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リリーエリカと護衛騎士アントラー①

 トン、トン、トン……と規則正しい音が王都にあるオルフィ侯爵家の一室から聞こえてくる。その音を立てているリリーエリカは、今の自分の状況を前世の友人に手紙にするなら、どう書くだろうか?と想像してみた。


『空は青く澄み渡り、天高く馬肥える秋となりましたね。香織ちゃんはその後、いかがお過ごしでしょうか?私が転生したと気がついてから約二ヶ月半が過ぎました。今、私はマウントラル国という国の王都にあるオルフィ侯爵本邸で、護衛騎士のアントラーさんと草鞋を編むための草を木づちで打っているところです……』


 そこまで想像したところでリリーエリカは、フッと10歳児らしくないため息を漏らした。


「ダメだわ。これじゃ香織ちゃんだけじゃなく、放課後教室の子ども達皆んなに、お婆ちゃん!それツッコミどころ満載でどこからツッコんだらいいか分かんない残念ボケだよ。そんなので一流のお笑い芸人になれると思っているの!……とお笑い芸人ごっこでダメ出しされるところしか想像できないわ」


 リリーエリカが独り言を漏らすと、リリーエリカの横で木づちを打っていたアントラーが手を止めた。


「リリーエリカ様、いかがなさいましたか?もしかして私の打ち方はどこか悪かったのでしょうか?」


 リリーエリカは大きな大人の男の人のはずなのに何故か忠実な大型犬にしか見えない殊勝な態度で、子どもの自分に接するアントラーが不思議で仕方がなかったが、貴族というものに慣れていないこともあって、護衛騎士というものは、そういうものなのだろうと思うことにしていた。


「大丈夫ですよ。とても上手に打てています」


「そうですか!それは良かったです!」


 リリーエリカが褒めると嬉しそうに目尻にシワを寄せて、木づちを打つのを再開させたアントラーを見て、リリーエリカは苦笑しながら目覚めてから今までのことを思った。




 ……約二ヶ月半前の夜のこと。前世の記憶を思い出したリリーエリカは月が二つあることで異世界に転生したと確信したのだが、窓に反射して写った自分の姿を見て、一つの懸念が沸き起こった。


「……何だろう、この銭湯の壁面に描かれている絵のような富士山色の髪の毛は?目も南国の海みたいな色の目玉だし、耳も大きくて尖ってるのは、どうして?それに、このお人形さんみたいな可愛らしい顔は……もしかしなくても香織ちゃんの携帯電話で見せてもらった悪役の女の子?」


 窓に写る子どもの髪は姫カットに整えられていたのだが、不思議なことに頭皮から生える髪は純白なのに毛先に向かって少しずつ青くなっていき、毛先は青色になっていた。眉にかからないように短めに整えられている前髪の毛先も、肩甲骨に届くくらい伸ばされた後ろ髪の毛先も同様だったので、どんな進化を遂げたら、こんな性質の髪になるのだろうかとリリーエリカはこれでもかと言うくらいに目を見開いてしまった。


 目なんてまるで宝石じゃないかと思うくらいにキラキラと輝いているし、透明感のある南国の海を連想させるエメラルドがかったターコイズブルー色の瞳だなんて前世では見たこともなかった。リリーエリカは自分の耳を触ってみた。窓に写る自分の耳は少し尖っていて、物語に出てくるエルフという種族の耳に似ている。これじゃ、まるで放課後教室に来ていた子ども達がよく見ているアニメに出てきそうな容姿みたいだわと思いながらリリーエリカは唖然としてしまった。


「うわぁ……、まるでニュースで見たアニメの格好をしたお嬢さん達みたいな顔だわね。凄いわねぇ。この髪は一体どうなっているの?前世でも年を取って白髪になったけど、それとこれは全くの別物ね。手触りがサラサラでしっとりって、この世界のシャンプーは随分良い仕事をしているのね。う〜ん……それにしても香織ちゃんが話していたゲームの世界に転生するなんて、そんな都合の良い話が本当に現実で起こるのかしらね?……あっ!もしかしたら私は夢を見ているだけかもしれないわね」


