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忘れてしまったのだから、仕方がない。
そう言って、天秤は笑った。
だから、僕は知らないよ。
僕は、僕の世界だけで精一杯なんだ。
そう言って、天秤は泣いた。
白い鳩が飛ぶ。
青い空を、雲の切れ目を、悠々と飛ぶ。
何だか、見とれてしまう。
何故だろう。
「この野郎ぉ!!」
野太い声。
視線を空から降ろせば、逞しい腕が見えた。大きく振りかぶりーー僕目掛けて迫る。迫る。
ああ。
ふと、納得した。
僕は半身を引いて腕をかわす。腕の主はバランスを崩し、前屈みになった。自然と相手の、男の頭が目の前に映る。丁度いい。突き出された頭部に沿えるよう、僕は右手を差し出した。
「あんたが不釣り合いだからだ」
優雅に飛ぶ鳩に、
綺麗な青空に、見とれたのは。
「責任、とってよ」
そう早口で、言えば、男は瞬時に身を引いた。
信じられない。そんな顔をして。
瞬間、男がその逞しい両腕で胸を押さえはじめた。かきむしるかのように爪をたてる。
ああ、苦しいか。
思わず笑ってしまう。
「‥‥っな、何を‥‥した‥‥‥‥化け物っ!!」
男は尚も叫ぶ。
煩いな。だからこうなったんだよ。
「別に。あんたにこの空は似合わないと思って」
頭上を指差してそう言えば、男は更に顔を歪めた。
けれど、もう。
もう、遅い。
「次はもっとましなもんに生まれ変わってよ」
カシャン
「化け物とかにさ」
プロローグっぽい。