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「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」  作者: 瀬崎遊


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マチルダが離れに入った理由。

「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」というセリフから物語が始まると決めています。

 夫 フランク

 妻 マリリン

 子 ジョン (産まれていない場合もある)

 子 ジャッキー (産まれていない場合もある)

 子 ダンク (産まれない場合もある)

上記の設定に則って、色々な一話完結型の話を作ってみようと思います。

 

 一話完結なのでどの話から読んでいただいても大丈夫です。

「マリリン・・・来月、離れに女性を入れる事になる」

「どういうことです?」

「いや、よく分からないんだが、姪のマチルダが王都で離婚なのか、別居なのか、することになって暫く身を隠すために預かってくれと、弟のアルバインから先触れが来たんだ」



「マチルダってまだ十五か十六歳くらいじゃなかったですか?」

「それくらいだったと思うんだが、送られてきた手紙ではよく分からなくてな・・・」

「マチルダなら離れより本邸の方がいいのではないですか?」

「それが、マチルダが人に会いたくないと言っているらしくて・・・」

「そう、なのですか?離れでゆっくりできるのならいいのですが・・・」



 マチルダはまだ十六歳。なのに久しぶりに会ったマチルダは以前の明るく朗らかだったところが無くなってしまっていて、俯いて私達とも目が合わせられず、何を言っているか分からないほど小さな声でモゾモゾと挨拶をしていた。

 その様子に私は胸が締め付けられるように苦しくて、私はマチルダの見える場所から手を差し伸べて「触れさせてね」と言ってマチルダを抱きしめた。

 マチルダはビクッと震え、声もあげずに涙をポロポロと零した。

 マチルダが落ち着くのを待って、離れに案内した。



 マチルダは離れでは殆ど口を利かず、ただ黙って外の景色を見ていたり、ぼーっとしている。と使用人から報告があった。

 その使用人の気配を感じると怯えるようで、ごく限られた使用人だけをマチルダの側に置いた。

 食べ物もまともに食べない為、体力が削られているのが心配です。とも報告されている。


「フランク、王都に行ってマチルダに何があったのか調べてきてちょうだい。このままだと、マチルダは死んでしまうわ」

「分かった。留守の間マチルダを頼む」




 フランクが出掛けてからもマチルダは今にも死にそうなほど儚かった。

 私は毎日マチルダの下に通い、近寄リすぎないよう側に居るしかなかった。

 使用人達には決して目を離さないように頼み、私はフランクの帰りを待っていた。


 私は子供達のことをマチルダに話し、子供達をマチルダの部屋で遊ばせられるようになった。

 子供達はマチルダの救いになってくれたようで、食べられなかった食事も、子供達が勧めると、一口二口と食べるようになってきた。


 ぎこちないけれど、マチルダに笑顔が見え始め、ほんの少し安心できるようになった頃になってフランクが王都から帰ってきた。



「マチルダの婚約者はセルラト侯爵家の嫡男でボイルというらしい。小さい頃から仲がよく、政略的にも意味があったから婚約が結ばれたそうだ。ずっと上手くつき合っていて、互いに好意を持っていたらしい。それが学園に行きだしてからおかしくなっていったそうなんだ。ボイルが男爵家の女に心を奪われて、マチルダを蔑ろにし始め、仲睦まじい姿を見せつけ、遂には睦み合っているところをもマチルダに見せたそうだ」


「そんなっ・・・」

「挙げ句にマチルダのデビュタントのパートナーにならず、男爵家の娘のパートナーになったらしい」

「・・・よく家族が許しましたね」

「許さなかったらしいが、ボイルの独断だったそうだ。アルバインも抗議したそうだが、終わってしまってから何を言ってももう遅い。それに伯爵家のアルバインには侯爵家に強く言えなかったのもあったみたいだ。それに味をしめたボイルがマチルダに侯爵家の圧力を掛けて言うことを聞かせていたみたいなんだ」


「そんな・・・婚約解消できなかったのですか?」

「出来なかったみたいだ。マチルダは婚約者であるボイルに酷く扱われるだけでなく、学園の者たちにも酷く扱われていたようだ」

「どうしてそんな事に?」


「ボイルが粗雑に扱うのを見て、何を勘違いしたのか、他の者達も同じようにマチルダに酷いことを言ったり、時には暴力も振るわれたみたいだ」

「そんなっ!!誰も力になってくれなかったのですか?」

「そのようだ・・・」

 フランクは酷く苦いものを噛んだような顔をして話し続ける。


「デビュタントの後にマチルダから婚約破棄を申し出たそうなのだが、ボイルもセルライト侯爵も受け入れなかったそうだ」

「どうして?」

 怒りに体が震えて、拳を握りしめてフランクを思わず叩いてしまう。


「侯爵家に迎え入れるには男爵令嬢では身分が低すぎるからと言うことだったらしい」

「その男爵令嬢とも別れる気はなかったっていうこと?」

「そういうことみたいだ。マチルダと婚約は継続したまま、男爵令嬢を婚約者のように扱っていたらしい。セルライト侯爵が、マチルダと結婚するなら男爵令嬢を愛妾とすることを許したそうだ」


