近況
2021年3月、彼は人生に焦っていた。
30歳になって既に2年が過ぎたが、彼は「人生の転機」というものを迎えたことがなかった。
会社勤めで「仕事第一」をモットーに、ほとんど休みも取らず働いてきた。彼が働いている会社は、世間で言われるほどのブラック企業ではない。それにも関わらず、彼は「リストラされるのではないか」という恐怖観念にかられ、必要以上に仕事に打ち込んできた。しかし、さしたる結果も出せないまま、先月、関係会社への出向を命じられてしまった。
たいした成果もあげられないのに仕事に打ち込みすぎた分、プライベートも同様に、いやそれ以上に疎かだった。
人付き合いが苦手になってしまった彼は、学生の時から友人がほとんどいなかった。同期からの誘いも断り続け、今では彼にプライベートで声をかける者はいない。当然、彼の恋人がいない歴は、彼の年齢と一致している。
休日に特にやることもなく、掃除洗濯を済ませたら、スマホでゲームをするか、動画サイトを見るか、撮り溜めているドラマを見て時間を潰している、そんな日常を繰り返していた。
(金は毎月の給料で何とかやっていけている。でも、このまま何もなく30年くらい経って定年を迎え、そのうち病気になって入院して、治療費に貯金を使い果たして死ぬのか…)
彼は考えた。
どうしてこんな人生を歩むことになったのか。
自分は何を望んでいるのか。
これからどうすれば人生が変わるのか。
…これから何をすべきなのか。