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真実の愛かどうかの問題じゃない

作者: ひおむし


【後書き、ハッタリが効く→ハッタリが利く】お待たせいたしました、ジェームズ様、ミアさん。

それで先触れもなく、一体何の御用でしょうか。

私達の婚約は無事破棄されたと伺いましたが。


……え?

せっかく破棄されたのに、ミアさんとの婚約が認められない?

はあ。それが何か?


は? 私が何かしたと?

バカなんですか? あら、失礼。バカなんですね?


当たり前でしょう。こちらは最初から、そちらの不貞で婚約破棄をずっと申し出ていたというのに、なぜそうなるのです。

え? 愛されなかった嫌がらせ? 

そういうのは愛されたくなる程の値打ちを身につけてから言ってくださいな。

騒がないでください。現に今あなたはご両親からもバカすぎて見捨てられてる状態じゃないですか。


……はぁ、もう図星を指されると怒鳴る所は変わらないのですね。本当に進歩がない方ですこと。


いいですか、まずそもそもの話を整理しましょう。

私、ソフィア・ウィルソンとジェームズ・ジュライト侯爵子息様は10歳の時に婚約を結びました。それはウィルソン伯爵家が代々魔法工学を生業とし、当時父が魔石を燃料とした魔導コンロを開発した事でうちは子爵から伯爵になった事がきっかけでした。これらは作成する職人と資金があれば大量生産が可能となり、そこには大きなお金が動きます。職人に関してはウィルソン家でなくてはなりませんが、資金はどこでも構わないのですよ。大きなリターンが見込まれるのはわかっていたので、それはもうたくさんの家々からお申し込みをいただきました。


そして、ジュライト侯爵は学生時代私の父と同級生だったという縁で私達の婚約をねじ込み、ウィルソン家と共同開発という立場を勝ち取りました。


……は? 何言ってるんですか、伯爵になりたてのうちから侯爵家に婚約なんか申し出られるわけがないでしょう。それはもうゴリッゴリにそちらからねじ込んできたんですよ。

爵位や学生時代の縁を盾にされて、外堀埋められて、仕舞いには侯爵様に駄々をこねられて。

父と同い年の殿方に全力で泣きつかれた私の気持ちがわかりまして? かなり、相当なホラーでしたわっ。


……失礼、話が逸れました。ええと、それでそんなホラーな経緯で私達の婚約は結ばれました。まぁ、貴族である以上政略結婚はある程度仕方がないと覚悟はしていましたし、初対面で『有名な美少女だと聞いたのに何で金髪じゃないんだ。普通美少女と言ったら金髪に青か緑の瞳だろうっ』と10歳にして中々のフェチズム全開な発言をする相手でも心を無にして耐えました。


……え? あら、ミアさん、頭を抱えてどうなさったの。綺麗な金髪が乱れましてよ。


はぁ、余計な事を言うな、ですか。まぁ今更どうでも良いのですが。

それでも、貴族の義務として、恋愛はできなくとも人として信頼が築けるよう、私なりに努力してきたつもりです。

人の髪を見る度にため息をつく婚約者でも、心の中で中途半端に髪が抜け落ちる呪いの言葉を繰り返す位にとどめ、折に触れての贈り物にお手紙、お茶会や観劇の誘いもいたしました。

お茶会は5回に1回、観劇は主演女優が金髪の時だけ参加され、私の誕生日には毎年金髪の毛染め薬を頂いたりしながらも何とかだましだまし私達の婚約は続いていました。


学園でジェームズ様とミア・カーター男爵令嬢が『真実の愛』に目覚めるまでは。


……ええ、それはもう何年も何年も何年もほんっとうにしつこく言われ続けた『理想の美少女』ですから、いとも簡単……チョロ……一途に恋に落ちたのはすぐにわかりました。


ですから、私としてはその時点で婚約を是非とも解消していただきたかったのです。

実際、学園に通う間、まぁものの見事に私という存在を忘れ、お二人で幸せそうに過ごされていましたもの。その間、私は婚約者が同行するのが普通のイベントで兄や従兄弟にエスコートを頼まなければならなくて、大変でしたのに。

こちらから何度も侯爵家には破棄とは言わない、解消でも構わない、と伝えていましたわ。


……え? 当たり前でしょう。逆に聞きますけど、その状況で私がジェームズ様と婚約を続けたいと願う理由って何かあります?

