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リリーエリカと金色の少女⑰

 オルフィ侯爵令嬢はナメゴン男爵が選んだ10人を一列に並ばせると、皆に片方の手を出すようにと指示をした。


「今から私がお見せする方法は()()()()()()()()()()()から教わった方法で、誰でも簡単に脱水症状を見分けられる方法です」


 オルフィ侯爵令嬢がそう口にすると、オルフィ侯爵はそれまでの心配げな表情がガラリと変わり、自信に満ち溢れた表情になった。


「おおっ、バドとカウラのことだな!私の母上は私が小さな頃から、あの二人はマウントラル国の中で一番優れた子守り役と乳母だから、私にあの二人の言葉は親の言葉と同じだと思い、よく学び習いなさいと幾度も言っておられたのだ!安心していいぞ、リトラ!バドとカウラは歴代、巫女姫の中で最も神力が高いと言われていた母上が見つけてきてくれた最高の養い親なんだ!あの二人から教えられたことなら間違いがない!」


 オルフィ侯爵が横にいる妻の肩を抱くとオルフィ侯爵夫人も嬉しそうに何度も頷いた。


「ええ!そうですわね、メフィラス!バドとカウラはあの子が人の言葉を聞いたり話したりすることが出来ずにいた頃から、あの子が万が一にも平民として神殿で生きることになった時のことを想定して、掃除や洗濯や料理といった日常生活を生きる上で必要な技術を一通り教え込むだけではなく、外出先での身の守り方まで完璧に身につけさせていたほど、優秀な養親ですものね。私達は何も心配せずにあの子を見守っていれば良かったのですわ」


 オルフィ侯爵夫妻が微笑み合いながら言っている言葉を聞いた野次馬達は、やり手の外交官として評判が高かったオルフィ侯爵と、オルフィ侯爵の娘を育てたという子守り役と乳母は一体、どんな方法をオルフィ侯爵令嬢に教えたのだろうかと興味津々となり、オルフィ侯爵令嬢の今からやる方法をよく見ようと10人を取り囲むようにして近づいていった。






 リリーエリカが人々に示した方法は、とても単純なものだった。差し出された片手の甲の皮膚を自分の指でつまんで放す。たったこれだけだ。


「つまんで放した後の手の甲に注目して下さい。身体に水分が十分足りている人の皮膚は三秒以内に元の状態に戻ります。ここにいる10人の皆さんは水分が足りているから心配はいりません。でも……」


 リリーエリカはうつ伏せの態勢でいる金色の髪の少女の元に歩いていき、片膝をついて少女の肩をトントンと軽く叩いた。顔を上げた少女の顔は涙で濡れ、目は赤く充血していた。


「突然ごめんなさい。私はリリーエリカと言います。少しだけあなたの手を貸してもらえますか?」


 リリーエリカはそう言った後、少女の返答を待たずに少女の右手を取り、ハッとした表情になった。


「手が冷たい……。早く応急処置をしてあげないと……」


 リリーエリカは気を取り直して、10人にした時と同じように少女の手の甲の皮膚をつまんで直ぐに放してみせた。人々はそれぞれ心の中で三秒の時を数えながら少女の手の甲に注目し続けた後、驚きの声を上げた


「うわっ!この子だけ手の甲の皮膚が山の形になったまま戻らないぞ」


「どういうことなの?」


「ちょっと俺も自分の手で試してみよう。……おっ、俺は直ぐに戻ったぞ」


「私もやってみよう。……私も大丈夫だったわ。あなたはどうだった?」


 人々が不思議がりながら自分達で手の甲をつまみ、皮膚がどうなるのかを試し合っている中、リリーエリカは言った。


「水分が足りていない人だと、つまんだ皮膚は直ぐには元の状態に戻らないんです。三秒以上皮膚がつまんだ形のまま元に戻らなかった場合、身体中に水分が行き渡っていない可能性が疑われるそうなんです。この他にも爪を押して、その後の爪の色の変化で水分が足りているかどうかを判断する方法や手足の冷たさで判断する方法など、いくつかの方法があるそうなんです。ただ、この場には爪を染めている人が10人の中にいて、爪で判断することは出来なかったし、誰の目から見てもわかりやすい、皮膚をつまむ判別法にしてみました」


 リリーエリカが他にも方法があると語ると、集まっている子守り役や乳母達の中から、私は舌の色や亀裂がないかで水分が足りているかどうかを判断しているという声や、自分は口の中が乾燥していたり、皮膚に張りがないかどうかを確かめてお茶を飲ませているという声や、俺は手足の冷たさと脈拍が早いかどうかで確かめているといる声が次々と上がり、リリーエリカが教えてもらったという爪や皮膚の状態で判別する方法なら、誰でも一目でわかるから便利で良いと絶賛した後、皆はナメゴン男爵やドドンゴ神官を睨めつけた。


