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3-1-1 ひかりの彼氏ポジション

 クラスメートの虎倉流斗。未だもって、「虎倉君」。

 「付き合って」と言われ、一度も「はい」と言ってもないのに、何故か今、私の彼氏ポジションにいる。

 月交代で彼女をとっかえひっかえしていたクラスのモテ男は、実はみんなを吸血ウイルスから守ってくれていた吸血族さんだった、と言うことは、私しか知らない。

 とっかえひっかえの時期は、いつもにこやかに女の子と接し、ありとあらゆる女子を味方につけ、男子を敵にせず、別れてもなおさっぱりと嫌われることなく、…とかく、異様だった。

 だから、常に我関せずを貫いていたのだけど、学校内で吸血鬼が出没する事件に関わって以後、なつかれている。

 私の血が、美味しいんだそうで。体に合う、と言われても、ねえ。

 他の人と付き合っている時にはあんなに柔和な態度で優し気な紳士だったくせに、私を相手にした途端、何だか強気で、我が儘で、結構強引。あれが地なんだろう。少なくとも私に格好良く見せようとしている素振りは感じられない。まあ、助かってるけど。

 格好つけられても、所詮は私の中ではヘタレな幼なじみ「りゅーくん」枠から出そうにないから。

 そして、理由は定かにあらねども、あれだけのモテキャラだったにもかかわらず、誰からも羨まれたり、やっかまれたりすることがない。

 …もしかしたら、周りからは、彼女と認定されていないのかも知れない。


 私は英語が苦手だ。

 しばしば小テストで居残り対象の60点以下をとる。

「…たく、また引っかかってんのかよ…」

 そしてそれが気に入らない虎倉君は、ご褒美と罰を用意して私のやる気を促しているけど、それでもご褒美に行き着くことは六割程度で、今日もまた居残りになってしまった…。

「ごめん。先帰ってて…」

「ばーか。図書室で待ってるからな」

 そう言って、じろりと睨まれる。

 一緒に帰ると言っても駅までだし、駅に行くと虎倉君には遠回りなのに。

 待たせないよう、出された課題をせっせとこなすけど、いつも私が最後になる。何でだろう。

「じゃあな、三上。鍵よろしく!」

 みんなのプリントと教室の鍵を預かり、今日出題された英文を10回づつ、せっせと繰り返し書く。

 ああ、全部複数形になってない。

 くじけながら、遡って直す。

「…できたか?」

 いつも通り、しびれを切らして虎倉君が様子を見に来た。

 誰もいない教室で、また最後になっている私にあきれ顔だ。

「ごめん、もう終わる」

「そこ違うし…」

 指摘された単語のスペルミス。間違いを繰り返し書くことで、私の頭は完全に間違いを覚えてしまっている。

 …もう、いいや。私、日本から出ないから。

 タイムトリップして、黒船をぶっ潰せ! 日本は鎖国でいいんだ!

と、何の役にも立たない妄想で、気を紛らわせる。

 やっと終わって、「うおおおお!」とのびをしていると、ひっくり返りそうになった頭を掌で支えられ、首筋に唇を当てられた。くすぐったくて首をすくめると、脇の下から背中に手を回されて、逃げられないように固定されてしまった。

 色っぽく見えても、これはお食事。

 私はこやつの彼女であり、ご飯でもある。


 虎倉君はヴァンピール、吸血族だ。

 人の血を生きる糧にする吸血族に、他の女の血を吸うような奴とは付き合えない、と言ったために、自分の血を採られることの拒否権を失ってしまった、あわれなエサ、それが私。

 それを了承した虎倉君は、必要な成分だけを吸い取る「成分献血」方式で、私の血を召し上がろうとしている。これがまだ練習中であり、いろんな方法での「成分献血」を今実験中なのだけど…

「…駄目だ」

 ギブアップした。

 部分吸血ができない。多分、またうっかり全血を吸ってしまったんだろう。

 失敗したにも関わらず、うっすらと浮かべる笑みは、「ごちそうさま」の証だ。

 くすぐったいから、首はできなくてもいいと思うけど。かといって、確実にできるのがく…く…、唇だけなのは、実にまずいので…。

 早々に頭が離れていき、すました顔で教室の鍵を握ると、しばらくして、誰かが廊下を通り過ぎた。人並み外れた聴力で、今の近寄ってくる人を聞き分けたんだろう。

「帰るぞ」

「うん」

 課題を提出して学校を出る。校門を出るとすぐに、手を掴まれた。昔の癖なのか、虎倉君はすぐに手を繋いでくる。

「おまえの英語と俺の実験の成績は、ほとんど変わらないな」

 確かに、言うとおり。むしろこの最近では、私の英語の居残り免れ率の方が高いかも知れない。

 この前は、手からの吸い取りを試して、手同士で少し成功?、手首を掴んで失敗。手首に唇を当てられて10分、耐えに耐えたのに失敗。あまり成績は良くない。

 これは、私の体調を守るための実験。いつも全血をがぶがぶ飲まれると私の体が持たないから、必要な成分だけを抽出して飲む、吸血族に伝わる方法を試している。

 虎倉君が真剣に実験を積み重ねるのは、私のため。そうなんだけど、ひねくれている私は、私というご飯の耐久性、持続性のためとしか受け取れないでいる。こうして繋がれた手がしっかりと私を引っ張っていても、血が美味しいと思ってもらえるうちだけだと心のどこかが言っている。それなのに、ドキドキしたり、ざわざわしたりする自分に戸惑ってる。

 駅までの道が短く感じる。

「じゃあ、また明日」

 離した手で手を振って、階段を上る。

 角を曲がった後、こそっと一度だけ振り返る。

 その後、途中にある窓から、歩き去る姿をつい目で追ってしまう。変な習慣ができてしまった。

 あ、だめだめ、電車が来ちゃう!

 今日も慌てて改札をくぐって電車に飛び乗った。


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