零話 「英雄」
記念すべき(?)第零話です!楽しんだ頂けると嬉しいっす((
この世は大戦時代。世界各地で今で言う「戦争」が起きている。
人々が争う理由は昔と然程変わらない。過去より変わったのは「神眼」という異能力を持った者たちが現れたこと。神眼持ちは特殊な能力で戦う存在だった。
__それにより人口は激減、事の発端である第4次世界大戦前である2917年の十五分の一になった。
そんな環境の中、戦おうとする少年達はそこにいた。
◆◆◆
「おい、ヒスイ。そういえば今日だな」
猫目の男が赤い髪の少年にそう呟いた。
「……ああ」
「ん、死ぬなよ」
「相変わらず軽いな……。死なないって。舐めてんのか?」
「分かってるよ。じゃ、いってら」
「よし、任せろ」
このやり取りの後、赤い髪の少年は「ハクリュウ」と呼ばれる組織の本部へ颯爽と飛んで行った。
彼らは「ハクリュウ」と呼ばれる「神眼」をもつ異能者の集団だ。
異能力者は現れたのだが、殆どの者が政府らの「戦争に協力してくれ」という旨の誘いを断り、逆に自らの力で戦争を止めようとする者、激化させようとする者など様々であった。
その中の「自らの手で戦争を止めようとする者」に位置付けられている組織こそがこの「ハクリュウ」。
彼らは今夜、「第6回戦争終結最終作戦」を決行する。
◆
「ん、そろそろ……か……」
ハクリュウの本部に佇んでいるのは青い髪の黒い耳飾りのようなモノをつけた少年。
彼の名前は〔蒼威 奏〕通称「ソウ」。ハクリュウ第1隊長である彼は、とある作戦のためにハクリュウの本部にて、壁に掛けられた時計を見つつそう呟くのだった。
「第6回戦争終結最終作戦」。この長くに続く戦争を終わらせるための作戦の内容、それは『“不純物”と判断された人物や物体をを1箇所に集め、そこを地球ごとを抉りとる』というそれだけ聞くとただただ恐ろしい作戦だ。そこらへんの核兵器よりもヤバいことを「世界を救うため」に行う。第6回、というのはご察しの通り、5回失敗しているのだ。失敗を経て、これしか方法がない、と思い至った。
「今度こそは必ず成功させて__戦争のない世界を作るんだ」
ソウはその拳を握りしめて、決意を表すように、その言葉を口に出した。
ガチャ。
そんな中、ドアを開く音と共に、間の抜けたような、だが気丈とした声が聞こえた。
「ソウ!久しぶり〜」
ソウが呆れながら振り向くとそこには赤い髪の少年、〔紅 緋翠〕、通称「ヒスイ」が居た。
「いや、おい。遅い。」
ヘラヘラとしているが、20分遅刻だった。世界のこれからを決めるかもしれない戦いだと言うのに。
「ごめんて……でもまだレイも来てないしいいだろ?」
慌ててヒスイは弁明しようとする。
「いや、レイは一番最初に来てるぞ」
ソウが言うのと同時に、瞬間、何も無い空間からうね畝るようにして突如また1人、『黒い少年』……そうとしか形容できない……が現れた。
「ヒスイ……遅くないかな?」
彼の名は〔一条 礼〕。影を操る能力者。どこかの名家の出身らしい。今はこれからの準備のために自らが能力により『黒』くなっている。
「え!?まじかよ……俺が最下位か……」
レイにも注意されたヒスイは頭を抱えてそう言う。
「うん。僕が1番だよ」
レイのダメ押し。
「……まあ、いや3人だし?3位って表彰台だし?」
ヒスイは弁明をやめない。既に見苦しい光景だった。
……ソウからの冷たい視線。ヒスイにはそれが見なくてもわかった。
どうにかしてこの空気を打破しようとレイが話し始めた。
「いや、全然大丈夫だよ。どっちかって言うと怒ってるのはソウだね……」
「なら良かったぜ……。良くないけど。レイは怒ると怖いタイプだもんな、多分。あ、そう言えばさ、今日の作戦の確認なんだけど、俺が地球抉るんだよな?」
「いや、言い方。まぁ、間違ってる訳では無いけど。今回で6回目だしね…今回で上手くいくといいな」
「ああ、今回ので終わらせるぞ」
「うん……。いやぁ、ここまで来ると感動だなあ、終わった訳じゃないけども」
「そうだな。ん、悪い、もう時間だな。俺ホントにギリギリだったみたいだ……。俺は先に持ち場に行ってくる」
そしてヒスイは大きく床を蹴り、
パリィン!!!!
