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鬼墓伝説

作者: らんた

昔、父親の佐五郎と息子の清五郎というものが島原に住んでおった。母はトメと言った。


 息子の清五郎はいつも草履が濡れていた。


 (なぜなのだろう)


 親の佐五郎は嫌な予感がした。


 (まさか)


 そこで翌日寝てるふりして息子の清五郎が出かけるのを見送った。佐五郎は清五郎の後を追った。


 清五郎は川を渡っていた。草履が濡れる原因はこの川のせいだった。


 そして清五郎が着いた地は墓場であった。そこで清五郎は骨音を鳴らしながら角を生やし体も大きくなっていく。そして墓の下のある土を掘りまだ新しいであろう少年の死体をうまそうに喰っている。みりみりと骨を引きはがす音や咀嚼の音が木霊する。



 そう、この一帯のご先祖は鬼族だと言われているのだ。鬼と人が結婚して里を築いたと言われる。


 清五郎は……鬼の血に目覚めてしまったのだ。


 あの時……草で切ってしまったときに息子にけがを治してくれと頼んだ。その時親の血を少しなめてしまったのだ。それが原因かもしれぬ。


 だから、最近朝ご飯は要らぬと言っていたのか。


 佐五郎は短刀を取り出した。


 「清五郎!」


 その声に鬼は反応した。


 「オヤジ……」


 「この事を見てしまった以上お前を生かすことは出来ねえ!」


 「何言ってるんだ? もともとこの地は鬼族のものだ。土蜘蛛のものだ! そしてオヤジ! おまえも鬼族なんだよ!」


 佐五郎は拳を懐に食らった。そして羽交い絞めにされた。


 「いいもの見せてやる」


 そういって爪で己の腕をひっかき血を出した。それを父に飲ませた。


 すると何ということだろう。父の佐五郎も骨音を鳴らし体は大きくなり角も額から生えてくるではないか!


 「さあ、オヤジ。答えてもらおう。人の側に着くのか? それとも鬼の側に着くのか? 鬼はいいぞ? なんせ長寿だ。しかも人間に成りすましながらいろんなことも出来る」


 「おらはそんな異形の姿なんて嫌じゃ!」


 そういって巨体となった体を使って息子を倒した。


 「オヤジ……残念だよ。ここまでだな」


 そういってなんと巨体の体が浮く。そしてふっと空を飛んでいく。


 気が付くとまた骨音が鳴っていく。佐五郎は人間の姿に戻っていくではないか。


 「なんてことだ。息子が……」


 以来この墓を「鬼墓」と呼ばれるようになった。


 しかし父は隠し通した。


 己も鬼となってしまったことを。


 一方清五郎は鬼の洞窟に入った。そこには人間になりすましていた姉もいた。


 「やべえ、おきよ。親父にばれた」


 「そうそれは残念ね」


 おきよの言葉の後に清五郎は突然崩れ体を震わせた。


 「な……なんだよこれ!? 鬼になれば長寿になるんじゃねえのかよ」


 「ええ、そうよ。ただし……しばらくの間……一時的に体が利かなくなるけどね」


 その声はまるで獣の呻き声だった。怨嗟の声にも聞こえる。


 「おまえ……だまして……ねえ……だろうな」


 「だましてないわよ。長寿になることもね。ただし……もう人間に擬態することも出来なくなっていくけどね」


 うれしそうに弟の変貌する姿を見下しながらおきよは答えた。


 骨音が響き、肉が裂く音が洞窟に響き渡る。


 「もうすぐね……」


 これが死体を喰って鬼になった者の代償である。


 島原の地に奇病が蔓延したのはそれからしばらくたってからである。墓場で響く咀嚼そしゃくの音も………突如体が動けなくなる奇病も……。それでも人は辞めることが出来なかった。一度人間の血肉という美味を覚えてしまうともう後戻りはできない。鬼になり果てるのだ。


 そしてその鬼どもを操り……狂い笑いする女の姿も見たという目撃情報も……。


=終=

『毎朝玄関にぬれた草履があるのを不信に思った親父が、持ち主の後をつけた。すると息子の清五郎がそれを履いて小川を通って川向こうの墓場に入っていった。父も隠れて着いていくと息子が墓を掘り子供の死体を引きずり出して食べていた。孫の命を心配した彼は決心して息子を退治しようとしたが逃げられた。鬼墓というものがその地にあるが、それが清五郎が暴いた墓か清五郎の墓かはわからない。』


三原良吉「伝説の島原」『旅と伝説』2巻3号(通巻15号)1929年 pp46-52.

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ってことは

1:息子は普段人間のふりをしてた

2:九州によくある「グール型」鬼の典型

ちなみに九州の鬼はバラバラにしても数日で蘇る。鬼八法師が典型

3:親が鬼退治しようとする稀有な例

4:鬼退治に失敗した。

5:1929(昭和4)年の採録だが元ネタはいつの話だろう?

6:まだ土葬の時代の話。ちなみに大正時代まで土葬は割と普通

7:死んで間もない死体を掘り起こしている

8:息子が逃げた先が分からない(アジトがあるはず)


8に関連する話ですが大和朝廷に反逆し洞窟や山間部などに隠れて抵抗する土豪勢力を「土蜘蛛」と言いました。後年は蜘蛛の姿で描かれますがもちろん蜘蛛ではなく人です。朝廷はこの土蜘蛛を鬼と称して抹殺していくのです。九州は熊襲勢力も「鬼」とされましたし土蜘蛛も多数居ましたので今回創作するにあたって設定を追加しました。


次に島原ということでキリシタンつまり西洋のグールが入って来たかという解説ですが「それは大いにある」と推察します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  これが島原の地という部分に、いつの頃から伝わる話かにもよりますけど、天草四郎の島原の乱を踏まえて考えれば、幕府軍かキリシタンが流した一種の情報戦略も加味しているようにさえも思えてきま…
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