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2 転機

指摘があったので、全体的に会話文を調整しました。

プロローグ、1話の方も調整しましたので是非

「はぁ…通信高校…ですか」


―週明けの月曜日。昼休憩のタイミングで社長に呼び出されて、挨拶もそこそこに突然通信高校に行かないかと言われた。


「うん、そう。(あずま)くんは確か3年生の時に自主退学したんだよね?」

「まぁそうですけど…なんで今更?」

「君の事をとっても大事にしている先輩から、頑張っている東くんが新入社員と同じような給料で働いてるなんておかしい!って怒られちゃってね…」

「あー…」


 俺は察した。絶対恵だ。社長もニヤニヤか苦笑いか分かりにくく笑いながら話してるし。


「まぁ実際僕もそう思ってるんだけどね。他の社員のメンツもある以上突然数年分の昇給をするってのは難しいんだよ」

「そりゃそうでしょう。俺だってそう思ってますし、貯金が出来るような給料を中退の俺に払ってくれてるんですから。これでいいですよ」


 実際この会社はかなり給料がいい。

 江南(えなみ)インテリア。会社の規模自体はかなり小さいが、海外の高級家具などを取り扱っていてかなりの信用もある。だから一部の富裕層から指名で大口の輸入注文が入ったりするので、比例して給料も高い。基本大卒しか採らない会社だが、初任給なんかは5年務めたサラリーマンより多いらしい。


「でもね悠くん」


 俺のことを悠と呼ぶ、父親の顔で社長が言った。


「僕は君に幸せになってほしいんだ。君が幸せを掴もうと前を向くために、僕は彼女の訴えを聞こうと思った。通信高校に通うことはその一歩だと思ってる。これは社長としてではなく、君の父親の代わりとしてするべき事だと判断してね」

春樹(はるき)おじさん…」


 社長…春樹おじさんは、父親が死んでから親身になって俺の面倒を見てくれた。自分の会社で高校中退の俺を雇い、養子にまでしてくれた。それを彼は、俺の父親や俺に対する恩返しだと言って、無理を通した。


「沙希の分まで幸せになってくれって事ですか…?」

「いいや違う。君が沙希の事をいまだに心に抱えているのは分かっている。それは親としてもありがたい事だと思っているよ?ただ、沙希に縛られず、君自身が幸せになってほしいと僕は思っている。君と僕の約束、覚えているだろう?」

「そう…ですね。約束しましたしね…」


 そう。春樹おじさんは15年前に死んだ幼馴染みの、沙希の父親だ。俺の両親が死んで、呆然としていた俺を、15年前と同じように、わざわざ東京から駆け付けて抱き締めてくれた。


 そして、残りの学費は払うし進学のための費用も出す、なんて言われてしまい、流石にそこまで負担はかけられないと思った俺は、おじさんに頼み込んでおじさんの会社で働かせてもらうことになったのだ。


「でも今更高校なんて…ただでさえ入社する時に迷惑掛けたんですから、今更これ以上の迷惑は掛けられませんよ」

「うーん…やっぱりそう言うと思ったよ」


ハハハ…と苦笑しながらおじさんは温くなったお茶を啜った。


「じゃあズルイ言い方をしよう」

「はい?」


ただの苦笑から、意地の悪いニヤリとした笑いに変えて、おじさんは言った。


「今の状態の君は迷惑だ。だから通信高校に一年間通って、高卒認定を貰ってきなさい。これは社長命令だよ?逆らえば…」


 ね?といってこっちを見てきた…。マジかよこの人、そこまでするか…。


「え、社長…?そこまでしますか?確かに特殊ですけど別にそこまで会社には迷惑は…」

「掛けてるよ?三年目の社員に新入社員と同じ給料しか渡していないという事実がある時点で、新入社員からすれば三年目でも昇給はしない、というマイナスイメージに繋がる。これは仕事のモチベーションに関わってくる。そんな状態を社長として見過ごせないだろう?」

「う…」


筋が通ってる…言い返せない。

この人は俺に対して時折すごく意地の悪い顔をする。この会社に入ってから半年程経った頃、笑いながら俺の持っている資格を確認して、「じゃ、練習代わりにこれやってみて」と言って1ヶ月分の帳簿(ちょうぼ)を整理、計上させられたことがある。その時もイタズラをしています、というような笑みを浮かべていた。


「だからこそ、君に高卒認定を取ってもらって、昇給させる。これが会社にとってのメリットになるんだ。だから文句は言わせない。これは、君の親代わりとしても社長としても、絶対に譲らない。分かったね?」

