愛されなかった高位貴族令嬢は、可愛がられたい。
設定
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。
夫 フランク
妻 マリリン
子 ジョン (産まれていない場合もある)
子 ジャッキー (産まれていない場合もある)
子 ダンク (産まれない場合もある)
上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。
一話完結なのでどの話から読んでいただいても大丈夫です。
不定期更新になります。
「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」
マリリンはさっきまでの笑顔が消え失せ、この世の終わりのような顔をする。
「わたくしはフランク様を愛しています。わたくしの愛だけではフランク様には足りないのでしょうか?」
「そんなことはない!だが、寄り親のハイアット家の三女のアントワネット様が不義密通を起こしてしまったそうなんだ。その後始末のために誰かに預けるしかなくなって、私に白羽の矢が立ったんだ」
「それは、アントワネット様を預かるだけなのでしょうか?それとも愛妾として離れにお迎えするのでしょか?」
「すまない。愛妾としてお迎えすることになる・・・」
「そんな・・・」
マリリンはおもむろに立ち上がり「部屋へと下がらせていただきます」と言って私の目の前から居なくなってしまった。
一人残された部屋はどこか寒々しく、身震いを感じた。
アントワネットが我が家にやってきて、マリリンに挨拶がしたいと言って本邸へと顔を出しに来た。
最低限の常識は身についているのかと安心していたのもほんの短い間だった。
マリリンの方が本妻なのに、アントワネット様のほうが爵位が上なため、マリリンから挨拶をする。
「お初にお目にかかります。フランク・ランベルトの妻、マリリンでございます。これからよろしくお願いいたします」
「初めまして。アントワネットと申します。マリリン様には色々と遠慮していただかなければならないことが多々あると思いますが、わたくしのよいように取り計らってくださいませ」
アントワネットの言い様にマリリンは目を見開いた。
アントワネットは自分が罰を与えられてここに来ている自覚がないのか?
「アントワネット、立場を勘違いされては困る。マリリンは本妻、アントワネットは愛妾だ。当然、本妻のマリリンの方を私は大事にする。まずは月のものが来てから離れに通うことになります」
私の言い分が気に入らなかったのか、アントワネットはいきなりマリリンを叩いた。
突然のことで反応できなかった。
「何をするんだっ!」
私はマリリンを抱きしめ、アントワネットがますます嫌いになった。
アントワネットを強い言葉で非難した。
叩かれたマリリンを背に庇い、アントワネットに離れに行くように伝える。
アントワネットは怒りなのか、屈辱なのか、真っ赤な顔をして、カンダルと護衛と言う名のお目付け役に連れられ、離れへと戻っていった。
「フランク様、あのような物言いをしてよろしかったのですか?」
「いいんだよ。本妻であるマリリンを尊重しない愛妾など必要ない。嫌なら出て行ってくれたほうが嬉しいくらいだ」
マリリンは不安そうにアントワネットが出ていった扉を見つめていた。
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「あのフランクという男は一体どういうつもりなの?!わたくしを蔑ろにしていたでしょう?!カンダルはなぜそれを許すの?!」
「お立場を理解していないのはアントワネット様の方だと思います」
「カンダル!!何を言っているのですかっ!!」
カンダルと呼ばれた私はハイアット家の筆頭執事でした。
すっかり年を取ってしまい、後数年で七十歳に届いてしまいます。
。
息子がハイアット家の筆頭執事となり、私は引退。となるはずでしたのに、アントワネット様の浅慮な行いのため、アントワネット様に付いてランベルト家へと来ることになってしまいました。
アントワネット様は本当に考えが足りないお方で、その時々が楽しければよいという享楽的なところがあって、数多の殿方に身を任せてしまわれました。
その噂は知らぬものはないほどに広がってしまい、アントワネット様が表立って社交を行うことはもうできないでしょう。
旦那様となられるフランク様にも月のものが来るまではこちらに来ないと言うほど、アントワネット様には信用がありません。
ハイアット辺境伯様から言い聞かされたことは「何があってもランベルト家の離れから出してはいけない」ということでした。
