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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
お店と両親と教皇とアグニ
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薬師ののんびり旅紀行 八〇話

 それから一週間。

 月も変わってリンジャーさんが雑誌を届けに来てくれた。手ぶらで帰らせるのもなんなので、オレガノクッキーを手渡しておいた。この前のインタビューの時、美味しいって何枚も食べてたから。とても嬉しそうに受け取ってくれたからよかった。

 そして記事のおかげもあってか、来店数も倍以上に増えたのよ。さすが月刊商業生活。すごい威力ね。

 だから、売上も上がってとても好調。

 それと、おばあちゃんだけど。今日、手紙が届いたの。ルチアちゃん達もお金を貯めれたから、王都でお店を探しに行くそうよ。それで、その時におばあちゃんも一緒に来るって。もう家には帰ることもないだろうからって、異空間に色々詰め込んでいくって書いてあった。

 おばあちゃん来るのね。よかった。

 そういえば。

 一つ気になってることがあるのよね。何か視線を感じるのよ。それにはアグニも気づいているみたいなんだけど、特になにかをしてくるわけでもないから、放置してるって感じで。

 一体、なんなのかしら。


「ユーリィ。一人で出かけたりしないこと。わかった?」

「うん。あの視線のことでしょ?」

「ああ。一つは害意は感じられないけど、二つ目も少し気になるけど、一つ目が謎だ」

「えっ、二つ? 二人いるってことだよね。視線の種類も違うってことは、別々のところからのってことだよね」

「おそらくだけど、二つ目のはアラリス教の教皇の草だろうね。なんで気配を察知できるのか。もっと巧妙に隠すはずなんだけど」

「一つ目のは嫌な感じがないってことは、草同士で牽制しあってるから、とかかな」

「そうかもしれないね。二つ目は目的もはっきりしてるから対処のしようもあるけど、一つ目は何の為にかわからないからな。一人でいたら接触を試みるだろうね」

「ゆ、誘拐されたりとかするのかな」

「目的がわからないから、その判断も難しいね。だから、くれぐれも一人にならないこと。いいね」

「わかった」


 二つかあ。というか、やっぱりアラリス教の教皇は私のこと、諦めてなかったのね。月刊商業生活に載っちゃったから、居場所もバレバレだし、ちょっと軽率だったかも。

 反省しつつもお店は開店させる。そろそろ常連さんになりそうなお客さんもいるから、臨時休業なんてできないし。


「よお、久しぶりだな」

「久しぶり、元気そうだね」

「え? あ! あの時の!」

「ああ、あの冒険者達か」


 お店を開店させると、待っていたお客さんが入ってきて、私とアグニに親しげに声をかけてきた。誰だっけって一瞬思ったけど、すぐに思いだした。ザグさんとカイトさんだ。


「コルト村以来ですね。お元気そうでよかったです」

「穣ちゃんもな。聞いたぞ、あの雑誌にインタビュー記事が載ったそうだな。知り合いに聞いてもしやと思い来てみたんだが」

「来てみて正解だったよ。あの時は本当にありがとう」

「いや、それはかまわないさ。俺とユーリィはできることをしに行ったまでだしな」

「それでもだ。わざわざ危険を冒してまで村に来る薬師なんていないと思っていたからな。助かった」


 ザグさんとカイトさんは以前、ハイツリーブ国のコルト村のアンデット事件以来だけど、二人共元気そうでよかった。

 あれからカイトさんはザグさんと共に行動するようになって、今では中級冒険者として活躍してるんですって。ザグさんは弟分ができたと嬉しそうに話してた。

 もう半年前のことなのよね。あの村は大丈夫なのかな。そう思ってると、ザグさんがそういえば、と話をしてくれた。村の人達は、一度焼いた村を立て直して、今では普通に暮らしているそうよ。少し安心したわ。

 その後二人はポーションやマーカーに魔法石を買っていってくれた。また来るって言ってたから、もしかしたら頻繁に顔を合わせることになるかもしれないわね。


「よかったね、ユーリィ。村の人が無事に生活できてて」

「うん。安心した」

「だけどね、ユーリィ?」

「ん?」

「俺以外に笑顔をなるべく見せないようにしないと駄目だよ。ソルト達はかまわないけど、それ以外は駄目。でないと」

「目をくりぬく?」

「そういうこと」

「わかったよ。気をつける」


 冗談じゃなくて、本気だからね、アグニは。

 今まで、私の気持ちをたくさん伝えてきたけど、それとこれとは別らしい。どんなに私がアグニ一筋でも、他人に愛想を振り撒くのは許容できないみたい。

 アグニの沸点とか、望んでることとか、大体わかってきたけど、それでも多少の知り合いくらいは許してほしいとは思っちゃうけどね。でもまあ、好き好んでヤンデレスイッチを入れる気は私にはないから、なるべくアグニの意に沿うようにしていこう。

 レッドドラゴンの件で、お互い少しだけど自立できたと思ったんだけど、まだまだね。というか、一生直りそうにないよね。

 そんなことを考えつつも私は店番をして日々を過ごす。

 二日後、おばあちゃん達が王都にやってきた。


「おやまあ。ずいぶん立派な店だこと。内装も穏やかでいいわねえ」

「おばあちゃん! さ、中で休んで」

「はいはい」


 そうだ、今更だけど、おばあちゃんの部屋は二階で大丈夫かな。足腰大変だよね。

 庭を潰して増築したほうがいいかな。うん、そうしよう。三階の屋上に畑を作ればいいよね。日当たり抜群だし。アグニにこそっと聞いたらすぐに快諾してくれたし。


「おばあちゃん、庭を潰して増築予定なの。それまで二階の部屋でもいい?」

「かまわないさ。まだまだ足腰は元気だからねえ」

「ユーリィ、あたしたちはこれから不動産に行ってくるから、またあとでね」

「うん、いってらっしゃい」


 そう言ってルチアちゃん達とは一旦別れることに。部屋は余ってるから、見つかるまではうちにいてもらうのよ。いい物件があるといいな。家が近いともっといいけど。


「さてと、わたしはちょいと出かけてくるさね」

「え、どこ行くの?」

「ちょいと野暮用さ。そうさねえ、四の鐘が鳴る頃には帰ってくるよ」

「わかった。いってらっしゃい」


 お茶を飲んで少し休憩してたら、おばあちゃんが席を立ってそんなことを言って出かけた。どこにいくのかわからないけど、知り合いでもいるのかも。


「そういえば……」

「なに? どうかしたの、アグニ」

「いや、なんでもない」


 どうしたんだろう?

 まあ、わからないことで悩んでても仕方ないし、お客さんもいるし、店番頑張ろうっと。

 そして、四の鐘が鳴って、おばあちゃんは帰ってきたきたけど、何か考え事があるみたいで、すぐに二階に行っちゃった。

 でも、疲れてただけかも。そうだ、今日の夕食はポトフにしようかな。竈の上に置いておけば勝手に美味しくなってくれるから、私好きなのよね。野菜の栄養や旨み全部入ってるから美味しいし。

 アグニと店番を交代した私はさっそく作ることにした。あとはパンも焼いておこう。ルチアちゃん達がパン屋さんを始めたら、そこで買うってのもいいよね。

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