壱話「神盾」
かつての"英雄"ヒスイは、戦争を終わらせてから2年頃に世界の各地を旅して回っていた。
そして__
「あれ、ここどこだ……?」
只今、1人砂漠をさまよっている。
「水が欲しい、うぅ……」
そう呟きながらヒスイはどこかの出口を探しながら歩き始める。しばらくこの砂漠にいて疲れているのか?
その姿を俺は後ろから追っている最中。ストーカーでは無い。俺は通信機のようなものに電源を入れ、
「対象〔ヒスイ〕確認した……。砂漠でなにか探索を行っている模様。いや……アレは道に迷ってるのか?」
と状況を伝える。
見たまんま、"英雄"は砂漠で迷子だったのだ。
「ぅ……兎に角砂漠の外に行くか。どっちでもいいからまっすぐ進んでたらそのうち出れるだろ。広いとかは知らん。」
そう枯れるような声で言うとヒスイは適当な方向へ走り始めた。
要はやっぱり道に迷っているという所か……。まさか方向音痴だったとは……。
そんなことを考えているとヒスイがテキトーだと思われる方向へいきなり走り始めた。さっきの「真っ直ぐ走っときゃいつか出れる理論」の実行だ。だが俺はそれよりもヒスイの疾さに動揺した。
「ん!?速!!??……チ、すぐ追いついてやる……!
追いかけ続けること数分後。
「出れた出れたー!」
英雄は砂漠の外に出て勢いか何かで何故か高速道路まで来ていた。もうここがどこの高速道路かも分からない。ヒスイは。俺にはGPSがついてる。
……それを追う俺も直ぐに到着して見える所からヒスイを監視することにした。
「あの『霊力』の使い方のうまさ……『死無羅さん』が見込むのも納得だ。【ゼロスアイ】なら神眼も強いだろうしな」
俺がそんなことを考えている間、ヒスイは何かを思いついたような顔をした。
「……今日はもうここら辺で野宿するか!」
……?
……今アイツなんつった、ここ一応高速道路だぞ……てかアイツ独り言多くね?む、まぁそういう奴だと割り切るしかないな。
取り敢えず今寝られたら困るし……今からでも「勧誘」始めるか。
そしてヒスイに声をかけようとしたその時__
「ん……いない……!?」
ヒスイは消え__
ザァッ!!!
刹那、英雄は俺の後ろに回り込み、
「さっきからバレバレなんだよ、その尾行……んで、」
綺麗に着地してから、
「何の用だ?」
と訊いてきた。
俺は両手を上げ観念する意志を示して、
「バレたからには仕方が無いがとある任務で来させてもらった」
「任務……?」
「あぁ。俺は神盾って組織の一員、まぁ流 水無月って名前なんだが、お前が強いから組織に勧誘して来い……みたいな任務だ」
「あー、そういうことね……。なるほど、そういう組織もあるのか……。理解した。その話には乗らせてもらおう。だが1つ質問がある」
……質問?条件があるとかだったら面倒だな……。まぁいい。聞くとしよう……。
「なんで今なんだ?」
「……?」
「いや、俺が英雄とかうんたらだったのは一昔前のことだろ?しかも実際にはソウとかレイ……俺の仲間の方が色々やってるしよ」
「ふむ……なるほどな。それについても事情が関係してるんだが……」
「んーじゃ、早く教えろよ……」
ヒスイがそう言うのを遮り、遠くで、爆発音のような、何かが歪むような、ギュルン!!という音が響いた__
「……何の音だ!?ま、まさか……!?!?」
そう言いながらヒスイは最速で音のした方へと飛んで行く。
よりによって今かよ……!!そう、『とある事情』とは今の爆発音のようなもの。その正体は__
◆◆◆
ヒスイに追いついた所で俺はその穴の正体を目前にして言葉を失った。
そこには、ただ黒い、黒い空間が広がっていた。
この世の憎悪をそこに集結させた……のような黒では無く、ただただ何も無い空間がそこには在った。
ヒスイはそれを前にして、
「なんだよ……クソ……まさか……時空間の歪み……!?なんで、今……!?」
と呟いていた。
「おい、なにか心当たりあるのか!?」
「いや、まぁ……ミツキ、って言ったか?取り敢えず今は逃げるぞ!!『ここにいると巻き込まれる』!!!」
「ッチ。取り敢えず……分かった……!!」
刹那、
穴から黒い触手のような何かが穴から溢れ出て穴の周りを包み込もうとし始めた。
だが、ヒスイは何故か、動かない。気絶……している!?……マズイ!飲み込まれる前に助けに行かなければ……!!
