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マンフはリョージを見届けた

なんだこりゃ?

やはりジャンルが違う...


 ...更に1ヶ月が過ぎた。


 マンフにとって屈辱の時間だった事は間違いない。

 リョージの周りにはミッシェルとカサリ、そしてホーリーが居る。

 マンフはそれを黙って見るしか出来ない。

 二度もリョージに敗北を喫してしまったのだから。


「いよいよ出発ね」


「ああ」


 期限の3ヶ月が終わり、いよいよリョージは勇者として魔王討伐へと出発する。

 寂しそうなミッシェル達にリョージは軽く微笑んだ。


「安心しろ、魔王なんか軽く捻ってやるよ」


「そうねリョージだもん」


「うん、リョージなら大丈夫よ」


 カサリとホーリーは力一杯に笑う。

 しかしその目は涙で潤んでいた。


「私達も一緒に行けたらいいんだけど」


「うん」


「...ごめんなさい」


「みんな、ありがとう」


 3人の言葉にリョージは少し困った顔で笑う。

 魔王討伐に女の同行は許されない。

 それも神のお約束だった。

 リョージは一人で魔王討伐を決めた。

 勇者の申し出に世界は困惑したが、


 『犠牲になるのは俺一人で充分です』

 リョージの言葉に国王は説得を諦めた。

 勇者には誰もが知る必殺技があったのだ。

 魔王を確実に仕止める事が出来る必殺の魔法。


 しかし、それを使ったならば勇者は確実に死んでしまうとされていた。


「おいマンフ」


 城門を出て、一人街道を歩くリョージが突然マンフの名を呼んだ。


「姿を魔法で隠しても無駄だ」


「...気づいてたのか」


 リョージの言葉に諦めたのかマンフが姿を現した。


「一体なんの用だ?」


「まあ...ちょっとな」


 バツが悪そうにマンフは頬を掻く。

 マンフは旅装姿、腰には剣を帯刀し、腕には魔法に使うロッドが握られていた。


「付いてくる気か?」


「お前が死ぬのを見届けないとな」


「見届ける?」


「そうだ、奪い返すと言った方がいいか」


「お前な...」


『なんの事を言っているのか』

 リョージは呆れながらマンフを見つめる。

 その視線にマンフは顔を赤らめた。


『畜生...何だって俺は』

 抗おうにも視線一つでこの有り様。

 マンフが決して越えられない壁、それがリョージだった。


 二度の敗北以来、マンフは完全にミッシェル達と縁が切れた。

 精細を欠くマンフに周りの女達も離れて行き、更に父親から後継者を外されてしまったのだ。


 マンフは荒れた。

 今まで積み上げて来た物が崩れ落ちたのだから当然だった。

 酒に溺れ、街で喧嘩を繰り返した。

 そして、とうとう実家を追放されたのだ。


「心配するな、自分の食い扶持位の金ならある」


「そんな事は聞いてない」


 実家からの手切れ金は充分に受け取ったマンフ。

 しかしリョージの聞きたい事はそうでは無かった。


「俺は奪ってなど無い」


「はあ?」


「寧ろ奪われたのは俺の方だ」


「なんだと?」


 リョージの言葉が理解出来ないマンフ。


『ミッシェル達を奪ったのは誰の目にも明らかだろ!』

 込み上げる怒りをマンフは必死で堪えた。


「...俺は能力を映し、得る力がある」


「映す?」


 映すとは?