ハクリュウ本部の窓ガラスを豪快にぶち割って「持ち場」へと向かっていった。
「相変わらずだなぁ……アレじゃ政府の刺客に見つかっちゃう……すぐにでもここに駆けつけるだろうね。僕達政府の邪魔だから狙われてる身だし」
レイは気だるげにそう呟いた。
それはソウも同じ気持ちのようで、
「もうあの性格はどうにもならねえよ。俺達も行くぞ」
「……ハイ」
そしてソウも本部から持ち場へと。
「またな」
◆
「行ったかな……あの後ソウも壁ぶち壊して持ち場に行くんだから困ったもんだよね……ふふ」
1人本部に残ったレイはそう呟くと同時に、ザザッ。と、微かなノイズ音を聞いた。瞬時に耳を凝らす。
「……こちら政府軍西6隊。対象を確認」
「了解。こちらも確認。攻め込みます」
「了解」
通信が切れる。そして数秒間の静寂。次の瞬間には先ほどまで静かだった本部に爆発音が鳴り響いていた。
「ははっ、やっぱ早いね。君達。無駄なんだけど」
政府からの刺客。レイはすかさず臨戦態勢を取った。
◆
「ふぅ、調べ通りだな。やっと着いた」
ソウはドアを蹴破って中に入る。そこには、「いかにも悪い顔」の某国首脳がいた。
「なんだお前!?どうやってここまで来たんだ!?」
首脳は焦ったような顔で侵入してきたソウを凝視する。ソウは呆れたように、
「全員倒してきたよ、クソが」
と答える。途端、首脳は血相を変えた。
「チィッ……!おい、こいつを殺せ!」
「はい!」
護衛がソウに向かって一斉に襲い掛かる。
しかし、ソウは余裕そうな表情を浮かべたまま。
「おい、そんなもんか?」
ここでのソウの役割は“不純物”の拘束……。即ち、争いの原因や、争いに加担しているものを片っ端から縛り上げるのだ。
ゆっくり、1歩ずつ、目障りな首脳の元へソウが近づく。
「!?……来るな!!」
慌てる首脳。ソウはそれにさほど興味を示していないようだった。
「殺さずにやれ、なんて面倒臭いな……。ま、やるが。行くぞ、『3%』」
ソウが呟いた途端、彼を雷のような形状をしたモノが覆い始めたと思えば、
ビリ、バチッ……ドゴォン!!!
「ぐあっ……!?」
一瞬の出来事。凄まじい電撃が迸った。たったの一撃で数十人が倒れる。それも傍から見ればただの少年がやった事である。
「ば、化け物め……!」
そして数分後。
「ふぅ………これで全員か……」
ソウの神眼は「静電雷」。"電気を操る"というシンプルかつ強力な力だ。使い方次第で様々なことが出来る。故に、普段は家電代として使用される能力。……そんな能力で首脳を1箇所に集め、拘束したソウは手元の通信機を起動し、今回の作戦の「主役」とも言える人物と通信を始めた。番号を打ち込むと、通信が繋がった。
「そっちはもう準備できたか?」
帰ってくる答えはわかっていた。道草を食っているという確信。彼はそういう奴なのだ。
『今向かってるとこだよー』
物凄い轟音と共に、ヒスイの間の抜けた声が返ってきた。
「はぁ。一番最初に出てったんだから早くしろよ。」
どうせ大丈夫なのであろうがソウは保険ということで急かしておいた。
『はぁい。あと今のスゴい音は政府の刺客。こっちにも来たけど片付けといたぜ』
あんな窓ぶっ壊したっていうのに全く緊張感ってのがないようだ。取り敢えずは役割が終わったソウは、残りの時間、"不要物"が積み上げられた山の上で作戦の成功を祈るのであった。
◆
……通信が切れた。早くしろなんてわざわざ言うことかよ。そう考えながらヒスイはそそくさと「目的地」へと向かっていた。彼は道草を食わなければ移動に関しては速い。というわけで数分後の今、ヒスイは上空にいた。
「とうちゃーく!ここからが本番……!!」
今回の作戦でのヒスイの役割は「地球を抉る」こと。戦争に関係のある全てを常識では考えられない。だが、そんな常識は彼のチカラの前には通用しない。
ヒスイがウォーミングアップを始めて少しすると、ソウからの通信が来た。
『そろそろ着いたか?もう時間ないし今からスタートだ』
は?……ヒスイは困惑した。準備はまだ7割くらいしかできてない気がする。とあうか出来てない。
そんなヒスイの心を察することなく通信機からは無慈悲なカウントダウンの声が聞こえてくる。
『3……2……1……』
「あぁ、もう!やってやるよ!ちゃんと打ち合わせしとけばよかった!」
ゴォオオオオ!!!!
ヒスイは上空から急降下を始めた。既に恐ろしいスピードだ。そして、更にスピードをつけ、最大の攻撃を、先程まで腰に携えていた大剣から放つ。
それは、地形……いや、地球ごと抉りとる事が出来る最高威力の技。紅く染まった剣から破壊の刃が放たれる。
「翠玉混沌」
紅いような、翠のような、そんな混沌とした禍々しいオーラがヒスイを包む。
次の瞬間、地球の2割は切り離されていた。勢い余って抉りすぎていた。
「ぷっはぁ!!ストレス発散だぜぇええ!!!!!」
役割をこなしたヒスイは虚空に向かってそう叫んだ。
◆
「やれやれ……」
抉られた地球を影に収める準備をしていたレイは動揺したものの、「なんか、こんなことにはなるだろうなぁ」という予測のおかげで無事に抉られた地球の回収に成功したのであった。
◆◆◆
こうして大戦時代の元凶は全て影に葬り去られた。表面上、戦争は終わったのである。
これを機に人々は立ち上がり、世の中は少しずつ、表面上だけでもの平和に向かっていった。これにより、この3人、特にヒスイが英雄視されていくのだが_____
これは、この話から2年後の彼等を描いた、
破滅の物語である。
どうでしたかね?ご指摘お願いします。・*・:≡( ε:)