……は? 貴方方、まさか私がジェームズ様をお慕いしているとでも思ってらしたの? 冗談は性癖だけにしてくださらない?

本来なら今までの精神的苦痛に対する慰謝料も含めて、婚約破棄の賠償金を払っていただきたいのを我慢してでも婚約を解消しようとしていましたのに、そこでまた侯爵家が駄々をこねにこねて。ええもう、巷で人気の『天使のふわふわブレッド』でもここまでこねないだろうと言う位にこねられて、婚約解消すらできず。

このままでは私の卒業後の進退がどうなるのか、と危ぶまれていたところ、貴方方の『婚約破棄ショー』が開催されたのです。


……だから何ですか、いちいち話の腰を折らないでくださいな。

当たり前ですよ、あんな真っ昼間の学園の食堂でいきなり婚約破棄宣言なんかなさって。ナシゴレンを食べている時に突然『私達の愛のメモリー』を振り付きで語られた私の気持ちがわかりますか。あれをショーと言わずに何と言いますの。

あの後面識のない方々から『おめでとう!』『祝・婚約破棄!』と声をかけられ、友人からは『本当に良かった』『ずっと心配していた』と真剣に涙ぐまれ、挙句の果てには生徒会長である第二王子からは詳しく説明を求められた挙げ句にチアノーゼになりかかる程爆笑され。全くいい見世物でしたわ。

まぁ、あれ位やらないと破棄できない、というお言葉には同意しましたし、おかげでようやく、よ・う・や・く! 私達の婚約は破棄され、私は晴れて自由の身になりました。


……というわけで、貴方方との縁はとっくに切れておりますので。お二人で手に手を取って夢の国だろうが北の国だろうが、お好きに旅立っていただいて一向に構いませんが。

一体どうして、今更私の存在がお二人の婚約の邪魔になっているなんてくだらない寝言を仰っているの?


……ええ、この婚約破棄に伴い、慰謝料代わりにお約束していたジュライト家が受け取る配分のライセンス料は全て私個人のものとなりました。豊富な資金提供のおかげで魔導コンロは一般家庭でも購入できる値段で販売され、現在諸外国から輸入の申込みも多数いただいております。ウィルソン家としても、私個人としても今後莫大な収益が見込まれておりますわ。

反して、ジュライト家は資金提供だけで全くの見返りなし、となりました。慰謝料なのですから、本来そこで終わりにしてもよろしかったのですが、変に恨みを持たれても面倒ですし、受けた資金は全て同額お返ししましたの。


ジュライト家としても、利益はなくなりましたが少なくとも損もなくなったのですし、落とし所としてはそちらにかなり融通をきかせたつもりですが。


後は私とジュライト家の世間的な傷跡の処理、ですが。

それこそもう各々の家で処理すべきことでしょう。むしろここで関わりを持つ方がおかしいというものです。


え? その慰謝料のせいで自分達が認められない?

侯爵家の莫大な収益より自分のわがままを優先した者に後は継がせられない?

家に何の利益ももたらさない令嬢を侯爵夫人になどできない?

跡取りは弟に変更の上廃嫡、ですか。それはそれは。

あの情緒が常によろしくない侯爵様が随分と思い切りましたこと。


……それが何故私のせいに?


え、何ですかミアさん。

ええ、確かにショーで貴方が『人の心は自由で、誰を愛するかは身分で差別するものじゃない』と吠えた……失礼、仰った時、私は肯定しました。今でもそう思っていますわ。

え? なら何で自分たちの仲を侯爵家に後押ししてくれないんだ、ですって?

自分達の愛を認めてるなら、慰謝料なんて請求するな、ですって?