「もし、言うことを聞かなければ足を折れ、それでも言うことを聞かない時は切って捨てよ」
と、娘に言うこととは思えないようなことを旦那様は私に言いました。
そんな日が来ないことを願いながらランベルト家へ参ったのですが、老体な為、最悪の事態を実行するために四人の護衛騎士という名の牢番を共にランベルトへと送り込まれました。
間違いが起こらないよう、全て女性ばかりです。男と呼べるのは私だけです。
フランク様にも男性は絶対に離れに近寄せてはならないと旦那様は仰っていました。
私が一番最初にしたことはすべての窓に鉄格子を付けることでした。
勿論、旦那さまのご命令で、屋敷に手を入れる許可はフランク様に頂いてのことです。
ハイアット辺境伯とフランク様は長い長い時間、話し合っておられました。
鉄格子の嵌った窓を見てアントワネット様は部屋にあるものを壊して回り「父にこの現状を訴えます。このような扱いを受けるなど、ハイアット家の娘が受けてよいことではありません!!」とおっしゃいます。
「アントワネット様、これらは全て旦那様が決められたことでございます。決してアントワネット様を屋敷から出してはならないと言われております。万が一、外へ出ようとした時は切り捨てるように言われておりますので、決して浅慮な真似だけはなさりませんよう、お願い致します」
「お父様が私をここに閉じ込めたというの?」
「はい」
全ての苛立ちが弱いマリリン様へと向かってしまいました。
アントワネット様はマリリン様とお茶会がしたいと言い、離れに呼びつけ、部屋に入ってこられたマリリン様に花瓶を投げつけ、怪我をさせてしまいました。
倒れたマリリン様を踏みつけ、フランク様に直ぐ来るように伝えなさいと言いはなちました。
護衛にアントワネット様が押さえつけられると「押さえつける相手を間違っている」と体力が尽きるまで暴れました。
その日のことは私からフランク様へと報告し、マリリン様の怪我を見てフランク様は「面倒見きれない」と旦那様へと手紙を送ったと仰っていました。
メイドたちに尋ねてもアントワネット様の月のものはやって来た樣子がありません。
そのうち気持ちが悪いと言い出し、食事の好みが変わってしまい、お腹が膨らんできてしまいました。
お嬢様は決して妊娠ではないと言い続けましたが、もう、否定することはできなくなってしまいました。
フランク様にお願いして旦那様の下へアントワネット様の妊娠を伝えに行っていただきました。
子供の父親は誰か解らないとアントワネット様がお云いであることも伝えていただきました。
フランク様がお帰りになり、ここで子供を産むこと、生まれた後はハイアット家が直ぐに引き取ること、アントワネット様はこのままここで逼塞させることが決まりました。
当初の予定だったフランク様のご寵愛はいただけないことになりました。
せめてマリリン様を立て、マリリン様に可愛がられるように振る舞っていたらお立場は変わっていたかもしれません。
今更言っても詮無いことでございますが。
アントワネット様はお腹の子の事を憎みながら出産しました。
生まれた子の顔はどこか私の孫の顔に似ている気がするのは私の気の所為なのでしょうか?
アントワネット様に問いただすと、孫と関係を持ったことがあるとお答えになりました。
孫はハイアット家の執事見習いとして勤めておりましたが、旦那様から暇を言い渡されてしまいました。
他に使用人と関係を持ったかと聞くと、多くの者がアントワネット様と関係を持っていることが判明しました。
それらすべてが紹介状もなく暇を出され、ハイアット家は使用人が足りず、数ヶ月の間困ったことになったと旦那様からのお手紙で知りました。
今はもう顔を見ることも抱くことも叶わない子供のことを思って過ごしていただければ、まだ救いもあったのに、アントワネット様は男性を欲し、このランベルトの離れという牢獄から何度も抜け出そうとしました。
旦那様とフランク様がまた話し合い、遠く離れた国へ平民としてアントワネット様を送り出すことが決まったとフランク様より報告されました。
準備が整い、遠い国へお嬢様は送り出されることになり、私は引退することに決まりました。
旦那様はランベルトの離れの建て替えを請け負い、離れが壊されていきます。
「フランク様、大変お世話をおかけしてしまいました。奥様にもご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」
「辺境伯には離れを新しくしていただくし、カンダルが気に病むことはない。ゆっくりと体を休められるとよい」
フランク様とマリリン様に見送られ、私はランベルト家を後にしました。
