーの下に通っていたのに、私には顔を見せることもしないのか。
きっと、この子が生まれてもフランクはこの子を愛することはないだろうと確信した。
妊娠してからフランクの顔を一度も見ることが無いまま、出産を迎え、私は男の子を無事産んだ。
義父母がやって来て、私を褒め、生まれてきた子に勝手にジョンと名付けて帰っていった。
義父母がいた間だけフランクは本館に顔を出し、ジョンの顔を初めて見た。
もう、フランクを殺してもいいんじゃないだろうか?
ジョンが侯爵家を継ぐことは決まっているのだし、フランクはもう要らない。
私が殺したとわからないように、離れで死んでもらうのが一番いい。
どうやって殺すのが一番いいのか、いろんな方法を考えた。
遅効性の毒が手に入れば一番いいけれど、足がついては捕まってしまう。
それだけは避けたい。
フランクのようなクズを殺して捕まるリスクは負えない。
わたくしは一口食べただけで死ぬと言われているサワラ茸を散歩と偽り、探し回った。
椎茸によく似ていて勘違いされやすく、味はとても美味しいと屋敷にある図鑑に書かれていた。
私には椎茸とサワラ茸の区別がつかなかった為、椎茸に見える茸を採取しては離れの食材の中に交ぜた。
すでに四度食材の中に交ぜたけれど、全てただの茸だったようで、フランクはピンピンしている。
五度目の正直。と思いながら今日も食材の中に紛れ込ませた。
残念なことに今回もただの茸だった。
ここまでサワラ茸に出会えないとは思っていなかった。
方向転換すべきか考えたけれど、足がつかない方法が思いつかない。
誰かに相談するわけにもいかなくて、私は毎日サワラ茸を探し続けた。
今までサワラ茸だと思っていたものが生えていたのとは違う岩場に椎茸に見える茸が生えていた。
そう言えば図鑑に岩場に生えていることが多いと書かれていた気がする。
これがサワラ茸に間違いないとほくそ笑んだ。
その日の夕食を食べ終わった頃、離れが慌ただしくなり、離れのメイドが本館へと走り込んできた。
「旦那さまと、奥様がっ!!」
「どうしたのですか?騒々しい・・・」
「旦那様と奥様が泡を吹いて倒れられました!!」
「えっ?!冗談でしょう?」
「本当でございます!!」
「お医者様を呼んだの?!」
「いえ、まだです・・・」
「早急にお医者様を呼びなさい!!」
私は笑い出してしまいそうになりながら、心から驚いている演技を続けた。
初めて離れに入り、こんなにも贅を凝らしているとは思いもしなかった。
絨毯、絵画、花瓶の一つをとっても本館とは比べられないほどいい物が置かれていた。
美しい絨毯の上でフランクとハイデリリーが倒れていて、すでに事切れているように見える。
フランクとハイデリリーに必死で声を掛け、揺さぶる。
「フランク様、返事をしてっ!!一体何があったの?!」
フランクに取りすがり涙を流していると息を切らせたお医者様が到着した。
「先生!!大丈夫ですよね?」
お医者様に取りすがり、大切な旦那様が生きていると信じている演技を続けた。
お医者様が執事に首を振り、もうすでに死んでいると知らせた。
やったーっ!!やったわよ!!
誤って毒茸を食べてしまったのだろうと診断が下り、葬儀が執り行われることになった。
私は泣き崩れ、人々の涙を誘った。
義父母の望みでフランクとハイデリリーは遠く離れた場所に埋葬された。
残されたハイデリリーの子供をどうするか話し合いをされたが、ハイデリリーの父親も引き取ろうとはしなかった。
「半分はフランクの血が通った子供です。私が育てます」
そう言って引き取ることになった。
フランク達が選んだ乳母がリリーアンを育て、私も一緒に育てた。
乳母が必要なくなる年になり、乳母に暇を出した。
「ごめんなさいね。侯爵家からリリーアンの養育のお金があまり出ないの」
「分かっております。奥様、リリーアン様のことをよろしくお願いします」
「母と思ってもらえるように努力するわ」
ふっふっ・・・。
これでリリーアンを守る者は居なくなったわ。
リリーアンとどんなことをして遊ぼうかしら?
リリーアンはどんな子に育つのかしら?
これから毎日が楽しみで仕方ないわ。
フランク、私が味わった以上の思いをリリーアンに味わってもらうわね。
リリーアンの頬を優しく撫でて、腹を思いっきりつねってやった。
ギャーギャーと泣く声が聞き苦しい。
泣き声がやかましいわね。
鼻と口を押さえ、苦しがるのを堪能して手を離して、抱き上げて宥めて、またつねってあげた。
BAD END




