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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
お店と両親と教皇とアグニ
78/84

薬師ののんびり旅紀行 七十八話

「あんたら、不動産で物件を探していただろう」

「それが?」

「実は、不動産を通さないで見てもらいたい物件があるんだ」

「不動産を通さないで?」

「ああ。そのほうが不動産に支払う手数料もなく、俺に入る金も多くなるからな」


 なんだか都合のいい話だけど、話していた内容と同じくらいの間取りの物件を、一つ持っているんだそうな。少し疑わしいけど、アグニもいるし、少しくらい話を聞いてみてもいいよね。


「詳しく話を聞かせてもらってもいいですか」


 男の人はラグナさんというそうで、こう話した。

 兄夫婦が大通りから一本外れた通りで喫茶店をしていたが、引っ越すことになった。だけど、引越し先を往復している間に盗賊に殺されてしまったそうだ。で、急遽亡くなった兄夫婦の家を形見の整理をしに来たら、税金を払えと役所に言われて困ってしまったらしい。

 不動産でも、未払いの税金がある家は扱ってくれなくて、途方にくれていた時、ちょうど耳に入ってきた私たちが話していた物件内容がほぼ一致していたから、後をつけて追いかけてきたんだそうな。

 つまり、未払いの税金を私たちが払ってくれれば、不動産で買うよりも安く買えるし、ラグナさんは手数料を取られずに多めにお金が入る、双方とも美味しい話になる、とのことで。


「へえ。それが本当の話なら、さぞかし上手い話なんだろうけどさ、都合の良すぎる話をすぐに信じれるほどお人好しじゃないんでね」

「いや、本当なんだ。兄夫婦が税金を滞納していたなんて知らなかったし、いきなりの話で葬式を終えたばかりなんでこっちも心の整理もついてないし、かといって俺がすぐに払える額でもないしで困ってるんだ。物件だけでも一度でいいから、見にきてもらえないだろうか」


 必死な様子は嘘を言ってるようには見えないけど、私は余計な口を挟まない方がいいよね。だって、今の話をきいて、さぞかし辛いし大変な時に税金の滞納話まででてきちゃったら、なんだかもうわけがわからなくなってしまうだろうしね。私だったら同じように困るだろうし。こんなふうに考えてしまうから、こういう時は、アグニに任せたほうが上手くいくと思うのよ。


「ふうん。まあ、俺達にはあんたの内情なんて知ったことじゃないんでね。悪いけど他あたってくれ」

「そんなっ、頼む。物件を見てくれるだけでいいんだ。少し手直しがいるくらいの家なんだが、そこまで悪くはないだろうし、税金だって、家を買おうとしてるあんたらになら払える額だ」

「それが? 見ず知らずの男の為に、なんで俺達が滞納金を払わないといけないんだ」


 アグニの言うことはもっともだよね。誰だって、えって思う話だよね。だけど、ここまで必死になってるのって、なんだか可哀想になってきちゃう。お兄さん達を亡くして心の整理だってまだできてないだろうし。


「物件を見てそれでも駄目ならきっぱり諦めるから、どうか、時間を割いてくれないか。このとおりだ」


 ラグナさんはそう言うと、頭を深く下げて頼んでくる。そうなってくると、周りのお客さんが何事だって、ちらちら見てくるわけで。う、少し居心地が悪いかも。

 これが演技ならすごい役者さんだけど、本当なのかな。だったら少しくらいなら見てもいいとは思うのだけど。私はアグニを見る。すると、盛大に溜息を吐いて肩を竦めた。


「わかった。見るだけならいいだろう」

「ほ、本当かっ、ありがたい。恩に着る!」

「だが、買うと決まったわけではないからな」

「ああ、かまわない。兄の家を潰さなくて住む可能性があるならいいんだ。ありがとう」


 ほっとした様子のラグナさん。私はつい彼にお茶を頼んでしまった。アグニがじっとこっちを見たけど、たくさん話してたから喉が渇いてるだろうし、お茶を奢るくらいならいいよね。


