薬師ののんびり旅紀行 六十六話
鳥の処理を終えて戻ってきたソルトさんは、ミリーナさんに聞く。アグニは私の隣の椅子に腰掛けた。
「血色がよくなってるわ。朝も万能薬を飲ませたから、それの様子見をしないとね。今日は昨日よりもお粥を多く食べれたのよ」
「そうか! ああ、よかった……。すまない、穣ちゃん。本当に助かる」
「それは完治してからでいいですよ。今は寝てるけど、また起きたら症状もまた変わってくると思いますし。食事もそのうち、お粥じゃなくて薬膳料理に切り替えるといいと思います」
「体力もつけさせないといけないわよね。昨日の今日でずいぶんと変わったのがわかるから、とても嬉しい。ルシアは私の妹みたいなものだから」
「夕食の時に様子見をしましょう」
「そうね」
居間の空気も昨日は少し暗かったけど、ルシアちゃんの状態が少しよくなったのがわかって、皆ほっとしてる。私も役に立てたなら嬉しい。それに、同じ年頃の女の子だもの。仲良くなって友達になりたいな。
「ルシアちゃん、お夕飯だよ」
「ん……? あ、ユーリィちゃん。ありがとう」
「今日は私が持ってきたの。はい、あーん」
「ありがとう。なんだか朝も元気が出てたけど、今はもっと気分がいいの」
「わ、それはよかったね! お薬はまだまだあるから、ご飯も食べて元気にならないとね」
「うん。ありがとう」
「お礼は完治してからでいいよ」
お粥を食べさせながら、朝よりも具合がいいと言うルシアちゃんを見て、私までも元気になってくる。一週間くらいしたら、病状ももっとよくなるはず。
そうしたら、次はベッドの住人じゃなく、歩く練習もしないとね。筋肉も落ちてるだろうし。
そうだ。杖があった方がいいよね。アグニに作れないか頼んでみよう。
「杖?」
「そう。そのうち歩く練習もしないといけないでしょ。その時に松葉杖があるといいなって」
「なるほど。なら明日は木を切って作ってみようか」
「うん。ありがとう。そうしてくれるとすごく助かるよ」
寝る前にアグニにその話をすると快諾してくれた。よかった。ありがとう。
でも、このことはまだルシアちゃんには話さないでおこう。薬が効いて具合はよくなってきてるけど、まだまだ様子見の段階だしね。焦らせないでゆっくり治していかないと。
だけど、明日にはもっとよくなってるといいなあ。
「アグニ、おはよう」
「おはよう。ユーリィ」
朝起きて二人で居間に行くと、今日はミリーナさんはいなくてソルトさんだけいた。
「今日はミリーナさんは?」
「ああ、今日は休みだ。俺が居ない間、毎日通ってくれてたからな。こうして帰ってきたんだ。あいつにも休みは必要だしな」
「そっか、そうだよね。ルシアちゃんにお粥は?」
「食べさせてきた。食欲も少しだがでるようになったみたいだ。顔色もよくなってるしな」
「そうなんだ。よかった。私も後で行ってくるね」
「俺も行くよ。昨日は顔見せしてないからね」
そうしてそっと部屋の中を窺うと、ルシアちゃんは眠ってた。
「起きるまではそっとしとこうか。こうして眠ってる間も病魔と戦ってるんだしね」
「そうだな。ならどうしようか? 杖を作りに木を倒すんだけど、行く?」
「うーん、そうだね。行こうかな。ついでに何か薬草がないか探してみる」
居間にいるソルトさんに声をかけて、木を切りに行くと言うとまたお礼を言われる。だけど私達はできることをしてるだけなんだけどね。
「そうだ、ソルトさん」
「どうした」
「ルシアちゃんの病気のことなんだけど、病気になる前になにかしてたこととか、行ってたところとかわかるかな。ルシアちゃんだけ奇病にかかってるのってっどこか不自然だし……」
「そういえばそうだな……考えてみる」
「うん、お願い。じゃあ、私達は木の伐採に行ってくるね」
「木の伐採?」
「ああ。松葉杖を作るために木が必要なんだ。そのうち歩く練習もしないといけないだろ」
