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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第四部 ご令嬢とソルトの妹と
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薬師ののんびり旅紀行 六十七話

 翌日。

 今日はミリーナさんがルチアちゃんの様子を見にきてくれてた。


「ルチアと友達になってくれてんだってな。ありがとな穣ちゃん。それに、完治した後のこともだ。俺としてはカースリドへ行くことも賛成だ」

「一体何の話?」


 ミリーナさんが少し焦ったようにソルトさんに聞く。


「ルチアが完治してもここのやつらは信じないだろう。生きにくいこの村にいるよりは、別の国で心機一転するのはいいと思ったんだ。ちょうどユーリィからの誘いもあったしな」

「そう、なんだ」


 あ、そっか。そうだよね。ミリーナさん、ソルトさんと別れることになっちゃうんだ。なにかいい方法があればいいんだけど……。

 その日はミリーナさんはどこか元気がないまま帰っていった。


「ねえ、ルチアちゃん。ミリーナさんってもしかして、ソルトさんのこと?」

「やっぱりわかる? わかりやすいよね。だけど、長年幼馴染でいたから、中々進展しないのよね。でも、そうだよね。お兄ちゃんとあたしがカースリドに行ったら、会えなくなっちゃうのかあ。うーん、ミリーナお姉ちゃんも一緒に行ければいいのにね」

「一緒に……」


 あ、そうか。そうだ。五年師事してたけどまだ不安だっていうなら、もう少しまた誰かに師事すればいいのよ。たとえばおばあちゃんとか。


「ミリーナさんも一緒に行くってのはどうかな」

「一緒に? そうなったらあたしも嬉しいけど、でもそうすると、この村から薬師がいなくなっちゃうのよね」

「あ、そうか。うーん。それだと村の人が困っちゃうよね」

「うん。だけど、村の人達、ミリーナお姉ちゃんのことも、あたしの面倒をみてるからよく思ってないようだって、お兄ちゃんが言ってわ」


 ここの村人って、なんだか閉鎖的で排他的だものね。私達に対してもなんだかよそ者は早く出て行けって感じだったし。そんなこと気にしないけど。


「なら、薬師として生計を立てるのも大変よね」

「うん。だから、パン屋もやってるんだって。薬草を練りこんだパンで、美味しいのよ」


 わ、そうなんだ。私も食べてみたいな。そういえば、そういったパンは今までの国で見たことなかったわ。もしかしたら売れるかも。

 あ、じゃあ。


「パン屋さん兼薬師ならカースリドでもやってけるよね。この村じゃ生活するのも大変そうだし。いくら薬師がいなくなるっていっても、そのミリーナさんをよく思ってないのなら、ここにいるべきではないと私は思うけど。まあ、決めるのはミリーナさんだけど」

「ミリーナお姉ちゃんも独り身だから、両親は病気で亡くなってるから天涯孤独だし、私たちが誘えば来るとは思うよ」

「明日、話してみようか」


 そうして今日、昨日ルチアちゃんと話したことをミリーナさんに言おうとすると、先にミリーナさんが口を開いた。ちなみにルチアちゃんはお粥を自分で一人前をちゃんと食べられるようになってた。

 ミリーナさんは、そんなルチアちゃんを優しく見ながら。


「もし、カースリドへ行くのなら、私も一緒に連れて行ってほしいの」

「え?」

「この村には私の他に薬師の派遣を国に申請すれば来るから、その辺の心配は大丈夫よ。それに、私もう一度ちゃんと師事したいの。皆のそれぞれ大切で大事な人をこれ以上病気で亡くさないように、もっと色々知りたいの。だから、ユーリィちゃん、あなたのおばあちゃんに師事したい。私も連れて行ってくれる?」


 おばあちゃんに、そのまま今言ったことを伝えればきっと教えてくれると思うな。


「うん。じゃあ、五人でカースリドに行こう」

「ありがとう!」


 なんだか話す前に決まっちゃったね。私とルチアちゃんは顔を見合わせてくすくすと笑う。


「ミリーナお姉ちゃん。あたし、お兄ちゃんとのことも応援してるからね」

「私も」

「え、えっ? なんで知ってるの?」


 恥ずかしそうにしてるミリーナさんはとても可愛らしかった。

 そうして夕食、ルチアちゃんを抜かした四人で居間で食事をしている時に、その話をした。


「へえ、いいんじゃないのかな」

「ごめんねアグニ勝手に決めちゃって」

「この場合は仕方ないよ。俺もそのほうがいいと思うし」

「ありがとう。じゃあしばらくはルチアちゃんの歩く練習だね。もちろん馬車も借りるけど」

「それなら馬車はわたしが王都へ薬師の派遣依頼をしに行く時に、借りてくるわ」

「なら俺も行こう。穣ちゃんたちへの依頼がないか、冒険者ギルドに行って見てくる」

「ありがとう」


 そうだよね。まだ私を狙ってるみたいだし。それと、アグニのこともレイネさんが諦めてなければ追いかけてくるだろうし。

 二人で出かけることが決まったミリーナさんはどこか嬉しそうだった。ちらっと私と目が会ったかにこって笑い返したら、赤くなってたけどね。

 本当にわかりやすいのに、ソルトさんは気づいてないそうよ。でも、一緒にカースリドに行くことになって、彼も少し嬉しそうにしてたから、脈は十分あると思うけど。

 それにしても、今日で毎日万能薬を飲んで五日。顔色だけならもうすっかりルチアちゃんは病人じゃないみたいに見える。

 あとは、食事をしっかり食べてもらって、そしてアグニが作った松葉杖で、少しでも歩くのを頑張ってくれたらいい感じ。

 今のルチアちゃんはやる気がすごいあるし、きっと普通に歩き回るのはそう遠くない未来だと思う。私も頑張らないとね。

 私は夜、ベッドの中で、今日のルチアちゃんとの話を思い出してくすくす笑う。友達っていいなあ。


「ユーリィ、楽しそうだね」

「そうかな? 女の子の友達ができたからかも。私、産まれて初めてだから。同じ年代の女の子の友達って」

「なるほどね。俺もユーリィが笑ってると嬉しいから、相手は女の子だし、目を瞑るか」

「男の子だったら?」

「愚問だね。相手を殺して君を監禁する。そうして他の男に近づけさせないよ。最初はソルトを警戒してたけど、どうやら相手がいるみたいだし」

「もしかして、ミリーナさん?」

「ソルトはまだ自分の気持ちに気づいてないみたいだけどね。明らかに彼女を見る目が違ってたからさ」

「そうなんだ。じゃあミリーナさんも安心だ」

「もしかして?」

「うん。内緒ね」


 どうやらソルトさんとミリーナさんはお互いに想いあってるみたいね。どっちかが何かのアクションを出せば、上手くいきそう。

 勘の鋭いアグニが言うんだもの。ソルトさんも好きなんだわ。きっと。

 それがわかればもう何かをしようとかは思わないなあ。何もしなくてもいつかお互いにそういう関係になるだろうしね。

 さてと、私もそろそろ寝ようかな。明日からは少しずつ歩く練習しないといけないし。まずはベッドから立つことができるよう頑張ってもらおう。

 焦らずゆっくりでいいから、頑張ろうね。私も応援頑張る。

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