「そんな!それではあまりにもマチルダが・・・」

「そうなんだよ。で、アルバインが婚約破棄を申し入れたが、何かと言い訳して、挙げ句に侯爵家として圧力をかけてきたらしい。結局、婚約破棄を受け入れてはもらえなかったそうだ」

「酷すぎるわ」

「私もそう思うよ」


「そして男爵令嬢が十五歳になったからと、マチルダと結婚式をすることにしたらしいんだ」

「どうして?意味が分からないわ。アルバインが許さないでしょう?!」

「それがセルライト家が密かに準備していて、アルバイン達に圧力をかけて結婚式を執り行ったようなんだ」

「なんなの?マチルダをどこまで馬鹿にしたら気が済むの?!それで私達、結婚式に呼ばれていないのね?」


「その結婚式はボイルと男爵令嬢が新郎新婦として並んだそうだ」

「なんなのですか!それは!!」

「そうだよな。それも、マチルダのウエディングドレスを男爵令嬢が着て、男爵令嬢が用意したワンピースのようなみすぼらしいウエディングドレスを着たマチルダが二人の後を付いて歩かされたそうだ」


「アルバンがよくそんなことを許しましたね!!私なら中止にさせています!!」

「流石にセルライト侯爵も慌てたらしいが、これも終わってしまったことを言っても仕方ないとボイルが笑って言ったそうだ」

「許せないわ」


「アルバインやセルライト侯爵が居ないときを狙われて、マチルダには両親も納得していることだから言うことを聞けとボイルと男爵令嬢に責め立てられていたらしい」


「何なのそれ。酷すぎるわ」

 私は悔しくて口元を押さえ、涙が目に浮かび上がるのを抑えられなかった。

「その後がもっと酷い」

「これよりまだ酷いことがあるの?」

 フランクは真剣な目をして頷いた。


「マチルダは、男爵令嬢がいるから白い結婚だと思っていたらしいんだが、初夜にボイルと男爵令嬢がやって来て、男爵令嬢に押さえられて力ずくで・・・」

「そんなっ・・・!!」

「その間、男爵令嬢はマチルダを罵り嘲笑ったそうだ。ボイルも同じように嘲笑いながら初夜をおえたそうだ」


 もう、言葉も出なかった。

「それからも何度も同じことがあって、妊娠せず月のものが来てまた罵られたそうだ。その時、男爵令嬢は妊娠していたそうだ。子供を入れ替える予定が出来なくなったと、ボイルと男爵令嬢に何度も殴られ蹴られたそうだ」


「・・・・・・」

「仕事から戻ってきたアルバインがマチルダに会いに行くと、マチルダが男爵令嬢とボイルに暴行を受けていたそうだ」

「そんな・・・」


「アルバインが慌ててマチルダを連れて帰り、医者に見せ、マチルダに話を聞き出して、調べたところ、マチルダがサインしなかったために婚姻も結ばれていない状態だったそうだ」

「・・・妊娠しなかったことだけが救いですね」

「救いなどどこにもないように思うよ」

「そうですね」


「そしてアルバインがセルライト侯爵とボイル、男爵令嬢を相手に裁判を起こした」

「それは・・・マチルダが耐えられると思えないわ・・・」

「私もそう思ったが、マチルダがすべてを白日の元にさらしてくれと言ったそうだ」

「そう・・・」

「セルライト侯爵家の使用人に至るまで全員が入牢しているそうだ。その時、気丈にもマチルダは取り調べですべてを話したそうだ」

「マチルダ・・・」


「判決が出て、セルライト侯爵家のすべてをアルバインが継ぐことになったそうだ」

「そんなことでマチルダは救われないわ」

「そうだな。それに、セルライト侯爵家に住む気にもなれないだろう」


「ほとんど片付いてからこちらに来たということですか?」

「そうなる」

「どうして今まで連絡をくれなかったのでしょう」

「それどころじゃなかったんだと思う」

「そう、私達では大した力にもなれませんものね・・・」


「セルライト侯爵と奥方、ボイルとその妹と弟は貴族籍を抜かれ、妹弟以外全員が二十年の労役。家令は十年、使用人達は五年の労役、男爵家は失爵。と決まったそうだ」

「それでもマチルダが報われることはないわ」

「そう・・・だな」

 フランクは悔しそうに拳を握りしめた。



 マチルダはその後、ジョンとその子供達に見守られ、離れで七十五歳まで穏やかに生き、その一生を終えた。


                                        END

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