「そこの子どもの皮膚を見ただろう。つまんだ形から戻らない皮膚が何よりの証拠だ。あんた達が言ったことは全部、嘘だった。あんたらは子どもを虐待していたんだ。今から俺達は騎士団に駆け込んでお前達を児童虐待と殺人未遂で逮捕してもらう」


「いくら神殿が力を持っていようと、ここは治外法権の場所ではない。神官だろうが外国人の貴族だろうが、国の法律で命を脅かすなと決められている神様の愛し子の命を危険に晒した罪は免れないぞ」


 野次馬達が詰め寄るとドドンゴ神官は目を右往左往させながら、言葉を絞り出すようにして言い訳をした。


「ま、待て!こ、これは違う!これは……えっと、え〜と……。そう!私は飲ませたけれど、暑かったから汗で水分が全部流れてしまったんだろう!きっと、そうだ!だから私は無実だ」


「いいや、ドドンゴ神官!君はあろうことか、この私を騙したんだ!何が、養子縁組の契約を交わすまでは、この子の世話は自分が行っているから何も心配はいらない、だ!よくもまぁ、私を騙し、私の大事な養子となる子を虐待してくれたな!あくどいお前を信用してしまったせいで、私はここにいる優しく聡明なオルフィ侯爵令嬢に楯突いてしまったのだぞ!何だ、この神殿は!国宝を盗むスダール大神官といい、平然と子どもを虐待するドドンゴ神官といい、この神殿の者達は犯罪者ばかりだ!この罪は重いぞ。恥を知れ!」


「え?ナメゴン男爵?」


 詰め寄る野次馬達と狼狽するドドンゴ神官を見ていたナメゴン男爵は手のひらを返した態度で、ドドンゴ神官を詰りだしたので、そこにいる者達は目を丸くさせて、ポカンと口を開けた。


「煩い、近寄るな!……オルフィ侯爵令嬢。この度はここにいるドドンゴ神官に騙されて、あなた様に酷い言葉をぶつけてしまったことを深くお詫びいたします。この子を引き取るのを長引かされて気が立っていたせいで、この子がこの者達に虐待されていることに気が付かなかったとは全くの不覚でした。あなた様がいなかったら、私は帰路の途中でこの子を失っていたかもしれません。あなた様の仰る通りに今直ぐに医者に診てもらいます。そして治り次第、即、この子を国に連れて帰った後は、私自らが大事にこの子を慈しむとお約束しますので、どうか今回のことはご容赦願えたらと思います」


 ペコペコと頭を下げ、揉み手をしながら謝るナメゴン男爵に裏切られたドドンゴ神官は、怒りで顔を赤くさせた。そこへ新たに部屋に入ってきた者達が声をかけてきた。


「失礼、ドドンゴ神官。こちらで騒動があったと聞いたのですが、どうされましたか?」


 先程、自分が下男に呼びに行かせた神殿横にある騎士団の派出所から駆けつけた騎士達の姿を見たドドンゴ神官は口元を引きつらせ、ナメゴン男爵に向かって喚いた後、リリーエリカに弁解を始めた。


「この大噓つきが!何が大事な子だ!あんたはガーディ公爵家の金髪碧眼か、オルフィ侯爵家の黒髪赤眼の特徴を持つ子なら誰でもいいと言っていたではないか!それに本来なら養子縁組は双方の交流を何度か持って、お互いの相性を判断する工程が必要なのに、交流中におしめ交換をするのが嫌だからと交流を拒み、さらには出国ギリギリまで子どもの世話をしたくないから、お前が世話をしろと言って押し付けてきたのはあんただろう!……オルフィ侯爵令嬢!今回はたまたま水分不足と結果が出てしまいましたが、これは不幸な事故なんです!私は普段から虐待なんてしておりません!どうか信じて下さい!……そうだ!きっと皮膚をつまむ方法は嘘なんでしょう?この子の皮膚だけ強くつまんだに違いない!ほら、見て下さい!強くつまめば私の手だって!」


 ドドンゴ神官は自分の手の甲をかなり強めにつまんでみせた。しかしつまんだ手を放しても、皮膚は山の形を留めなかった。焦った様子で何度も自分の手を交互につまんでみるが、結果はどれも同じで瑞々しい手であることが強調されただけに終わってしまった。

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