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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第四部 ご令嬢とソルトの妹と
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薬師ののんびり旅紀行 五十八話

 村長さんの家に泊めてもらったお礼に、私はいくつかの薬を常備薬として渡してきた。誰かが病気になった時、この村には医者が居ないから、どんなに早くても三日は待たないといけないんだって。

 だから、ものすごく有難がられた。私もちょっと嬉しくなったな。それに、この村は特別な思い出ができた村だし。いつかまた来たいな。


「今日から三日は野宿なんだよね」

「ああ。ゆっくりでいいよ。街に着いたら二人っきりじゃなくなるから」

「ふふ。そうだね。ゆっくり行こう」


 私、一つだけ目標が増えた。

 それは。お父さんとお母さんを探すこと。今までは必要ないなんて薄情なことを思っていたけど、私をおばあちゃんに預けた経緯を考えると、それは仕方のないことだって今ならわかる。

 だから、あなたたちの子供は今、こんなに幸せになってるんだよって、伝えたくなったの。アグニにもそう話したら、わかったって言ってくれた。見つけようって。

 うん。見つかるといいな。手掛かりは私の顔だけだけど、私に似た人を見ませんでしたかってすぐに聞けるから、それはそれでいいわよね。

 二人でのんびり歩きながら、取り留めの無い話をする。天気は晴れていて空気も清々しくって。私の心もこの空のように晴れきっている。

 横目でチラッとアグニを見ると、すぐに気がついて微笑み返してくれる。それがすごく嬉しくて、私もにこっと笑ってしまう。そうすると、いつの間にか二人で声を出して笑いあう。そんなことが幾度も。

 ああ。なんだかとっても幸せだなあ。

 おばあちゃん、私、今ものすごく幸せなの。この嬉しい気持ち、おばあちゃんにも届いてくれるといいな。そうしたら、きっと、よかったねえって笑ってくれるから。


「なんだかいいね。こういうのも」

「まるで熟年夫婦が散歩してるみたいに聞こえるよそれ」

「いいのいいの。なんか、この満たされてる感じ、わかる?」

「もちろん。ユーリィとこうして二人っきりでいられる幸せは、何者にも代え難いからね」

「うん。私もアグニと一緒にいられてすごく嬉しいよ」


 そういえば、ミスト大陸のミスト国って、クイラス大陸のイングラスと同じで、アラリス神の両親を信仰してる国なんだって。

 だから、私達も安心して旅ができそうなの。夫婦神の宗教は、神官でも巫女でも結婚して子供だって作っていいのよ。もしかしたら、私のお父さんとお母さん、この国にいるかなあ。

 だって、そうしたら二人とも何の気兼ねもなく暮らしていけるものね。私も世界を回る旅が終わったら、リウラミル教か、アラリス神の親の夫婦神である、ミウゼラファ教を推奨してる国に住みたいな。

 と。

 そろそろの野宿の準備をしたほうがいいかな。夕方になってる。


「この辺でよさそうなところあるかな」

「ここは海辺だから、森の中へ行こう。何かあるかもしれないしね」

「薬草の群生してるところ、見つけられるといいな」

「明日は探しながら歩いてみようか」

「うん」


 森の中にあった、少し開けた場所でテントを張って、枯れ木を集めて土を掘ったところに入れて焚き火をする。今日は小猪の肉のシチューにしようかな。

 鍋を出して、石積みをしたところに置いて、清水を入れる。次にボールに適量の小麦粉、清水を入れてかき混ぜて、だまにならないようになったら、脇に避けておいておく。次に鍋にバターを入れて、具材の玉葱、人参、小猪の肉を炒める。軽く炒まったら清水を入れて野菜が柔らかくなるまで煮込んで、用意しておいたボールの中身を入れて馴染ませるの。そしてミルクと塩を適量入れて味を調えて、馴染んだら完成。簡単でしょう?

 器にできたシチューを盛って、固パンも籠に入れておいて、今日の夕食ができた。固パンは、シチューにつけて柔らかくして食べるのよ。すごく美味しいんだから。


「いい匂いがすると思ったら、今日はシチューなんだね」

「うん。簡単にできるから、ちょっと楽しちゃった」

「でもすごく美味しそうだよ。食べよう」


 テントを張ってきたアグニがちょうど夕食の準備ができた頃に私のところへ戻ってくる。

 じゃあ、食べよう。うん。固パンに滲みこませたから食べやすいし、味もまあまあよくできた方かも。失敗してなくてよかった。まあ、一応味見はしたんだけどね。

 料理はおばあちゃんから結構仕込まれたから、それなりにはできるけど、アグニも冒険者暦が長いから料理が上手なのよね。

 気遣い、料理、強い、かっこいい。私の好きな人って、すごい。私も頑張ろう。

 けど、薬作りならまあ、世界中の薬師さん集めてもそこそこいいとは思うのよね。王宮薬師として働いてたおばあちゃん仕込みはすごい、はずよ。

 夕食を食べ終わって、見張りを交代しながら休みつつ、私達は島の最西端に着いた。まだ三の鐘が鳴ったところだから、この村には泊まらずにミスト大陸に渡るのよ。

 砂漠かあ。砂の海。早く見てみたいな。

 漁師さんの小舟に乗せてもらって、私とアグニは三時間ほどの船旅をすることに。ミスト大陸には四の鐘が鳴る頃につくわね。

 着いたら宿をとって、今日はもう休もう。それで、明日から市場で薬を売って、そしてお客さんに、私に似た人は見かけなかったかって聞こうと思うのよね。世界中を旅する冒険者達なら、どこかで見たかもしれないし。

 あとは、宿やのおかみさん、酒場のマスターとか。


「市場、宿、酒場。他に聞き込みできそうなところってあるかしら」

「そうだな。情報屋はどう?」

「情報屋? そんなのがあるのね」

「ああ。情報の内容と量によって情報量が違うけど、信頼はできるよ。それが売りの商売だからね」

「そうなんだ。それってレグラの街にもいるかな」

「大体街に二、三人はいるものだよ。ただ、情報屋でも、表と裏と二種類あるから。そうだな……。ユーリィの場合だと、宗教絡みだからアンダーグラウンド。裏のほうかもね」

「それじゃ、やっぱりまだ、お父さんとお母さんも私みたく追われてるってことかな」

「お母さんの方が、神子ってのがね。神様からの神託を受ける立場にあった者だし。結婚するとその能力も落ちるとはいわれてるけど、本当のところは本人にしかわからないからね。新たな神子がいるって噂も聞かないし」

「リウラミル教じゃ、教皇しかいないんだけどなあ。神子か。神様って本当にいるのかな」

「どうだろうね。まあ、どっちにしたも、俺達には関わるような出来事じゃなければなんでもいいんだけどね」

「そうよね」


 神様が本当にいるのなら、私の願いも聞いてもらえないかな。両親と無事に会えますように。そして、おばあちゃんからの試験も受かって、アグニとずっと一緒にいられますようにって。

 願いすぎかな?

 私は海を眺めながら少しぼーっとする。

 この先どうなるんだろう。だけど、どんなに不安になっても、自分でなんとかするしかないのよね。自分の面倒は自分でみなくちゃね。


「あ。アグニ、向こうに見えるね」

「あと少しで到着だね」


 ミスト大陸最南東の港街レグラ。

 次第に近づく大陸は、とてもとても大きくて、この大陸で私は両親を探すことになると考えると、少し、うってなるけど、でも、頑張って探し続けよう。

 だって、会いたいじゃない。

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