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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
お店と両親と教皇とアグニ
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薬師ののんびり旅紀行 七〇話

 ベル村を出て、ガタゴトガタゴト揺らり揺られて。馬車から見える景色を楽しみながら、私達はカースリドまでの旅を始める。

 私にとっては帰郷だけど、ルチアちゃんやミリーナさん、ソルトさんにとっては始めての国に行くからか、すごく楽しみにしているのが伝わってくるの。

 私も住み慣れた国が一番いいから、帰るのが楽しみ。

 アグニとソルトさんは二人で御者台にいて、交代で馬車の手綱を持ってるみたい。幌の中で座っておしゃべりしてる私達はちょっと遠足気分で笑いあう。

 ベル村からファバンを経由してノレへと向かって、馬車を返して定期便に乗ってカースリド国のレンブルトンへ向かうんだけど、そこからは私とアグニはハリッツ村。ルチアちゃん達はカースリドへ行って住民登録をしにいくの。アイオーンから出国することはもう役所に言ってきたから、そっちに寄る必要もないんだって。

 ちなみに、ファバンでは一泊する予定なの。旅慣れてないルチアちゃんとミリーナさんへの配慮ね。

 いくら馬車で歩かなくてもすむからっていっても、結構疲れるものなのよ。だから、休憩の時は原っぱの上で大の字になって寝転がったりして、少し仮眠をとったりもしてる。そのおかげか、今日はベル村を出て三日目になるんだけど、特にストレスもなく来れているわ。


「あ! 街が見える。お兄ちゃん、あれがファバンでしょ?」

「そうだ。今日はあの街で一泊する」

「宿屋へ行ったらお風呂へ行きたいわねえ」

「あたしも。歩いてないけど初めてのことばかりだから、ちょっと疲れた」

「じゃあ、宿屋へ着いたら今日は早めに寝よう。私はちょっと市場に用事があるから、それが済んだらまた宿屋へ来るね」

「ユーリィ。俺も付き合う」

「うん。じゃあまたあとでね」

「いってらっしゃい」


 宿屋へ着いた私とアグニは場所を覚えてから、まずは商業ギルドへ寄ることにする。もちろん市場での販売許可をもらうためよ。

 許可証をもらった私達は、さっそく市場へ。

 声が飛び交う市場はとても活気に満ち溢れてて、私はこういう雰囲気も好き。

 五ヶ月の間、たまに王都アイオーンの市場で売ったりしてたけど、ここには来てなかったから、お客さんの食いつきはそんなによくはないと思うけど、それでもお店を出す資金は多いほうがいいから。

 ちなみに、その五ヶ月の間で、異空間に入れておいた食事、ケバブ、カルボナーラ、おにぎり昆布味、カツサンドは全て食べ切ってあるから、旅の最中はアグニやソルトさんが仕留めてきた動物を捌いて食べたりしてるの。

 そうして鐘が一つなるくらいまで市場で売って、私とアグニは宿屋へと戻る。

 資金だけど、今のところは三,〇〇〇,〇〇〇セルは貯まってるかな。節約して貯めに貯めまくったからね。それもこれも早くアグニと二人でお店を出して暮らしたいから。そうして婚姻届を出すのよ。そうなったら本当の意味で私達は結婚することができる。どんな生活が待ってるのかどきどきするね。

 商品は揃ってるから、あとは店舗兼自宅を探すだけ。だけど、家って高いから、購入するまではまだまだかかりそうだけどね。いいところがあればいいな。

 不動産にも行かないとと頭の中で考える。

 お店が軌道に乗ったら、おばあちゃんとも王都で一緒に住みたいんだけど、多分断るだろうね。だって、なによりも自由が好きな人だから。じゃあ、なんで王宮に仕えてたのって言われれば、そん辺は私にはわからないなあ。聞いてもはぐらかされるだろうし。


「今日の売上は、ハイポーション三十五個にマーカー二〇個かあ。やっぱり客足はあまりよくないわね」

「それでも鐘一つ分だけの時間でそれだけ売れたんだ。四五,〇〇〇は中々だと思うよ」


 アグニにそう言われて、まあ、たしかにそうかもって思いなおす私。


「ただいまってあれ、二人とも寝ちゃってるのね」


 宿屋へ戻って部屋に入ると、ルチアちゃんとミリーナさんはすでに寝ていた。まあ、無理もないか。初めての旅でいきなり三日も野宿してればね。私も最初の頃は疲れてたかも。

 とりあえず、私はお風呂へ直行して、体を洗って出てきたら、食堂にいたアグニとソルトさんが視界に入ったから部屋には戻らずにそっちへ行くことに。私は旅はもう慣れてるからね。疲れはお風呂に入れば癒されるしさ。


「地図みてたんだ」

「あ、ユーリィ。湯上りでいい匂いがするね。こっちへきなよ。これ以上他の男に湯上りのユーリィを見せたくない」

「わ、わかったわ」

「あんたらはいつでもブレないな。特にアグニ」

「そうかな。思ってることを言ってるだけだけど」

「あ、あはは」


 それには私も苦笑い。だって、毎日何かしら私を褒めちぎるからね、アグニは。愛されすぎてて愛が重いかもってたまに思うこともあるけれど、まあ、私も口には出さないだけでアグニのこと、毎日色々考えてるからなあ。お互い様よね。


「あと二日でノレに着く予定よね」

「ああ。すぐに乗れる定期船があれば、そのまま向かうことにするかと話し合っていたところだ。穣ちゃんはどう思う」

「そうね、二人は旅慣れてないから一泊したほうがいいかもしれないけど、船室でも休めるしね。私は乗れるなら乗ったほうがいいかな」

「じゃあ、決まりだね」

「そうだな。さて、俺も風呂へ行ってくるか。お二人さんはまだいるんだろう?」

「アグニはどうするの?」

「俺はユーリィと少し二人っきりになりたいかな。ここ三日はそんな時間取れなかったしね」

「オアツイことで。邪魔者は退散退散っと」


 そう言ってソルトさんは手をひらひらしながらお風呂に向かった。茶化さないでよもう。恥ずかしいなあ。アグニの隣の席に着くと、すぐにアグニが椅子ごと寄ってくる。


「ああ、本当にいい匂い」

「う」


 犬みたいに鼻を寄せて私の匂いを嗅ぐアグニ。それに気づいた人が怪訝な顔をしてる。なんとも居心地の悪い。ここは早々に席を立ったほうがいいかもしれないわね。


「ね、アグニ。部屋に戻らない?」

「そうだね。ソルトが帰ってくるまでまだ時間があるし。行こうか」

「うん」


 私は自分の部屋にってつもりで言ったんだけど、アグニはソルトさんが戻るまで、アグニ達の部屋に行こうとしてる。だけど、さっそく席を立ったアグニは、私の手を引いて食堂を出て階段を上がる。違うのっていいずらくなっちゃった。

 まあ、今日くらいはいいかな。だって、アグニだってずっと御者台にいたんだし、疲れてるものね。少しくらい私で役に立つなら。そう思って私はアグニの握る手を握り返す。

 それに気づいたアグニは私を見てにこっと笑う。邪気のないその笑顔はとても可愛く映った。

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