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どこにも分類できない作品集

絶対的予言者

作者: 矢田こうじ

 この国には予言者がいた。

 その的中率は100%。外れたことがなかった。


 予言者出現後、3年後の山火事も、14年後の大型台風もきっちり予言をして、奇跡的と言えるほど、犠牲者は出ない。そしてそれが大小関わらず、その予言は続くことになる。


 彼女、その予言者が言うには、未然に防ぐ事が何より重要らしく、誰かが明日に何かをする、などと言ってるだけでは遅いのだそうだ。


 そこで彼女がさらに6年後に提唱したのは、その要素そのものをなくしてしまう事。


 初めは、あの木を切り倒してほしい、というものだった。彼女は高らかに、これがなくなれば交通事故が減るだろうと宣言する。

 そして実際半年もすれば、その地域の交通事故は激減してしまった。

 なんの関係もないと思われるモノが、彼女が予言する効果を成立させている。無駄な行為、無意味に行われる破壊行為と反論を上げていた人々は、やり場のない振り上げた拳を、次々に下ろしていった。


 しかしある日を境に、その"予言対策"は激変する。

 その時その国では、彼女のおかげで、大規模な天災、事故、伝染病などは国全体で激減しており、彼女が"国単位で扱いきれない"という小さな、1人2人の事故が1日に数件、起こるだけだった。

 国民はほとんど彼女を信用し、彼女の言葉に耳を傾けない人間は皆無に近かった。

 彼女は次の段階に向かう、と宣言した。そう、"犯罪の防止"を行う、と。

 これには警察が難色を、強い警戒を持った。なぜならその1回目の予言防止は、都心にある、特定のビルを3つ壊せというものだったからだ。それがなくなれば、脱税額が国で半分になる、と言う。


 これまでの予言に伴う破壊行為は小さなもので、持ち主の善意、そしてそれを行うことで周囲から大きな賞賛、名誉を受けるという、個人としては大きな恩恵、国としては小さな代償でしかなかった。

 だがその時は違った。明らかにそこには企業活動があり、それを善意のみで行うには限界のあるものだったからだ。

 3つのビルの所有者のうち、1つは記者会見を通じ、一部の脱税を認め、速やかに取り壊す事を表明したが、残りの2つは、脱税行為を否定し、今後検討する、に回答を留めてしまう。

 ここでマスコミは何かを隠しているのでは、と有る事無い事囃し立てたが、その会見の夜に事態は変わってしまった。

 一部の人々がそのビルに押し寄せ、様々なものを壊し始めたからだ。これには警察も動くはずだったのだが、通報者がおらず、そのビルの関係者が翌朝訪れる頃には、廃墟と化したビルになっていた。


 つまり警察も口だけ、国民とともに黙認を決めた。


 当然その行為はエスカレートする。次はあの港、次はあの施設、と2週間の間に次々と破壊行為が行われた。そして予言者の言う通り、脱税は激減した。

 昔、下げた拳をもう一度振り上げて世に訴えた人々がまた出てきた。これは純粋な数の、そして力の暴力だ、と。しかし大多数はわかってても、その言葉に耳を貸さなかった。それでも現実的に悪事は減ってしまったのだから。

 さらに彼女の予言予防は多岐に渡った。密輸、麻薬、人身売買、あらゆる犯罪の対策が次々と彼女の一言によって行われる。既に政治を超えた行為になっていたが、この時点では槍玉に挙げられるのを恐れ、力のある政治家すら、傍観を決め込んでいた。


 そして最後に残った犯罪は"殺人"のみ。予言者たる彼女は、その運営団体が用意した何よりも広く大きな予言の舞台に彼女を立たせ、宣言させた。


「残る犯罪は殺人のみです。これはいちばん、難しくて、いちばん、みなさんにも痛みを、犠牲を伴う行為です。しかし、これが行われれば、殺人は激減します。どうか心して聞いてください」


 彼女が演台に立つこの映像は、今でも定期的にテレビから流れてくる。


 彼女がその後に放った言葉は、"指定した人々の引っ越し"だった。粛清を予想していた人々は、またやり場のない拳を下げざるを得ない状況に陥り、次は確実にその立場を追われ、失脚していく。

 そんな中、着々と予防は行われていく。

 A地区の人はG地区へ。

 蟹座の人はここへ。

 45歳の人はあちらへ。


 3年がかりの大きな"大移動"。

 そのほとんどの人たちはそれに従い、引っ越しをしていく。それはもう、盲信とも言える行動だった。


 そして今、予言者から引っ越しの完了と、向こう100年の殺人の激減を約束した。

 あと1つの実行を除いて、と。


 彼女はそうして最後の予防を話すため、またあの大きな演台に立ち、その場に参加した人は、固唾を飲んでその言葉を待つ。


 彼女は演台に5分ほど立ち尽くすと、そのまま何かを言いたそうに前を向き、何かを声に出そうとして、そのまま倒れてしまう。

 そして二度と目を覚ますことはなかった。


 彼女がこの時何を話すつもりだったのか、62年経った今でも各地区で論議され、専門学までにも発展している。

 まだ誰も彼女が何を言いたかったのか、明確な答えは出せていない。


 しかし、その日から何故か、殺人事件は激減している。


こうなったらすごいと思いますがね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の死を持って、殺人というこういをなくしたのなら「英雄」とか「聖人」と呼ばれるべきなんでしょうね(^_^;) 星新一さんの小説で 「目を閉じて願いを言うと、再び目をあけた時にすべての願い…
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