佐後勇作の場合④
続けて佐後はコンビニ袋からアメリカンドッグを取り出した。佐後はケチャップが苦手なので、蓋から開けるのではなく、容器の底を噛みちぎってマスタードのみをかけるのが定番だ。
「あー、めちゃくちゃ旨いー、あー温まるー」
アメリカンドッグと缶ビールのマリアージュを楽しんだ後、思い出したようにカーナビのテレビをつけ、ニュース番組をチェックし始めた。
「今日は特におもしろいニュースはねえなあ」
大学生までは「社会がどうあろうと俺には関係ない」とニュースの類は一切見なかったが、社会人になってからは「社会がどうあろうと勝手だが、俺に迷惑をかけることは止めろ」と考えが変わり、地域のニュース、関係企業に関するニュースには注目するようになった。
いまだにニュースのおかげで知識を得たと思えることはないが、同時に放送される芸能ニュースのおかげで取引先との話題作りには困っていない。
テレビに目を移しつつ、佐後が次に手にとったのはサバの味噌煮の缶詰。定食屋で食べるくらいなら、同じ商品は缶詰で済ますのが佐後の流儀だ。
「やっぱ缶詰だからな、非常食としても用いられるわけだから、定食屋のそれよりよっぽど栄養価が高く、それでいて安い!酒にも合うし、全く最高の食い物だよ」
サバ缶の素晴らしさに勝手に感心しながら、今度はハイボール缶を開け、缶をすすりながらサバを食べる。テレビでは天気予報が放送されていた。
(明日も晴れか…この会社に太陽落ちてこねえかなあ…寝るか…)
カーナビを消し、ゴミをまとめてからシートを倒した。横になってベンチコートを掛けると、急激な眠気が襲ってくる。もう独り言をつぶやく元気もなかった
(起きたらコンビニにゴミ捨ててきて、そのまま出社だな。世界一速い出社だよ…)