真実の愛に目覚めた事が悪い事だなんておかしい、ですか?


…………あの、まさかと思いますけれど、それが貴方方の言う『婚約が認められないのはソフィア・ウィルソンのせい』ということですの?


……そうですか、了解いたしました。

では失礼、私今から少々淑女を放棄いたしますわ。



貴方方はバカですかっ、いえ、バカなのはわかっていますわ、ええ、貴方方はバカですっ。

冗談は存在だけにしてくださいませ、シンプルに正気を疑いますわっ。


どうして自分たちが悪い事になるのか、ですってっ?


そんな事当たり前でしょうっ。

貴方方に自由に人を愛する権利があっても、社会的、かつ人道的な責任を放棄する権利はないからですっ。


……ふう、失礼。


あのですね、先程から聞いていると、どうも貴方方は問題を一緒にしてらっしゃるようですが、そこからしておかしいとわかりませんか。


心の中でしたら誰を愛するのも確かに自由です。けれど、行動に移すなら話は別でしょう。

行動には責任が伴うのは、それこそ身分と関係ないことです。


ジェームズ様は私の婚約者として不適切な、ミアさんは私の婚約者に対して不適切な事をなさった。だから、慰謝料が発生したのです。

慰謝料というのは相手に対する謝罪の意です。

家と家で正式に交わした婚約を自分達の身勝手で破棄し、なおかつ私の人生に傷をつけたのですから、謝罪するのは当然でしょう。


……逆に聞きたいんですけど、どうして真実の愛なら慰謝料を払わなくて良いと思ったんですか。

はあ、真実の愛を認めたならこっちの事を思いやってくれるのが当然、と。

では伺いたいのですが、貴方方は一度でも私の事を思いやってくれた事がありましたか。

散々、私の事情は無視しておいて何を言っておられるのやら。


ええ? 自分達だって辛かったですって?

自分が愛する人を周囲に認められない辛さがわかるか、ですって?


ええ、わかりませんわ。

だって貴方方はちっとも認められる努力をしていませんでしたから。


意味がわからない、という顔をしないでください。

貴方方、自分たちが認められるためにどんな努力をされましたか。


はぁ、喚き立てるのが努力、とおっしゃいますか。

さすが駄々をこねて契約をもぎ取るジュライト侯爵家のご子息ですわね。もしやお家芸ですの?


え、父と一緒にするな、と。

しますわよ、それは。


貴方方は私に対してもですが、家に対しても周囲に対してもすべきことを全くなさっていませんもの。


自分たちの婚約を周囲に認めさせたいのなら、まずジェームズ様は妻の身分が低くても、自分がその分利益を出せる、と己の行動で証明すれば良かったのです。

試験の成績を上げる、剣術大会で上位に入る、他の貴族との交流をはかる、あるいは己の個人財産で何か商売をしてみる、など。

要は『ミア・カーターと付き合い始めた事でジェームズ・ジュライトの価値が上がった』と周囲に思わせれば良かったのですよ。


そしてミアさん、貴方もです。

ええ、貴方は貴族とは名ばかりの平民同然の男爵令嬢で、学園に入るまでほとんど貴族教育も受けていなかったのは知っています。

何しろ周囲から注意される度に『今まで教育を受けてこれなかったからわからない』の繰り返し、それでも全く同じ事をするので何度も注意されれば『生まれた時から教育を受ける事ができた貴方達には私の苦労なんてわからないっ』と泣き出す始末ですもの。


ですが、それが通用したのは入学してせいぜい一学期までです。

なぜですって?

