薬師ののんびり旅紀行 六十五話
「ルシア。この薬を飲んでくれ。やっと入手できたんだ」
「できたって……もしかして万能薬?」
「ユーリィさんが万能薬を持っていたのだそうよ」
「そうなんだ!? ……貴重な薬なのに、ありがとうございます」
「いいのいいの。どんなに貴重な薬でも、使わなければ何の意味もないからね。必要としている人に飲んでもらえるのが一番なのよ」
「ユーリィの薬は必ず効くと思うよ。だから飲んでみて」
「さ、ユーリィ。このお粥と一緒に飲めるかしら? 頑張ってみて」
お粥を持ってきたミリーナさんが、私と場所を変わりルシアちゃんのそばに寄る。
私は安心させる為に、ルシアちゃんに笑いかけて頷いた。
「いただきます」
そう言って口元に寄せてきたスプーンのお粥と万能薬を口の中へと入れて、少し辛そうにしながらも飲む。飲むこともそんなに辛いのか。すごく心配。
そうして何口かを口に入れては飲んで、だけどそれもすぐに顔を横に振ることで止めてしまう。
「頑張ったわねルシア。今日はいつもより多く食べれたわ」
「皆いるから。頑張ってみたの」
それでもいつもより多いんだ。
あんまり大勢で押しかけてもルシアちゃんを疲れさせちゃうから、お粥を食べ終わった彼女を休ませる為に、私達は部屋をでる。ミリーナさんだけが残って、ルシアちゃんが寝入るまでそばにいるそうだ。
「想像より病気は進行してるみたい」
「だけど、薬は飲んでくれたからね。あとは明日になってみないとね。ユーリィの薬は効くから、よくなると俺は思うよ」
「……二人とも、本当にすまない。アイオーン大陸に来た時点でもう関係がないのに俺の村へ来てくれて」
「いいんです。私の薬が役に立つのならどこへでも行きます」
「それに俺とユーリィを助けてくれた恩人でもあるしね」
「そう言ってくれると助かる。それで、二人の休む場所なんだが、両親が使っていた部屋を使ってくれ」
「わ、ありがとうございます。助かります」
宿屋でも探そうかと思ってたけど、その心配はないみたい。よかった。
ご両親の使っていた部屋はミリーナさんが毎日、部屋全部を掃除してくれててすぐに使えた。もしかして、ミリーナさんが献身的なのは、ソルトさんが好きだからなのかな。もちろんその妹であるルシアちゃんのことを好きっ手ものあるんだろうけど。なんとなく、私はそう思った。
「彼女の病気の様子をしばらくは見るんだろう?」
「うん、そのつもり。急ぐ旅でもないし、それになによりもルシアちゃんに元気になってほしいもの」
「そうだね。明日になったらまた様子見に部屋へ行こう。それじゃ、そろそろ寝ようか? 早馬だったから疲れただろう?」
「そうだね。少し、疲れたかな。じゃあ、おやすみ、アグニ」
「おやすみ、ユーリィ」
目を瞑るとすぐに睡魔がくる。
病気のことを知ってから、急ぎで来たからね。馬上も慣れたけど、ちょっと疲れた。明日、疲れた顔をしていると、ルシアちゃんが気にするかもしれないし。
おやすみなさい。
「ユーリィ。起きて」
「んぅ……アグニ?」
「朝食ができたって。起きれる?」
「うん、大丈夫。先に行ってて。すぐに行くから」
朝になったみたい。夢も見なかったから相当疲れてたのね。熟睡できたからか、今は疲れもなく、すごくすっきりしてるけど。
そういえば、少しおかしいなって思ってたんだけど、どうしてルシアちゃんだけが奇病になったのかな。なにか原因があるんだろうけど、それがなくならないと、他にも発症者がでてくるかもしれないよね。その辺のこともソルトさんに聞いてみよう。
「おはよう。皆」
