佐後勇作の場合⑨
「こいつも結構高いんだよなあ。それにしても、エアコンがあるってのに、皆USBの扇風機使ってんだよなあ」
そういう佐後は卓上の扇風機を使用していない。
扇風機を置くくらいなら、書類を置いた方がいいし、限られた机は有効活用しなければならない。だから扇風機など置く必要はない、というのが佐後の持論だ。
「もしかしてこのエアコン壊れてんのか?あんまり気にしたことねえが…」
そう思った佐後がエアコンの強さを「強」に変えた次の瞬間、前回の冷気が佐後に襲い掛かる。
「うわっさっむ!めちゃくちゃ効いてるじゃねえか」
たまらずエアコンを切り、佐後は体を思いっきりさすった。
「ったく、もう全員、扇風機使うなよ」
しかし、これでエアコンが故障していないことが実証できた佐後は、改めてエアコンのリースに関する書類に目を通した。
「なんでこんなに高いんだ…?」
契約内容を見ても、おかしな点は見当たらない。エアコンの設置、保守点検、劣化部品の交換など、当たり前の内容だ。
「全部ないと成立しないんだが…ん?」
佐後の視線が一点で止まった。そこには、部品の交換に関する内容で、詳細な項目と金額が記載されていた。そのほとんどは、使用する年数によって劣化が進み、途中で必ず交換する部品だ。
その中で、特に佐後が気になったのは、エアコンのフィルターに関しての部分。書類には、こう書かれている。
「フィルター、半年に一度、有料で交換させていただきます。料金につきましては、リース料に追加して請求いたします」
思わずエアコンを見る佐後。
「エアコンのフィルターって、半年で駄目になるものなのか?」
以前、佐後が独り暮らしをしているアパートにもエアコンは備え付けられていた。十年以上同じ部屋に住み続けていたが、エアコンのフィルターを交換した記憶はない。
佐後がずぼらであまり気にしないというのもあるが、エアコンの調子が悪くなるようなこともなかったと記憶している。
「フィルターの掃除はしたことあるけど、交換ってそんな頻繁にしねえだろ。ったくしゃあねえな」
そうつぶやきながらも佐後は何の判断材料も持ち合わせていなかったので、とりあえずネットで調べることにした。
試しに検索項目に「エアコン フィルター 交換時期」と入力して検索したところ、そこには現状と異なる内容が、すなわち佐後の適当な予想と一致するような内容が掲載されていた。
「なに?二年に一回の交換が目安?これでも早すぎる交換だと?」
思わず契約書類を見直した。確かに「フィルター、半年に一度」と記載されている。契約書類をビリビに破り捨てたくなる衝動に駆られながらも、修正箇所に付箋を張り付けた。付箋には殴り書きで「フィルター交換は不要」と書き残した。おそらく今日の佐後には書類整理後に対応する余裕がないため、明日の佐後のためのメモだ。
「これでいいか。明日にでも自分で直そう。さ、次だ次だ」
こうして佐後の書類整理とともに夜は更けていく。佐後が帰ったのは、これから2時間後のことだった。




