ケータイ
携帯少女
イタチコーポレーション
私は電話を待っていた
しかし、私の手にある携帯は一向に
着信音をならさない
あなただけのために
毎月携帯料金を払い
こうしていつも、充電器に繋げて
待っているのに
私の手にある携帯は鳴らない
彼との初めての会話は
本当にどうでも良いことだったように思う
それがどんな内容か
あまり覚えていないくらいに
そんな彼から、いつの日か
電話がかかってきた
しばらく合っていなかった
そして、私は捨てられたと思っていた
だって、携帯で、電話するきっかけとなったのも
つき合い始めてからなのだ
それが、ある日ぱったり
彼からの着信がなくなってしまった
私は次第に、彼以外から、かかってくる
電話が鬱陶しくなってきた
それだから、私は、その他の電話を全て着信拒否して
彼からの電話を待った
でも、鳴らなかった
それがつい先日
私宛に
あの電話が鳴った
始めこそ、迷惑電話の一種かと思った
でも違った
その声は
わずかにかすれ
ノイズが走り
ひょっとすると
彼の声をあまり知らない友達やもしかしたら
家族が、聞いたら
きっと、彼以外だと思うに違いない
しかし、私は分かる
あれは彼だ
彼の声だ
「どうしたの」
私は言った
でも、その返答を前に
彼の電話は切れていた
ただ、私は無機質な携帯を握っているしかなくなっていた
また待たなくては
それは、彼が死んで、一ヶ月後の日であった
「これどう思う」
久しぶりに
お茶を飲まないかと、友達に誘われた
私は断ったが
何度も言われている内に
あのことが気になった
もちろん、死んだ彼からの電話だ
話してみようか
私はそう思うと
なぜか、急に行きたくなった
「うん」
私は頷くと
そのまま二人で、近くの喫茶店に、はいった
それで、彼女に話したのだ
「・・それ危ないよ」
彼女は、笑いもせずに
それどころか
いつもの落ち着いた雰囲気とは違い
明らかに、その話を信じ
その上で、何かを知っている風である
「どう言うこと」
私は聞く
「こう言うの変かも知れないけど
私、少し霊感があるのよ」
初耳だ
正直、科学に生きているような
全てを落ち着いて分析しているように
見える人であった
「たぶん、あまりでない方が良いと思う
きっと、連れて行かれる」
彼女はそう言うと
私の目を見た
実に真剣だった
でも、私は、携帯を握りしめて
それを上の空で聞いていた
なぜだろう
連れて行って欲しいのか
生きたくないのか
分からない
でも、上の空で聞いていた
「駄目だからね絶対出ちゃ」
彼女はそう言うと
私に念入りにそう言ってから
私と別れて行った
大学の講義があるのだろう
私は行っていない
そんなとき電話が鳴った
宛名はなかった
私は少しそれを見ていた
押そうとしたら
指が震えて上手く押せないことに気が付いた
辺りは真夏で
蝉がうるさい
少なくとも、寒いことなんてありはしないのに
どうしてこんなに寒いのだろう
震えているのだろう
私はどうして
そんなことをしている内に
電話が切れた
良かったのだろうか
でも、そう、でも
きっと私は
次電話がかかってきたら
きっとであるだろう
そして、死についても分からず
後悔なんかもせず
ただ、何となく
彼の声が聞きたくて
押してしまうのだろう
私は携帯を強く握りしめた
壊れろ
そう思うが
携帯は壊れない
私に、しねというの
自分勝手にそう言ってみた
私は生きたいのだろうか
分からない
家に帰り
その薄暗い部屋で
ただ携帯を見ていた
一日中
暑いのに毛布にくるまり
ただ、その無機質な物を見ていた
時間が経っているのに
それが分からない
意識が朦朧としている
何もあまり食べないせいだろいだろうか
そして、私は、辺りが暗くなったと
意識し始めたとき
電話が鳴った
私はそれを見た
あの、友達だった
消したはずなのに
私は疑問に思いながら
耳に当てた
「もしもし」
「あなた、まだ出てなかったのね」
「うん、
かかってきてない」
「出ちゃ駄目だからね」
「・・・うん」
私は自分でも良く分からないが
それでも嘘と言うことにして
そう言った
「本当に」
そのとき
着信が鳴った
耳から放し
画面を見る
彼からだきっと
その宛名のない画面
私は、彼女に詫びを入れ
電話を切った
そして
着信ボタンを前に
ただ、震える手を
無理矢理押しつけた
「もしもし」
何も聞こえない
「もしもし」
私はもう一度言った
すると、かすれるような声で
携帯から声が聞こえる
「もしもし」
私は何度も叫んだ
しかし、その薄れるような
こすれるような声は
酷く遠くから放しているようで
はっきりと聞き取れない
「どうしたの、何があったの」
何か音がした
それが扉をたたく音だときが付いたとき
私は、彼何じゃないかと思い
外に出た
「大丈夫」
友達だった
「どうしたの」
「あなた、そんなに死にたいの」
彼女は青い顔をして言う
「分からない・・どうして」
私は聞いた
「電話に出たでしょ」
「何で知っているの」
「言ったでしょ、私は霊感があると
それで妨害したのよ」
「何でそんなことしたの」
「あなたの為よ」
「嘘よ、あなたは、私から彼が取られるのがいやで」
「そんなこと無い」
「そうに決まっている」
「・・・あなた、死にたいの」
また同じ事を言った
「分からない」
私も同じ事を言う
「・・・・あなたを連れ出そうとしている彼は
もう、あなたの知っている彼じゃないはずよ」
「でも、私は出ようとするでしょう」
「・・私はそれを止めさせるわよ」
「無理よ、何時かかってくるか分からないから」
「なら、私はいつもあなたを見ているわ」
「そんなこと」
「出来るわよ、友達だから」
「嘘よ、それでも私はでる、私は自分を信用している
あなたはそれを阻止できない」
「あらそう、でも、私は阻止するわ
あなたのことが嫌いだから
死なせないもの」
・・・・・・
彼から電話がかかってきたことは
それからはない
そして、彼女は、その夏の終わりに
急に大学に来なくなり
家の人に聞いても、失踪した
と言うことが、どうも、分かり始めているような感じであった
あれから、私の元へ、彼女から電話がかかってくる事がある
でも、それは、彼女が湖で発見されてからのこと出会った
そして、私は、彼のときと違い
携帯電話に出ることはなかった
にどめの電話がかかってきたとき
私は、携帯を解約し
そのまま、一生携帯を使わないだろう
そのとき思った
でも、三年ほどして、私はお見合いで、結婚して
そのまま、子供も三人ほど出来た頃
夫に持たせられた
携帯がたまになるのだ
それは、着信名が無く
誰からかは、分からなかったが
しかし、どうしてか、私は分かるのだ
それが彼女だと
でも、私は決してでない
でも、ある時子供がそれを見て
携帯に出た
でもそのときにはもう遅かった
私の目の前で
子供は携帯を取り落とすと
「何で出なかったの」
彼女そっくりの声で言った
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