仮
瞬間。
ガシャアアアアァッン
部屋の窓が、割れた。
「!」
ゼレは咄嗟に自身の背にラーラを隠し、剥き出しの窓と向かい合う。窓から離れた位置にいたおかげか、飛び散った破片による被害はない。
ガシャ、と、破片を踏む音。
突然の事態に頭が混乱するが、ゼレは意識を集中させ、眼前を睨み付ける。
それは、異形の姿をしていた。
簡易な服を黒々とした肌眼前を見え隠れさせる、長身のーー恐らくだがーー男。赤く瞳孔が開いた瞳がゼレを見ていた。耳元まで避けた口がつり上がる。そこから見える歯は赤く、鮫のように羅列していた。
「獣人………!」
背後でラーラが苦々しく言う。
獣人。
人ではない、人に似た、獣の、人。
「何でこんなところにーー」
ここは帝都の中心部。
警備が最も厳重な城に、こんなに簡単に襲撃されるなんて。
「何事ですか!!」
扉から部屋の警護をしていた兵が飛び込んでくる。
相手はひとり。増援が望めるここならならば、容易に対処できるはずだ。
が、
「なっ」
眼前にいた男が、途端に地を蹴った。
一瞬。
一瞬だった。
男の赤く染まった歯が、兵の首筋に突き立てられる。
がぶ
ぐちゅ、
肉のつぶれる音。
骨の砕ける音。
ゼレは、目の前の光景を疑った。
鮮血が飛び散る。
高貴な床が湿る。
脚が、震える。
「あ………」