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「私が何をしたというの?!」
馬車に揺られること二ヶ月。私が連れてこられたのは小さな寝室と、ダイニングしか無い小さな平民の家だった。
「ここで好きに生きるといいと旦那様からの言伝です。こちらは生活費にと旦那様から預かってきました」
小さな小袋に数枚の金貨と銀貨が数枚入っていました。
「ドレスも買えないではないですか!!」
「平民ですからドレスは必要ないと思いますよ」
「私はハイアット家の娘ですよ!!」
「旦那様は娘はもう死んだと仰っていました」
「お父様は私を捨てたの?」
ここに来て私の立場の危うさに気が付きました。
「・・・・・・一ヶ月だけ平民の生活の仕方を教えてくれるのが、このラルカという娘でございます。お嬢様の態度が悪ければ、その場限りとなりますので、よくよく考えて行動されたほうがよいと思います。では私どもはこれにて失礼いたします」
走り去っていく馬車が見えなくなるまで、何度も「置いて行かないで」と叫んだが、馬車が戻ってくることはなかった。
十二歳の頃、家庭教師のクルルスに男性が女性を可愛がるということを教えてくれた。
誰かに抱きしめてもらった記憶が殆どない私にはとても嬉しいものだった。
「このことは誰にも言ってはいけません」と言われ、私は家庭教師の言うことを素直に聞いた。
抱きしめられ、可愛がられることが嬉しくてたまらなかった。
クルルスの教育課程が終わってしまって、私を可愛がってくれる人が居なくなってしまい、私は寂しくて仕方がなかった。
お茶会で話が合う第三王子に「可愛がって」とお願いした。
第三王子はクルルスと違い、私の下腹部に興味を示し、私の中に何かが入ってきた。
第三王子が私に飽きるまで関係は続いたけれど、会えるのは月に一度か二度で、物足りなくて私を可愛がってくれる男の子たちの間をひらひらと舞っていた。
そのことが貴族の間で噂になり、私を誘う人は子供達だけではなくなり、お父様と同じ年頃の人にも可愛がってもらえるようになった。
大人の人に抱きしめられるとお父様に抱きしめられているようでとても嬉しかった。
子供では味わえない喜びに揺蕩っていられたのは短い間だった。
お父様が私の噂を聞きつけ、私は問い詰められた。私はただ沢山の人に可愛がってもらっていただけなので、正直にお父様に話すと、激怒した父にランベルトへと追いやられてしまった。
お父様が何を怒っているのか分からないまま、私よりずっと身分が下の、小さな離れに押し込まれたことが不服だった。
フランクはちょっといい男で、私を可愛がってくれると信じていたのに、私を蔑ろにして、離れに鉄格子を付けた。
外で可愛がってもらうこともできず、悶々と離れに閉じ込められていると、気持ちが悪くなり、お腹が日に日に膨らんでいった。
生まれたきた子の父親が誰か聞かれたが、子供がなぜできたのか分からなくて答えようがなかった。
カンダルの孫に可愛がられたことがあるか?とカンダルに聞かれ、何度も可愛がってもらったと答えると、カンダルは唇が切れてしまうほど唇を噛み締めていた。
今までに可愛がってくれた人の名前を教えるように言われ、次々に名前を挙げていくとカンダルが驚いた顔をしたのはちょっと面白かった。
その時に、初めて可愛がられると子供が出来るのだと教えられた。
ラルカという平民の娘は、私に火の起こし方から教えようとしてくれたが、私はそれより貴族を紹介して欲しいと頼んだ。
平民に貴族を紹介できるわけがないと鼻で笑われ、私の今までの話をすると、ラルカは私に娼館へ行ったほうがいいと娼館を紹介してくれた。
ラルカが大きな袋にぎっしりと詰まった金貨を持って「ここに居ればアントワネット様は沢山の人に可愛がってもらえますよ」と言って帰っていった。
また、鉄格子が嵌った部屋に入れられ、可愛がってくれる人を探しなさいと言われ、とても不味い薬湯を飲まされた。
これを飲んでいれば子はできないから、好きなだけ可愛がられるといいと言い、この店の亭主だと言う人も私を可愛がってくれた。
沢山の人に可愛がられたが、私が嫌がることをする人もいて、店の亭主に訴えると私の仕事なのだから嫌なことも我慢しなければならないと言われた。
可愛がられたくない日にも私を可愛がる人はやって来て、私は可愛がられることが少し嫌になってきた。
亭主にもう嫌だと伝えると「仕事はしっかりしなければならない」の一点張りで、私の言い分は聞いてくれなかった。
お父様に会いたい。
私がここで沢山の男に可愛がられているのはなぜなのか考えたけれど、答えは解らなかった。
BAD END