 後日、手触り最高の髪は自前のものであると知って驚くことになるのだが、その時のリリーエリカは自分は夢を見ているだけなのかもしれないと思った。


「……そうよね。ゲームの話をしてくれる香織ちゃんの話を聞いた後の記憶がないもの。私ったら、きっと香織ちゃんの話を聞きながら寝落ちしちゃったから、こんな変な夢を見ているのね。折角香織ちゃんと香織ちゃんのパパが顔を見に来てくれたというのに悪いことをしてしまったわね。明日になったらメールでごめんねって謝ろう。それにしても何だか妙に現実感がある夢ね。……フフッ、変テコで面白い夢を見たって、香織ちゃんにも職員さんにも話してあげよう。ふぁ〜……」


 夢の中でも眠くてあくびが出るだなんてホントに面白い。そう思いながらリリーエリカは深く考えずにそのまま目を閉じて寝直してしまい、自分が異世界に転生したことをハッキリと認識したのは、その次の日だった。寝ぼけ眼で挨拶したリリーエリカは、いつものように老人ホームの職員さんに挨拶したつもりだったのに、挨拶の言葉を言っただけで相手に大絶叫されてしまったからだ。


 大絶叫でバッチリ目が覚めたリリーエリカは、自分がいる部屋が老人ホームの部屋ではないことに改めて気がついて目を丸くした。どこぞの海外映画に出てくるような可愛らしい装飾が施された子ども部屋にいる自分に呆然とし、ふと掛け布団を握る自分の手の小ささにハッとなった。シワだらけだった手が縮んで、放課後教室に来ていた子ども達よりも小さな子どもの手になっていた。


 もしも……部屋に入ってきた者がリリーエリカより先に大絶叫を上げなければ、リリーエリカの方が先に驚いただろうし、そうでなくても大絶叫を聞いた者達がリリーエリカの部屋に押しかけてこなければ、自分の小さな手を見たリリーエリカは自分の状況にパニック状態に陥っていただろう。でも……。


「キャー!誰かー!リリーエリカ様が!」


「何ということだ!リリーエリカ様が話しておられる!奇跡だ!」


「これは一大事だ!至急、旦那様にお知らせしなければ!」


「大至急、領地の神殿に行って神官を連れてこなければ!」


「いや、医者が先だ!」


 でも……人間には、先に大きく驚かれてしまうと中々驚けないタイプの人間もいるのだ。前世のリリーエリカは、正にそのタイプの人間だったので、大絶叫を上げられた後、部屋に入ってきた者達にも大きく驚かれてしまい、周囲の人間がパニック状態に陥ったことにより、一人置いてきぼりを喰らってしまった状態になったリリーエリカが、驚愕のあまりにベラベラと前世うんねんの話を口から滑らせずに済んだのは幸運以外の何物でもなかった。


 また生まれてこの方、一言も話さなかったリリーエリカが初めて喋ったものだから、その日は家中が大興奮に包まれて上を下への大騒ぎとなってしまったわけだが、その大騒ぎをしている者達から離れたところで、一人だけ面白くなさそうにふてくされている男の子がジャミランと呼ばれていたのを見たリリーエリカは、心底驚いてしまった。


 その後、急いでやってきた医者や領地の神官と面会させられたのだが、リリーエリカは本当に驚くと声が出なくなるタイプの人間でもあったので、驚きすぎて声が出なくなり片言の言葉しか口から出なかったことで、リリーエリカに言葉を話せる以上の異変が起きたことに気がつく者は誰もいなかったのも、後のリリーエリカにとっては幸運だったと言えるのだが、その時のリリーエリカは昨夜の懸念が現実のものなのではないかと考えていたから、その幸運に気がつくことはなかったのである。




 もしかしたら自分は前世の友人が話していたパズルゲームの世界……”祈りの巫女と恋するオーブ”の世界に転生したのではないだろうかと、再び懸念を抱いたリリーエリカは次の日から積極的に情報収集をすることにした。リリーエリカは誰に聞くのが良いだろうかと思案し、情報収集の相手にジャミランを選んだ。


 選んだ理由は単にジャミランが屋敷の中で一番暇そうにしていたから選んだだけだったのだが、ジャミランはリリーエリカを嫌っているらしく質問に答えてくれないどころか部屋に籠もりきりで会ってくれなかったので、実際にリリーエリカに情報をくれたのはジャミランが部屋に引きこもったことで暇になった、ジャミランの護衛騎士をしていたアントラーだった。

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