2歩 食卓
キャラ紹介
アルフレッド・ラウス…
『迷いの森』に住む金髪紅眼の見た目は青年だが年齢35歳の男性。言葉遣いは荒いが手先は器用でどんなことも基本完璧にしてしまう。倒れていたミシェルを助けた。
ミシェル・ミッドフォード…
『迷いの森』で生き倒れかけた17歳の少女。銀髪の長髪と海の底のように蒼い目を持つ。アルフレッドの名に聞き覚えがあるようでないようなモヤモヤを現在抱えている。
「おらよ。」
そう言って椅子に座るミシェルの前にゴトッと料理が荒々しく置かれた。
「あ、ありがとうございます。」
まだ料理を並べる彼にミシェルは、何か手伝うことはないですか?と聞くと、
「何もねぇ、取りあえず座っとけ。」
と返ってくる。
本当に座っているだけで良いのだろうかとそわそわするミシェルをよそにアルフレッドはテキパキと料理を盛り付け並べていってしまった。
「よし、食べるぞ。」
いただきます、とそそくさと食べ始めてしまうアルフレッドをみてミシェルも、いただきます!と言い料理に手を伸ばした。
テーブルの上には木の器に盛り付けられた料理が並んでいる。
「…え?」
この食卓、おかしい。
ミシェルは呟きそうになるのを必死にこらえる。
ふっくらしたパンとコップに注がれた水、ソレは普通だ。
しかし、副菜やスープがおかしい。
「ぎゃぁぁぁ」
これは彼女の声では無い、スープの声だった。
いや、正確にはスープのなかのニンジンみたいな物体から聞こえてくる。
ミシェルは思わず、高速でアルフレッドとスープを三往復ぐらいみた。
だが彼は気にもしない様子でスープを口に運んでいた。
ちょっと待って、今口に入れる瞬間確実にソレ、ぎゃぁぁって言ったよね?
幻聴じゃないよね?
自分のスープだけなら、嫌がらせかな?ぐらいですんだだろう。
しかし彼は自身もソレを口にしている。
つまり彼にとってソレは普通と言うこと。
ミシェルは、まず食べれそうなパンから食べようと思った。
すると、
「おい、待て。消化に良いサラダから食べろ。お前は体の状態が優れてねぇんだから。」
そう言うと彼は黙々と自分の食事を再開した。
え?サラダ…ってこれ?
ミシェルは再び自分の目を疑う。
サラダらしき物は見たこともないような色をした草と真っ赤なトマトがたくさん入っていた。
彼の方を見ると、無論彼の器にもそれらは入っていた。
ゴクリと生唾を飲んで恐る恐るフォークを手に取ってサラダ、らしき物に突き刺す。
スープと違って叫び声は無かったが青や紫色の葉をどうしても口まで運ぶ気にはなれなかった。
「ん?どうした、食わねぇのか?」
食べたくないです。そんなこと命の恩人に言えるわけが無い。
「いえ。た、食べます。」
ゆっくりとサラダを口まで連れて行く。
絶対苦いだろうな、この人は料理苦手なんだろうな、なんて思いながら遂に口にそれを入れた。
「んっ…美味しいっ!」
ミシェルは目を見開いて驚く。
それは苦くもなくマズくもなかった。
寧ろ美味、今までに食べたことがないくらいのサラダだ。
口の中でシャキッと噛み締める度に甘みと水分が弾けだして、瑞々しさを主張してくる。
トマトも甘酸っぱく、市場にあるようなものとは全然違う。
一口一口が、先ほどまでのサラダへの恐怖心を無くしていった。
サラダさん、さっきはサラダらしきものなんて言ってごめんなさい。貴方は正真正銘のサラダです。なんて心の中でミシェルは謝る。
さて、サラダを平らげてしまった。
パンもふかふかで焼きたてのように香ばしく実に美味しかった。
問題はスープである。
確かに先ほどのサラダはあんな見た目を否定ながらも味は良かった。
しかしだ、悲鳴を上げるスープが先ほどのように美味しいとは思えない。
全て食べ終わってしまったアルフレッドはミシェルの方をじーっとみている。
きっと食べきるのを待っているのだろう。
恩人を待たせてしまって申し訳ないと思う反面、どうしても食べたくない自分がいる。
ミシェルは葛藤の末、このスープの正体を聞いてから食べよう、と言うことに落ち着いた。
「あの、このスープは何のスープですか?」
叫ぶスープを指さしてミシェルは問う。
「あ?それはマンゴラドラの薬膳スープだ。」
「え、マンゴラドラってあの?根っこが叫ぶ植物ですか?」
「あぁ。」
「叫ぶ声を聞いた人は石になっちゃう、あれ?」
「それ以外にどのマンゴラドラがいるんだよ。」
マンゴラドラ、確か王国では特定危険取扱物だった。
つまりは免許がないと料理どころか触ることさえしてはいけない。
ミシェルにはこの男が免許を持っているようには思えなかった。
しかし、義理堅い性格の彼女は恩人の料理を無駄にするべきではないと思い、この際どうとでもなれ!と一気に掻き込んだ。
あ、今口の中でぎゃぁぁぁって言ってる。
「…すこし、苦いです。」
マズくはない、しかし少し苦かった。
「そりゃな、まぁ…良薬は口に苦しって言うだろ?」
はは、とアルフレッドは笑った。
正気かこの男は、マンゴラドラと言えば中級レベルのモンスターであれば眠らせられるほどの毒の効力を持つ。
それを人間が口にしたのだ。
なのにこの男はマンゴラドラを薬と言った。
「あの、マンゴラドラって毒じゃないんですか?」
ミシェルがそう聞いた途端、はぁ?とでも言いたげな顔をアルフレッドはして見せた。
「…あのなぁ、王都じゃそう思ってるやつが大半だと聞くがマンゴラドラは毒を上手く抜けば薬になる。モンスター退治のためだけにあれを使うなんて、俺には正気の沙汰とは思えねぇよ。」
半ば怒ったようにアルフレッドはそう言う。
「そうなんですか?知らなかったです。」
覚えとけよ?とアルフレッドは少し拗ねたようにいう。
ミシェルは、あぁ。この人はこういう類いの物が好きなんだ。じゃなきゃそんなに真剣な顔は出来ない。と今まで見た中で初めて見る顔を見せたアルフレッドにそんなことを思って、
「ごちそうさまでした。」
とからになった食器に向かって手を合わせた。