 意味が理解出来ないマンフ。


「そうだ、人のスキルを移し自分に取り込む」


「まさか...お前はその為にミッシェル達と」


「そうだ、彼女達の力は本当に素晴らしかった。

 お陰で魔王を倒せるかもしれない」


「倒せる...かも?」


 リョージの顔が曇るのを見逃さないマンフ。

 彼はリョージの変化に機敏となっていた。


「俺は前世の罰としてこの世界に落とされた」


「罰?」


「そうだ、俺は前世に於いて女達を不幸のドン底に叩き落とすのが最高の愉悦、そんな人間だった」


「...まさか」


 衝撃の告白。

 それはリョージの懺悔だった。

 数々の罪に神は怒り、贖罪の為に勇者として世界を救う任を負わされたリョージ。


 もう彼に女を騙す事は出来ない。

 騙したところで、本懐は達成出来ないのだ。

 その機能を、感情を奪われていた。


「なんだよ...それ」


 ガックリと膝を着くマンフ。

 ミッシェル達は奪われていなかった。

 その事実に打ちのめされる。


「そんな訳だ、ミッシェル達は単に愛想を尽かしただけの事。

 お前と離れて俺の稽古に付き合っている内にな」


「ふざけるな!」


 今までの中で一番の屈辱。

 人間としての魅力を否定されたのだから怒りは当然だった。


「なら付いて来い、俺の最後を見届けろ」


「言われなくとも」


 こうして二人は旅立った。

 討伐の旅は熾烈を極めた。

 何度も死にそうになり、互いに支え合った。

 言葉で決して励まし合う事は無い、ただ無言の連携。

 そんな旅は一年に及んだ。


「行くぞマンフ」


 いよいよ魔王との対決を迎えた。

 熱い絆で結ばれた二人。

 奇妙な信頼関係は互いを高めあっていた。


「来たな勇者と英雄よ」


 魔王を前にする。

 圧倒的な魔力と威厳、それは今まで戦って来た魔族の比では無かった。


「来い」


「行くぞマンフ!」


「任せろリョージ!!」


 一気に駆け出す二人。

 最早恐れる物は無い。

 圧倒的な強さの魔王に立ち向かう、無謀ともいえる戦い。

 しかし結末はアッサリだった。


「アアアーーー!!!」


 魔王羽交い締めにしたマンフ。

 リョージの剣が魔王の尻を貫く。

 辺りに恍惚な魔王の雄叫びが響き渡った。


「勝ったのか?」


「みたいだな」


 灰となった魔王。

 二人は呆然とその場に立ち尽くした。


「良かったな」


「まったくだ」


 ようやく終わった二人の旅。

 しかしマンフの心は晴れない。

 これから何をすれば良いのか分からないのだ。


「安心しろ」


「安心だと?」


 リョージはポツリと呟いた。


「俺はまた違う世界に生まれ変わる。

 そうしたらみんな俺を忘れるさ」


「なに?」


「言ったろ、俺は罪を償う為に来たと」


「まさか...お前」


 全てを察したマンフ。

 つまりリョージは魔王を倒すだけの為に利用されたのだ。

 栄誉等は最初からリョージに与えられる事は無いと。


「この事をミッシェル達は?」


「知ってるさ、知らないのはマンフ、お前だけだ」


「...まさかそんな」


 あれ程リョージを慕っていたミッシェル達。

 しかしそれが全て打算だった。

 足元が崩れ落ちそうな錯覚に囚われた。


「お前に魅了されたんだ」


「リョージ...」


 身体が透けて行くリョージ。

 どうやら最後の時を迎えようとしていた。


「王宮で初めてお前を見た時に俺は魅了された。

 お前は魅了のスキルを持っている」


「そんなバカな!」


 マンフが魅了を持っていた。

 それならばなぜミッシェル達が離れたのか?

 彼女達は魔力検知が出来たのでは?


「世界を救う俺との稽古を拒み、更にケツに何かを生やしてりゃ誰でも愛想が尽きるだろ」


「...うるさい」


 リョージの軽口に涙で答えるマンフ。

 情けなくも静かな笑い声が聞こえた。


「アバヨ」


「ああ、またいつか」


 リョージの姿が消えて行く。

 マンフは腕の中から消えるリョージを最後まで抱き抱えていた。


「あれ?」


 気付けば一人、マンフは荒れ地に立っていた。


「俺は何を?」


 僅かに残る記憶。

 それは魔王を倒した...一人きりで。


「帰ろう」


 マンフはただ一人ピュア・ワン王国へと帰った。


「おめでとう!!」


「凄いわマンフ!!」


 王国に戻ったマンフを迎えたのは熱狂する人々。

 マンフがただ一人で魔王討伐を果たし、無事に戻って来たとなっていた。


「凄いわマンフ!」


「ミッシェル...」


 マンフに飛び付くミッシェル。

 しかしマンフは素直に喜べない。


「いや...義姉(ねえ)さんと呼んで」


 そんなミッシェルの言葉を素直に受け取れないマンフ。

 静かに首を振り、ミッシェルから離れた。


「マンフ!」


「義兄さん!!」


 カサリとホーリーの笑顔もだった。

 マンフには歪んで見えてしまう。


「どうして...」


「何があったの?」


「義兄さん...」


 呆然とする三人を残しマンフはその場を去った。


「旅に出るか」


 全ての栄誉を断ったマンフ。

 三年後、再び旅へと出た。

 そこにミッシェル達の姿は無かった。

 彼女達はアッサリ婚姻を決めたのだ、まるでマンフの好意等最初から無かったかの様に。


 マンフの旅は続いた。

 何しろ世界を救った英雄マンフ。

 どこに行っても大歓迎だった。


 しかしマンフの心は満たされないまま、数十年の月日が流れた。


「...なんだかな」


 既に老境を迎えたマンフ、身体は病に侵され余命は幾ばくもない。

 結局一度も妻帯しなかった。

 求婚は数えきれない程受けた。

 子供だけでも、そんな言葉も。

 しかしマンフに何も無いままの人生だった。


 ミッシェルは隣国の貴族と結婚したが、数年後にピュア・ワン王国と戦争となり、命を落とした。

 殺したのはピュア・ワン王国の王族に嫁いだカサリだったのは因果だろう。

 発狂したカサリはその場で命を絶ったそうだ。


「まあ...生き返ったらしいが」


 生き返えらせたのは同じく王国の貴族に嫁いでいたホーリー。

 二人を生き返えらせると三人は姿を消した。

 おそらくしがらみの無い人生を歩んでいる事だろう、マンフの様に。


「疲れた...」


 空を見るマンフ。

 どこまでも高い空、マンフの目に涙が溢れる。


「なぜた?」


 理由が分からない。

 しかしマンフの涙は止まらない。


「...リョージ」


 それがマンフの残した最後の言葉だった。

すみません『なんだこりゃ?』でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] な、なんだこれ……私は一体何を読まされているんだ……。 来世では二人が幸せに結ばれると良いですね(ニチャァ)。
[良い点] 両者ドロー、もしくは試合不成立。 [一言] 変わり種のお話。これはこれでおもしろい
[良い点] 結末どころか途中も全く予想外だったこと。 フェンシングの試合に呼ばれたと思ったら相撲だった……くらいのイメージですな。 そんな中、女性陣3人が自業自得だったのは安心の作者様品質でした。…
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