「そうか、そうだな。お前たちは先のことも見据えてるんだな。俺もれきることをしないとな」
「じゃあ、ソルトさんはなるべくルシアちゃんのそばに。しばらく会っていなかったんでしょ? 家族がいるのって、それだけですごく心強いと思うの」
「わかった。気遣い感謝する」
ソルトさんはそう言うと、私たちを見送ってくれる。
家から出て森へ入ると、高い木々の間からの木漏れ日が下に生えている草木を照らしていてとても綺麗だった。空気も美味しいし森林浴もできてとても気分がいい。
「この木がいいかな。熱を加えるとしなやかになって、弓作りに適にしてるんだ」
「そうなんだ。じゃあ、さっそく切り倒そうか」
「ユーリィはそこで見てていいよ。俺が倒すから。そっち側に倒すから、こっちに来てくれる」
「うん」
アグニは異空間から斧を取り出して、木の下側目掛けて振りかざして削っていく。そうして倒れた木を必要な分だけ切りわけて、二人で一緒にその木を運ぶ。
ソルトさんの家の脇で、座って作業するアグニのそばでその作業を少し見ていたけど、ソルトさんがそろそろ何かを思いついててもいいかもしれないしと、家の中に入る。
「何か思い出した?」
「ああ。一つだけあった。たしか、あの頃はルチアは一人の旅人に入れ込んでた時期だった」
「旅人?」
「ああ。アグニと同じ赤髪の男だ。だが、その男は痩せこけていてな。よく料理を作ってはそれを食べさせていたようだ」
「赤い髪の男性か。でも、病気になったのが一年前じゃ、アグニのご両親の時とは年代が違うわね。発症しないで潜伏期間があったとしても、それでも長すぎるし。ちょっと原因がわからないわね。アグニの村にでも寄って、そこで病原菌を体に入れちゃったのかな。その人は?」
「もういないな。数日後にはこの村を出て行った。万能薬を探してるって言ってたからな」
「万能薬、かあ。じゃあ、その人はもう」
「おそらくな」
もういない、か。他になにもないのなら、その男性からもらったのが原因としか考えられないけど、うーん。医者じゃないとわからないかな。私はその奇病に全然詳しくないし。だけど、医者って王都くらいにしかいないからなあ。突き止めるのは無理かな。
でも一応、あとでその男性のことをルチアちゃんから聞いてみよう。症状とかあったかどうかを。そうなれば、その男性が原因だってわかるしね。
夕食後。私はルチアちゃんの部屋へ向かった。
「赤い髪の毛の男性? エイトのことね。あたしの初恋の相手だけど。うーん……たしかに咳をよくしていて、風邪だって言ってたわ。だから、よく栄養あるものを食べてもらいたくて、宿屋の部屋に差し入れをしてたけど……。あ、まさか」
「うん。そうみたい」
「そっか、同じ病気だったんだ。じゃあ、もう……」
「万能薬を探してたみたいだけど」
「たしかに。風邪薬を飲んでも風邪が中々治らないから、万能薬を探してるっ言ってたわ」
「やっぱりそうんなんだ。でもそれなら、ルチアちゃんが治ればもう奇病のことは大丈夫ね。完治したら他の村の人も発症しないだろうし」
「そうね。でも、この村には居ずらくなるだろうなあ」
「今でもあれだもんね」
私は村人の視線を思い出す。厄介ごとを恐れている目だった。完治したといってもきっとわかってもらえないだろうなあ。
「なら、私と一緒にいかない? ソルトさん入れて四人で。この国を見終わったらおばあちゃんの所に帰るから。カースリドはリウラミル教の国だから」
「そうね。考えてみるわ。ありがとう」
「ううん。いいの。私もルチアちゃんともっと話したり遊んだりしたいし」
「あたしと友達になってくれるの?」
「ルチアちゃんがいいなら、こっちからお願いしたいくらいよ」
「じゃあ、これからよろしくね。ユーリィちゃん」
やった。やった!
人生初の同じ年頃の友達ができた! すごく嬉しい。私達は笑いあう。うん。私、もっともっと頑張って、絶対に治してみせるからね。