「…はい」


 ダメだ。逃げられない。諦めるしかない。

 頭の中でグルグルと思考がループしている。納得はいかないが、ここまで言われては俺としてはもう、絶対嫌とは言えない。


「近いうちに、編入学用の書類と学校の資料を送るよ。今月末までに書類に必要事項とサインをして持ってきてくれ」

「分かりました…」

「うん、ごめんね?お昼休みなのに。仕事には30分遅れで戻っていいから。ちっちゃい会社なんだし皆には僕から伝えておくよ」

「はい。分かりました。ちなみにちっちゃい会社の新入社員の初任給が普通の会社の中堅サラリーマンと同じ給料なわけないですからね?では、失礼します」


 仕返しの嫌味と共に一礼してから、部屋を出ようとする時に、


「悠くん」

「はい?」


 おじさんに呼び止められた。おじさんはこっちを見ながら変なことを聞いてきた。


「君は、小柳くんと結婚するのかな?他言はしないから、君の意志を聞かせてほしい」


 恵との交際の事は社長にしか伝えていない。交際するにあたって借り上げのアパートから今のアパートに引っ越す時に伝えた。


「今はまだ、出来ないと思っています。ただ、今回の通信高校の話のお陰で、何となくですけど結婚のビジョンが見えた気がしますね。今まではそうゆうのが一切見えなくて、彼女を不安にさせてしまってたみたいですし、安心するんじゃないかなと思います」

「そうか…」


 おじさんはそう言って目を逸らした。


「分かった、ありがとう。もう行っていいよ」

「はい、失礼します」


 部屋を出た後、今のおじさんの質問の意味を考えたが、全くわからず首を傾げるだけに終わった。


 その日の夜。


「なぁ恵さんや」

「なんだい悠さんや」

「社長に俺の昇給うんぬん言ったのは恵さんでしょう?」

「そりゃーもちろんそうですよ」


 当たり前でしょ?って感じで答える恵。

「お陰で通信高校に通うことになったんだけど…」

「え!?そんなことになったの!?なんで!?」


 ベットでゴロゴロしながらスマホを弄っていた恵が飛び起きた。


「なんでもなにも、高卒認定を取れば周りに違和感なく大幅な昇給が出来るからって言ってたよ」

「あ、そうゆう…」

「それに、親としても高校卒業させるのは絶対に譲れないみたいな事を言われちゃったしな。あそこまで言われたら俺も断れなかったよ」


 実際、そう言われた時内心はとても嬉しかったのだ。


「そうなんだ…いいパパだね?」

「ホントにな…正直少し泣きそうだったし俺」

「え!なにそれあたしもそこに居たかった!」


 そう言いながら、ベットから降りて俺の横に腰掛ける恵。肩を触れさせながら、茶化したように笑って、


「あたしも社長の事、今からパパって呼んだけ方がいい?」


 と言ってきた。


「やめなさい」


 笑いながら俺もそれに応えるのだった。

 それから少し経った後、そろそろ寝るか、という感じの時間。


「恵、寝る前にタバコ吸ってくるわ」

「あいよー」


 タバコと灰皿を持ってベランダに出る。


「通信高校…ねぇ」


 まさか今更通う事になるとは思わなかった。通信ということは月に何回か授業を受ける形になるのだろう。基本的には授業とレポート提出、あとは試験で単位認定がされるらしい。

 俺も詳しく調べた訳ではないが、俺の場合、高校2年までの期間と単位認定はあるので、残り1年の期間と必要数の単位の授業を取ればいいらしい。普通の単位の他に、特別授業?という単位があり、それに関しては、例えば修学旅行だったり、遠足といったような学校行事の部分があたるらしい。修学旅行や遠足とは言うが、別に強制ではなく、夏季休暇中の合同ボランティアなどに参加するのでもいいみたいだ。


(まぁ俺は間違いなく浮くだろうけどなぁ…)


 今年で20歳になる俺が高校生とは、少し笑えてくる。まぁでも仕事の方も周りがフォローしてくれるらしいので、大人しく社長命令に従っておこう。

 タバコを消し、部屋に入ると既に恵は寝ていた。洗面所に行き、歯を磨いて恵を起こさないようベットに入る。


「俺なんかのためになんでここまでしてくれるんだか…」


恵の頭を撫でながら、俺は恵に感謝しながら眠りについた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。よかったと思ったら、是非評価とレビューをお願いします。

次のお話は恵視点のお話となります。恵と悠の馴れ初めを書こうとした時、筆が乗りすぎてめっちゃ長くなったのですが、削りたい部分が無くてそのまま投稿するかもしれません。



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