佐後勇作の場合⑫
その日も簡単な仕事を片付け、暇を持て余していた春日。今日は部署内での出張者が多く「今日の昼ご飯はイタリアンかなあ」と言っていたのを思い出したのか、出張先での昼食を勝手に調査し始めることにした。
そして、初めにアクセスしたサイトで事件は起こった。
「佐後さん、ちょっと画面が変なんですけど」
そう言われて春日のパソコンを確認した佐後。画面には「重大なプログラムに侵されています」「すぐに切断しないと大変なことになります」という大量の注意文と警告文が溢れかえっている。
(コンピュータウイルスだな)
一目で確信した佐後は、すぐにパソコンをインターネットから切断し、LANケーブルを抜いて社内共有サーバからも切り離した。そして、パソコン内のウイルスチェックをしようとしたが、ウイルス対策ソフトが見当たらない。
(これはやばいか・・・?)
正直、佐後もパソコンに詳しい方ではない。だが、取引先にパソコンに精通している知り合いがいることを思い出した佐後は、対応策を聞くことにした。
「突然連絡して申し訳ないです。パソコンの中にウイルスが入ったかもしれなくて、ただ対策ソフトをインストールしたはずが、見当たらないんですよ」
「慌てなくても大丈夫ですよ。USBでも差しましたか?」
「いや、変なサイトを開いちゃったみたいで」
「分かりました、ちょっと待ってください」
その後、知り合いの助けも借りて、パソコンの中に格納されていた対策ソフトを引っ張り出し、スキャンを済ませたところ、ウイルスにも侵されていないことが判明。事なきを得たのだが、佐後がイライラするのはここからだった。
「佐後さん、私、変なサイト開いてませんよ」
春日の突拍子もない発言に、佐後は耳を疑った。
「変なサイト開いてないんですか?」
「そうですよ」
「では何を開いたんですか?」
「イタリア料理のサイトですよ」
「それを開いたらどうなったんですか?」
「画面が変になったんですよ」
「だから、そのサイトが変なサイトだったんじゃないですか?」
「違います!私はイタリア料理のサイトしか開いてないんですよ!勝手に変なサイトを開いたことにしないで下さいよ!」
佐後にとっては、イタリア料理のサイトがウイルスに侵されていたのか、それともイタリア料理のサイトを騙った成りすましのサイトなのか、そんなことはどうでもよかった。また、春日がどう思っていようと、「面倒かけて申し訳ない」の一言でもあればイライラすることもなかった。
そんな佐後の思いを他所に、春日の言い訳は続く。
「どのサイトにアクセスしちゃいけないとか、言われないと分からないじゃないですか!」
「仕事に関係ないことでインターネットを使わなければいいんじゃないですか?」
「だったら、私は今後一切このインターネットのアイコンを押しちゃいけないんですか!?」
「だから、仕事に関係のある時だけ使えばいいんじゃないんですか?」
「そうですか、分かりました、ちょっと失礼します」
そう言って、春日は10分ほど席を外した。そして戻ってきたら開口一番、次のようなことを発言した。
「すみません。ちょっと具合が悪いので、午後は休暇を頂きたいんですが」
佐後は開いた口が塞がらなかった。
後から葛沢に聞いた話によると、春日はちょっとしたことでも注意された後、トイレに籠もり、ひとしきり泣くらしい。それでも気持ちがおさまらなければ休暇をとる傾向にあるとのことだ。
「泣くくらい嫌なら、仕事辞めて転職とかいろいろあるでしょうに」
「今は楽な仕事しかしていないが、それでも余りある給料をもらえているからな。たぶん自主的には辞めないと思うぞ」




