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爪弾き者どもが夢の跡

 「ゲントさんはエミュレータが何か分かりますか?」

 「エミュレータ? いや、うーん……なんかで聞いたかな、すんません、分かんないっす」

 「……そうですか」


 暫く沈黙した後にラエルは笑みを浮かべる。お願いだからその顔で笑わないでほしい。胸にグッと来る。


 「そういえば、お話した中に女性の方が居たはずですよね?」

 「え……あ、はい、いや、関係ないから良いかなって。すんません」

 「ふふ、ログにも残ってますからオルエも馬鹿にしないのに」


 バレてた。サーバーの管理人だかなんだかということもあってなんでもお見通しにされていて気まずい。そんな俺を察してかとある提案をした。


 「ゲントさんがログインしていたサーバで呼びかけていらっしゃるようなので……」

 「え、マジすか。ただの行きずりなんだけどな……」

 「この世界ではそういった縁が大事ですから。再会なされますか?」


 考える間も無く、俺は頷いていた。一先ずはアカウント停止の規制も無いようだし、彼女と一緒に冒険を始めたいと思った。


 「では座標を元に戻しますね……あ、ゲントさん」

 「あ、はい、なんですか」

 「おそらく……このコマンドですね、天賦のスキル。今回は私が掛け合いましたが、次があるかは分かりませんから、使用は程々に」


 優しい声色でラエルさんは語りかけてくれるが、恐らく釘をさしている。俺はぺこぺこ頭を下げて了解した。


 「それから、天賦について……」


 何か言葉を発しかけた後に言いよどむ。ラエルさんがまるで人間のように唇を閉じるのを見た。


 「分からない事が多いので、私達の方でも調べておきますね」

 「あ、はい……ありがとうございます」

 「それでは、また機会があれば。ブレイブジェムがご入用な時は是非おねがいしますね」


 ワープする直前にしっかり広告を打ち込んできた。かなり強かなんだよな、ラエルさん……。


 「よ、っと……おお、本当に帰ってこれた」

 「あっ……! さっきの人!」

 「え、あ……え?」


 目の前には見たことが無いような人が居た。いや、たぶん見たことはあるんだと思う。だから『ような』だけど。


 「私です、私! 覚えてますか? えっと……コハルって言うんですけど」

 「あ、こ、コハルさん。俺はゲントって言うんすけど……」

 「かっこいいお名前ですね! なんだか渋いかも」


 襲われてた時よりずっとコハルさんはテンションが高い人のようだった。というより、コハルさんはほぼ別人に成り果ててる。よく分からない色彩の帽子を被って金ぴかの鎧と黒い翼を携えていらっしゃる。


 「そうだ、課金したんです! あの後私に経験値が入ってレベルアップして、それでスライムも倒せるようになったから操作を覚えてきて……」

 「はあ、そうなんすか。すごい、っすね?」

 「あ、課金とかって言っちゃ駄目でしたっけ」


 このゲームはRPG、ロールプレイングゲームなのだが、ある時を境にロールプレイングを求める雰囲気が主流になり始めた。俺が居た全盛期の時は、であるけれど、正直NPCと見間違う時すら人が多々居る程であった。課金のような現実と関わるような単語はひんしゅくを買われやすい。


 「そうっすね、あんまり……俺は一応平気ですけど」

 「じゃあ控えておきます! えーと……そうだ、恩返ししないと。私を守ってくれたお礼です、多少は強くなったのでパーティを組みませんか?」

 「え、あ、嬉しいんですけど、そういう装備するなら……強い人と組んだ方が」

 「私、ゲントさんが良いんです」


 これ以上ないほど真っ直ぐな言葉を投げかけられて否定するのも気が悪い。押しに負けて俺はコハルさんとのパーティを組むことになった。


 「でも、ゲントさん弱くないのに……さっき凄いダメージ出してたような」

 「え。あー……いや、あれは……ば、バグ?みたいな~……」

 「ああ! だから急に居なくなっちゃったんですね」


 バグの一言で全ての説明が済んだ気がする。というよりコハルさんがポジティブな性格なのもあるだろうけれど。


 「ふふ、友達申請もしちゃおうっと」

 「ああ……いや、ありがとうございます」

 「えへへ。いえいえ、私がしたいので」


 コハルさんはとにかく愛嬌があるな、などと思いながらフレンド申請を承認する。フレンドになって見ることができるパラメータが色々とんでもないことになってたが見てないことにした。


 「ゲントさん、装備付けてないんですよね。私のお下がりで良ければ色々……」

 「え、いやいや……大丈夫ですよ。というか、コインはあるんで街に寄れればいいんですけど」

 「ああ、街かぁ……ええと、どうすればいけるんだっけ」

 「ここは村から出た草原で……西の方に洞窟があるんで、そっちを抜ければ」


 地図を共有しながらコハルさんに話しかける。このゲームはプレイしていた記憶は薄れているけど最初のマップぐらいはかなり覚えている。


 「よく知ってるんですね、ゲントさん。私と同じ初心者だと思ってたのに……」

 「え……あ、い、いや、検索したんで……」

 「ふふ、図書館で調べたって言わなきゃ」


 あ、と声を漏らす。ゲームも久しぶりだがこうしたなりきりもめっきりやってなかったから感覚がうまく思い出せない。


 「じゃあ、とりあえず洞窟ですね、洞窟!」

 「っすね……俺こんな装備でいけるかな」

 「私が居れば百万馬力ですよ! さー付いてきてくださいっ!」

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