白の次期皇女
赤と白に囲まれた不思議な部屋。
その中央に置かれた椅子に、彼女は上品に座っていた。
「……どうした。もっと近くに寄れい」
ふんわりと彼女ーーラーラは微笑む。
赤のドレスに身を包んだその姿は、まるで絵画を見ているかのようだ。眼前の少女も、少女のようには見えない。
世界が違う。
ゼレはそう直感した。
「おい」
「っは、はい!」
浮かべていた笑みが気え、不満を込めると、ゼレは心臓が飛びでるかのような錯覚を覚えた。
早足になる自分を抑えつつ、封筒を取り出す。
彼女の前に跪く。
「これを」
「騎士……聖騎士からの、であったか」
「はい」
ラーラは頷き、差し出された封筒ーーではなく、ゼレの手首を掴んだ。
「え」
「よっ」
そのまま引き寄せるようにあげ、ゼレを立たせた。
ラーラも椅子から立ち上がり、に、と歯を見せて笑う。
「これでわたしとお前は対等だの!」
そう言って初めて、封筒を手に取った。
「え、え、あ、……え?」
「何だ、騎士の癖に応用が効かんの」
「す、すみません……」
「それにチビだ」
「う」
言葉に詰まる。
ラーラとゼレは男女の差はあれど、背丈はほとんど同じであった。ゼレは今13歳。これから伸びるかどうか、怪しいと自分でも思っていた。
「わたしは今年で10だ。お前は?」
「13、です」
「上か!やはりチビだの、お前!」
「………すみません……」
「何故謝る。謝罪は罪を犯した時のみ。チビは反省の仕様がないからな、謝罪はいらんぞ」
「……………」
いたたまれなくなってきた。
どうして僕はここに来たのだろう。
ちら、とゼレは彼女の手に握られた封筒を見下ろす。
「その」
「これか?安心しろ、後で読む」
ぽい、とラーラは封筒を後方に投げ捨てた。ゆらりと宙を舞い、高級そうや寝台に着地する。
「あ!」
「どうせ後見人やらお祖父様の胡麻擂りやらだろう。飽きた」
「……………」
「いつぞやの結婚の申し出には驚いたがの。……あぁいや、お前の主を罵った訳ではない。そのような顔をするな」
ラーラは苦笑しつつ、ゼレの頬に手をあてる。
「わ」
「逃げるな」
反射的に身を下げようとするが、片方の手がゼレの肩に置かれ、身動きができない。
ゼレは自分の顔に熱が籠るのを実感した。
同い年か年下の少年たちと触れ合う機会は多々あるが、少女相手は初めてだ。加えて皇帝の孫という自分とは住む世界が違う少女だ。
……僕は、こういう時、どうすればいいんだ?
しばらく固まっていると、少女が頬に添えた手でゼレの頬を摘まんだ。ゆるく、かと思ったが、
「いっ」
予想以上に痛かった。
「はは、面白い顔をしていたからな、つい」
「うぅ……」
「ほら、そのような顔もするな!」
ラーラは快活な笑みを浮かべつつ、寝台に腰かけた。
そして先ほどまで座っていた椅子を指差す。
「座れ」
「え、でも」
「さっきからわたしばかり喋っておる。お前の口からでるのは戸惑いの言だけだ。つまらん」
それは有無を言わせない、次期皇女の言葉だった。
「何か話せ。お前の話をわたしに聞かせろ!」
初対面の上品な雰囲気とは一辺し、彼女は少女となる。
「たんまりとな!!」