当たり前でしょう。学園は教育を受けるところです。


確かに教育を受けられない環境に生まれついたのは貴方の責任ではありません。

ですが、教育を受けられる環境に来ても変わらないのなら、それは貴方の責任です。

皆が知っている事を知らない状態でスタートすればそれは大変でしょう。

ですが、学園ではそういった方々のための自由参加の特別補習講座を設けています。実際、ミアさんのような立場の方や、ミアさんよりも苦労なさっている方々は少なくありませんもの。

そうした方々は皆さん、ご自分で学ばれております事はちゃんと説明されたでしょう。


教育を受ける環境ではなかった、というのは裏返せば環境を整えればそれだけ伸びしろがあるという事でもあるのです。

ミアさんが本当にジェームズ様と結ばれてジュライト侯爵夫人になるおつもりなら、せめて誠心誠意努力なされば良かったのですわ。

そうすれば、『何の教育も受けていなかった名ばかりの貴族だが、愛した人のためにここまで努力をする事ができる令嬢だ』と周囲にも伝わりましたでしょう。


そうやってすべきことをしていれば、婚約が認められるかはともかく、少なくとも自分たちが本気だということはわかってもらえたでしょうに。

貴方方は日々『引き裂かれる悲劇の恋人同士』ごっこに現を抜かして、成績も評判も下がる一方でした。

婚約者の事も成績もそっちのけで遊び回るばかりで、愛する人を認めてもらうための努力をせず、お互いに駄目なところを伸ばしあっていた。


だから、誰も貴方方の言う『真実の愛』を信じていないのです。


……ええ、そうですよ。貴方方の言う『真実の愛』は周囲からはただの戯言としか思われていません。

せいぜい玉の輿狙いの身の程知らずと、性欲に負けた愚か者と言ったところでしょうね。


だって、『真実の愛』を叫ぶだけで、叶える努力を何もしていないんですもの。



……いい加減、ご理解いただけましたか。

貴方方の今の状況は、今まで貴方方がやった事とやらなかった事の結果であって、ソフィア・ウィルソンとは何の関係もない事を。


わかっていただけたのなら、どうぞお引取りを。

そして、今度こそもう当家とは関わらないでくださいまし。

私はこれから山程来ている見合いの選定で忙しいのです。

貴方方にこれ以上邪魔されたくありません。




自由に人を愛する権利があっても、他人の人生を壊す権利など、誰にもないのですから。


「面白い!」「また読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!


ソフィア・ウィルソン

伯爵令嬢

黒髪黒目、スッキリした端正な顔立ちの知的美少女

本人も魔道工学の研究をしていて、この後慰謝料でガンガン発明していく。ずっと研究だけして生きていく気満々だったのに爆笑第二王子に口説かれて口説かれて、最終的に根負けする。


ジェームズ・ジュライト

侯爵子息

金髪碧眼の天使系美少年。家族皆同じカラーリングのため、金髪が美の基準だと思っている金髪フェチ。

廃嫡後、何度か行った劇を思い出し、あの役者より自分の方がよっぽど美形だから花形役者になってチヤホヤされよう!としたが演技力0の癖に目立とうとしてばかりで、端役すらもらえなくなり下働きになる。ミアにも捨てられるが、本人はどうしてこうなったのかわからない。数年後、多分ソフィアの呪いで中途半端にハ◯る(笑)


ミア・カーター

男爵令嬢

金髪緑目の小悪魔系美少女。玉の輿狙っていたらあっさり侯爵子息がひっかかった。

ジェームズと一緒に劇団へ。ジェームズよりはハッタリが効くが、所詮プロに比べて薄っぺらのため端役止まり。スポンサーに枕営業をしかけて主演を勝ち取りジェームズを捨てる。が、即座にスポンサーの妻にバレてボコボコにされて追い出される。下手に女優として顔が知られてしまった為まともな所には就職出来ず、ヤバい系の愛人に。



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― 新着の感想 ―
投稿感謝です^^ >冗談は性癖だけにしてくださらない? 他は冗談にすらならないんだろうなぁ、と読み進めたら >冗談は存在だけにしてくださいませ で他人事なのにギャフンと言わされかけました(;^_^A…
[気になる点] さり気なくディスられている、ジェームズのパパ候爵のダダこね(笑)
[良い点] 終始ソフィアのセリフのみにもかかわらず、彼女の憤りとジェームズ、ミアのバカさ加減がこれ以上なく伝わってきます。 彼らのとにかく自分の都合がいいように解釈するところはある意味で羨ましく、しか…
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