だが黒の巨大化は早かった__間に合わない……!
そしてヒスイが黒に飲み込まれようとした瞬間。
ザァッ!!!!!
マスクをつけ、黒いマントを羽織った人物__神盾の第2隊長、〔藤宮 要〕さんが一瞬にして『そこ』に駆けつけ、ヒスイを背負いその場を離れた。
俺もその場から離れた。
後ろでは既に穴が周りを侵食し始めていた……。
◆◆◆
気絶状態から目を覚ましたヒスイは頭を掻きむしりこう言った。
「クソ、不覚を取られた……いきなり過ぎるだろ……」
今、俺たちは神盾の本部とされる基地に逃げてきている。黒の侵食もう収まったようだ。周りの被害はエグいらしいが。
今は大丈夫そうなので口を開く。
「それよりヒスイ。事情のコトなんだが……」
「あぁもう分かってるよ……あの穴だろ?あれだけ事が進んでるならもっと早く言えよ……」
「いや、分かったのが最近でもあるからな……ってかアレはしょうがないだろ」
「分かったよ……ん……取り敢えずよろしくな」
「ああ」
そんな会話をしている間にさっきの黒マスクに黒マントのカナメさんが来た。
「あの……今…死無羅さんが居ないので……僕が色々決めさせてもらうね……」
「了解です」
だがヒスイは未だ混乱しているようで、
「え、ついていけないんだけど何この急展開……シムラ?って誰だよ」
と言っていた。
お構い無しにカナメさんが口を開き、
「えっと、説明します。今ココが神盾の本基地で、君が新入りでココにきたから配役とかあらためて考えようって事。あ、あと僕は藤宮 要。よ……よろしく」
と説明した。
「なるほど、理解した……。多分。んじゃその配役ってのはどうするんだ?」
「あ、うーん……じゃあヒスイは第4隊長で」
なるほど。ヒスイは第4隊長らしい。いきなり隊長なんて見た事ないがさっきのを見たら納得は出来るな……。
え?隊長?飛び級ヤバくないか?え?え?
空気を読むつもりはないカナメさんは続けて、
「隊員は……ホムラとユキノでいいかな?」
と補足した。
俺は驚いた。駄目だ。あの二人とヒスイはマズイ。あの二人の相性はいいのだが……多分ヒスイとは相性がとても悪い気がする。火と油って感じのような気がする。この人は何を考えているんだ。
「ん〜。分かった」
ヒスイは理解したようだ。
「よし。じゃあ時間もある事だしヒスイ君…は僕と一緒に手合わせでもしない?」
「お。その言葉を待ってたぜ……」
早くも二人の間に火花が散り始めた。カナメさんはそんなガチでも無さそうだが。
「それじゃ、俺はさっきの穴の様子でも見に行きます」
俺の言葉にカナメさんは手を振りながら、矢張り小さい声で、
「よろしく。じゃ、また後で。」
と言った。それはいつもと変わらない、落ち着いた声色だったが、今はそれがいつもより少し気合いの籠った声のような気がした。
◆◆◆
ヒスイ。彼はまだ得体がしれないが、どんな影響を及ぼしてくれるか楽しみになってきたな。既に俺より階級は上な訳なのだが。
穴の様子を見ると言ったがカナメさんとの戦いも少し見ていこう。そう考えた俺は訓練所の見学場所へと向かったのだった。
主人公は一応ヒスイです
これから視点コロコロ変えていきたいと思ってます