死神
〈死神〉
「はぁー。やっと終わりました。今回は結構疲れましたねぇ。
まったく、死神も楽じゃないですよ。また誰かが自殺したらすぐ呼ばれるし・・・。ゆっくり休みが欲しいですねぇ。
でもまあ、いろんな人間がいるから飽きないんですけど。
でも、何で人間という生き物は自殺するんでしょう?そんなに死にたいものなんですかねぇ?与えられた命を全うすれば天国に逝けるのに・・・。自殺なんてしたら待ってるのは地獄だけ・・・。
神の審判だって逝く場所を決める裁判なんて言ってますけど、自殺者には地獄以外に逝く場所なんてないのに。」
死神は少し考えて言った。
「もしかしたら、それが分かってたら自殺なんてしないんですかねぇ。
・・・・・。
でも、生きているより地獄に逝く方がマシだと思う人間もいるんでしょうね。
これだけは何度神の審判で判決を下しても分かりません。」
その時、辺りに鐘の音が鳴り響いた。
「はぁー。またですかー。次の神の審判が終わったら、休暇の申請でもしましょうかね。今度はどんな人間が自殺したんですかねぇ。」
そう言うと、死神は歩き出した。そして歩きながら指を鳴らした。すると死神の手の上に紙の束が現れた。それに目を通しながら、死神はニヤっと笑った。
「これだから死神は辞められないんですよ。」
そう言って死神の姿は消えていった・・・。
何もない真っ白な空間・・・。そこに一人の男が立っていた。辺りを見回し動揺している様子だ。男には、今自分の身に起きた全ての出来事が理解できていなかった。
「どこだ?ここは?」
そう言うと男はあてもなく歩き出した。ありもしない出口を探すかのように、一心不乱に歩いていた。いったい何時間歩き続けているだろう。もう疲労で一歩も歩けそうにないと思ったその時、遠くの方に一人の人物の姿を見つけた。突然迷い込んだこの場所に、自分以外の人間がいた事が嬉しくなり、男は疲れた体に鞭を打ってまた歩き始めた。ようやくその人物の所まで来た男は息も絶え絶えでその場に座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ。やっと、着いた。はぁ、はぁ、君もここで、迷っているのか?」
男はその時きちんとその人物の姿を見た。そこには全身黒い服を着た小柄の若い男が笑みを浮かべながら立っていた。
「いえ、私は迷ってなんかいませんよ。あなたをお待ちしておりました。どうも、お久しぶり・・・じゃなかった。はじめましてでしたね、すいません。いや、以前会った気がしたもので・・・。」
そう告げられ、男は少し考えて言った。
「待っていた?君は誰なんだ?」
「私は、死神です。あなたは先程、自殺しましたね?その件で、あなたを待っていたんですよ。」
男は驚いた顔をみせた。それは自殺した事を当てられたからだった。
「何でそれを・・・。確かにさっき首を吊って自殺した。」
「知ってますよ。」
「本当は自殺なんてしたくなかったんだ・・・。だけどリストラされて・・・。でも、私のせいじゃないんだ!誰か知らないが線路に飛び込んだバカな奴がいて・・・。それで大事な契約がパーになって・・・。そいつが、そいつさえいなかったら、私は自殺しなくて済んだんだ!」
男は怒りを抑えられなくなり声を荒げた。しかし、それとは対照的に死神は冷静に答えた。
「知ってます。あなたに何が起こったのかは全部知ってますよ。私は死神ですからね・・・。クッ、クッ、クッ。」
死神は薄気味悪い顔で笑いつづけた・・・。




