異世界正伝
「ようこそ、デバッグルームへ」
「へ……」
目が覚めるとアイボリー色のソファの上で俺は眠っていた。清潔で無菌室のような、献血ルームのような雰囲気を醸し出している部屋だった。ソファから起き上がって見上げた先には女性が二人居た。いや、女性というか、これは。
「お見知り置きだと思いますけど、ブレイドジェム交換ショップのラエルです。こちらの部屋では、デバッガーということになるけれど……」
「はい、はい! ブレイドコイン交換する時はオルエだよ! 私もデバッガーでーす」
「え、あ、ええ、ら、ラエルたんじゃん。つかオルエちゃんも……」
車椅子に座るショートカットの落ち着いた女の子はラエルだ。デザインが良くてプレイヤーの中ではラエルたんの愛称で呼ばれている。洋風のゲームではあるけど、大和撫子みたいな雰囲気がグッと来る。
もう一人の溌溂な子はオルエ。髪や目が緑色で統一されているセミロングの見目は、いかにも二次元みたいな見た目で俺は好きだ。ラエルちゃんが課金アイテムのショップを担当しているのに対し、オルエちゃんが無課金アイテムのショップを担当している。
俺が驚嘆するのを見てラエルがくすっと淑女らしく笑みを零す。やばい可愛い。続いてオルエちゃんはむすっと頬を膨らませた。あー俺ダメかもしれない。
「ふふ、そういう反応をする人は久しぶり」
「なーんでオルエはちゃんでラエルはたんなの? やっぱり無課金コインの方だから?」
「い、いやあ、それは、プレイヤーの中での愛称? というか……」
納得をしていないらしいオルエが俺に詰め寄る。
「ひっどいひどーい。それって差別だよね。むしろラエルの方が運営の犬って二次創作ネタもあるのにぃ……」
「オルエ、品性を疑われる言葉は言っちゃ駄目です」
「はぁーい」
「な、仲良いんすね……」
オルエの失礼すぎる言動をラエルが軽く流してる光景をぎこちなく笑みを浮かべながら見つめていたら二人がこちらを向き直す。
「プレイヤーさん、最初に言っておきますね。私たちはNPCで、今あなたとお話しているのは……平たく言えばAIのようなものです」
「そんなに高等なものじゃないけどねー」
「そう、なんすか? なんかすげー感情豊かに見えるし、俺もう二次元に来れたなって……」
「開発者の趣味仕様ですからねー」
すかさずオルエが裏側のぶっちゃけた話を暴露する。この子がこういう仕様なのも開発者さんの趣味なんだろうか……。
「こほん……ごめんなさい、プレイヤーさん。ええと、ツジ・ゲントさん?」
「あ、この人本名で登録してるー」
「う、それは……」
まさか異世界に転生してきたから本名で登録した、なんて通じるだろうか。AIだから本当の意味で馬鹿にされることは無いだろうけど。というか、俺はどういう立場なんだ? 二人は俺がチートを使ってBANされてきたって知ってるのか?
「本題に入りますね。おおよそ貴方がBANされた経緯は把握しています」
「え? あ、知ってるんすか……」
「ここはデバッグルームですから。でも、貴方の口からもう一度だけお聞かせ願いますか? 齟齬があってはいけないから」
「あ、はい、ええと、俺、スライムを倒そうとしてた、っつか倒したんですけど」
いわれるがままに俺は思い返す。