「おはよう。ゆっくり休めたか?」
「はい。おかげさまで。あの、私とアグニ、ルシアちゃんが少しでもよくなるまでは滞在したいんだけど、部屋借りてても大丈夫かな」
「もちろんだ。そうしてくれると俺としてもありがたい。世話をかける」
「それは構わないよ。元々、薬師として生計を立てるようになるまで旅を続けるのが私の目的だし」
「そうなのか」
「なんでも、師匠でもあるおばあさんが、その課題を出したそうだよ」
「へえ。ユーリィは期待されてるんだな」
「そういえば、ユーリィちゃん。アスコットって言ってたけど、もしかしてあの?」
「ミランダ・アスコットは私のおばあちゃんなんなの」
「まあ! それはすごいわ! ねえ、私の薬師としての腕、見てもらえないかしら? 私も五年間薬師の師匠に師事していたけど、まだちょっと不安な時もあるのよね。ここだけの話だけど」
「うん、構わないよ。じゃあ、ルシアちゃんの様子を見てからにしよう」
「ありがとう。とても助かるわ」
朝食を皆で食べつつ、私はルシアちゃんを看てからミリーナさんと一緒に薬師のことで話し合うことになった。
「ユーリィ。俺はちょっとソルトと一緒に狩りに行ってくるよ」
「わかった。気をつけてね」
なんでも美味しいものをルシアちゃんに食べさせてあげたいからなんだって。
さて、と。
朝食も食べ終わったから片付けて、私とミリーナさんはルシアっちゃんのところかな。
「おはよう。ルシアちゃん」
「わ、おはようございます。聞いてください。私、なんだか少し元気が出てきた気がするんです。ミリーナお姉ちゃんもそう思わない?」
「あら、本当。顔色が全然違うわ。血色が良くなってきてる」
「よかった。薬、ちゃんと効いたみたいだね。ミリーナさん、今日もお薬飲んで様子見よう」
「そうね! じゃあ、ルシア。お粥、食べれるよね?」
「うん。今日は昨日よりも食べれるかも」
表情が少し変わってる。たしかに血色がよくなってるみたい。まだまだ様子見だからあまり楽観できないけど、私の薬はたしかに効いてるみたい。なんだか少しほっとしたわ。
それからお粥を昨日よりも多く食べられたルシアちゃんも交えて雑談をした後、少し疲れたとのことで、ルシアちゃんを寝かせて私とミリーナさんは居間へと戻る。
「ここがちょっと不安なのよね。このあと、このまま混ぜ込んでもいいのかしら? 少し荒い気がするのよね」
「そうだなあ。そこで更に乳鉢をサラサラにすると、混ざりもよくなるし、それと甘草を入れると少しだけど、味も誤魔化せるから……」
「なるほどねえ。それは考えもつかなかったわ。アレンジを加えるのね」
「そう。効く薬も大事だけど、飲みやすくするのも大事かな、と。少しでも飲みやすいと感じてもらえれば、薬への拒否反応も少なくなるし。それでも無理って方には、シロップに薬を溶かして飲ますのもいいと思う。その為にはザラザラなものではなく、乳鉢でサラサラにすることで、飲み心地もよくなるから、その辺は手を抜かずに丁寧にした方がいいかな」
「なるほどねえ」
私とミリーナさんは、シナモンクッキーをお茶飲みの合間に食べつつ薬師談義に花を咲かせる。こういう話をできるのってすごく楽しいな。
四の鐘がなるまでそうしていると、アグニとソルトさんが帰ってきた。
そしてにっこり笑ってアグニが私に言う。
「ただいま。なんだか楽しそうだね」
「薬師談義してたから」
「なるほど」
鳥を狩ってきたそうで、アグニとソルトさんは血抜きと羽を剥ぎにまたすぐに出て行く。お粥だけじゃなくて、薬膳料理をだすのもいいかもしれないわね。