「あ、すまない。ありがとう」

「いえ。私もその物件気になりますし」


 そうしてこれからさっそくその物件を見に行くことに。


「ここがそうです。今開けますね。どうぞ」

「わあ」

「ふうん」


 中に入るとシックな雰囲気の洒落た喫茶店だった。家具なんかもアンティークで揃えられてて、とってもいい感じ。


「アンティーク風の家具か。でもこれ、ただ似せただけだね。木が新しいし」

「なるほど。風、なのね」


 そうよね。アンティーク家具で統一なんて、そんなお金のかかること、一般市民ができるわけないもの。

 だけど、この一階部分、カウンター席とテーブル席の間に壁を作って、テーブル席の方を作業場にすれば、ちょうどいい感じの広さになりそう。ただし、作業場兼居間って感じだけど。台所もあるし。

 奥もみたけど、すぐ目の前の扉を開けると、右にトイレやお風呂、左に小さなに庭。この庭でハーブや薬草を育てるのもありよね。

 そうして地下一階は石造りの頑丈な作りで、広さも十分にあるから、商品の在庫を置いておくにもいいわ。

 二階に上がれば四部屋あって、一つは客室として使えるだろうし。ベッドも置いてあるけど、これ貰ってもいいのかな?

 さらに三階があるんだけど梯子で。上がると屋根裏部屋だった。で、奥の扉をあけると二階の上部分にベランダ。ここで薬草なんかを天日干しするのもいいわね。風通りもいいし。

 うーん。中々の好条件な物件じゃない。

 もしここを買うってことになっても、土地代込みの四〇〇万セル、そして未払いの税金五〇万セル。さっきの不動産で見た限りでは、たしかに直接売ってもらったほうが二〇〇万セルくらいお得だわ。

 個人的には気に入ったけど、アグニはどうかな。


「どう?」

「そうだな……。ここの家具って運び出すのか?」

「いえ、俺の家に必要な物はすでに運んだし、あとは処分に困ったものしか置いてないですね。だから置いてある物は自由にしてくれて構わないです」

「なら改装するとしても一階部分のみか」

「カウンター席側を店舗にする感じでいいよね? テーブル席とは壁を作って作業場兼居間って感じで」

「そうだね。同じこと考えてたよ。とすると、壁に三〇万セルくらいかな」


 アグニも好条件だったからか、ちょっと揺れてるみたいね。私はここ、気に入っちゃったんだけどな。


「ユーリィはどうしたい?」

「えっと、そうね。私はここの雰囲気気に入ったけど。アグニは?」

「俺はユーリィがいいならかまわないよ。店主はユーリィだから」


 どうしようかな。決定権は私にあるみたいだけど。でも私、ここがいいなあ。


「ここがいいなあ」

「なら決まりだね」


 ぼそっと呟いた私の声を聞き取ってたアグニ。そう言うとラグナさんはぱあっと明るい顔をした。


「なら、善は急げだ。ラグナさん、これから俺達と一緒に役所に行ってもらいますよ。書類、持ってるんでしょ」

「ああ、持ってるとも。土地の所有者の証しもある」


 それからラグナさんと一緒に三人で役所に行って、個人売買な為に住民課の人に承認になってもらって、その場で土地と店舗込みで四〇〇セル。そして未払いの税金五〇万セルを支払うことになった。

 そうして、正式に土地と店舗は私のものになって、壁を作って、少し掃除をしたらすぐにでも開店できるようになった。

 なんだかあっという間に話が進んだけど、ここは大通りから一本外れた通りで冒険者ギルドにも近いし、まるで私達のために準備されたかのようで。なんとなく神様からの私たちへの頑張ったご褒美なんじゃないかって、そんな気持ちになった。

 リウラミル様、私、お店頑張りますからどうぞ見守っていて下さい。

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