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呆れるほどズレている人生観  作者: アカツキ
15/16

葛沢正太郎の場合①

 小さいころ、葛沢正太郎はヒーローになりたかった。

 裕福な家庭に生まれ育った葛沢は、生活に何一つ不自由のない幼少期を過ごした。いや、正確に言えば、「不自由」そのものを体験することがなかった。テレビで見る戦隊物の作品であるような悪者による迷惑行為の被害、青春ドラマにあるような挫折と葛藤、そのようなものとはおよそ無縁だった。


 そんな中、小学校で出された「将来の夢」という作文について考えている時、彼は思った。


(ドラマの主人公は挫折も葛藤もするから、今の自分がなることは出来ない。それよりは、悩みもするけど最後に必ず勝つヒーローの方が現実味があるなあ)


 こんな考えから、彼の夢はヒーローとなった。

 中学、高校と進み、常にヒーローになることを目指した葛沢。生徒会長になるのはもちろん、成績も常にトップ、運動もできる、お金にも不自由がない。彼の人生の絶頂がそこにあった。


(学校というところで学ぶことはもうない。大学には行かなくてもいい。それよりも、もっとヒーローになるために学ぶことがあるはずだ。そのためには、倒すべき悪を見定めないといけない)


 そう思い立った葛沢は、大学には進学しなかった。その代わり、高校生時代に築いた広すぎる人脈を使い、彼は闇カジノで働くこととなった。


(ここに金を持ってくる奴は、だいたいが悪党に違いない。こいつらを倒すために、まずは情報収集だ)


 そう思ってバーカウンターに座っている客の1人に声をかけた。


「いかがですか、楽しんでいただけていますか?」


「いやあ、今夜はダメだね。ツキが逃げてったよ」


「まだまだこれからですよ」


 ここで葛沢は声を潜めた。


「いいことをお教えしましょう。ここから見える桜模様のスロットがあるでしょう。そうです、10台並んでいるうちの左から2台目です」


「あの台がどうかしたのか?」


「今日は、あの台だけ設定が緩いんですよ」


「おいおい、ボーイがそんなこと言ってもいいのか?」


「構いませんよ、どうせ世に出せない金がうごめいている店ですから。それにお客様が当てようが当てまいが、私の給料は変わりません。それだったら、お客様に少しでも楽しんでもらいたいじゃないですか」


 男は腕を組んだ。


「・・・本当か?」


「もし100万円入れて元が取れなかったら、全額返金しますよ。この場でね」


「今の言葉、嘘はないな?」


「天下の虎砲組の高石様に嘘など付けますか」


「分かった、俺も男だ。今の言葉、忘れるなよ」


 高石と呼ばれた男は腰を上げ、指定された台でスロットを回し始めた。その後、満面の笑みで葛沢のもとへ戻ってくるのに10分もかからなかった。


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