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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第三部 逃亡とモルストの迷宮と
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薬師ののんびり旅紀行 五十五話

「ああ、さっぱりした」

「おかえり。アグニ」

「ただいま」


 お風呂から戻ってきたアグニは、清々しい表情になっててずいぶん機嫌が良いみたい。やっぱり血まみれだったから、途中の池行水をしたとしても、全然ちがうのよね。お風呂は体の疲れも癒してくれるし。


「俺、今日は防具屋にいってくるけど、ユーリィはどうする?」

「そうねえ。あ、アースドラゴンの肉を少しわけてほしいかな。滋養強壮に効く丸薬を作りたいのよね」

「いいよ。じゃあちょっと待ってね。今取り出すから」


 私はお皿を用意して、その上に切り分けてくれたアースドラゴンの肉を置いてもらう。やった。これでまた薬が作れるわ。


「ありがとう」

「残りの肉はどうする? 俺達が食べる分を残して、他は精肉店に売ろうか」

「そうね。じゃあ、一〇人前くらいでいいから、残しておいてもらえると嬉しいかも」

「おっけー」


 そういうと、アグニはじゃあ行ってくると言って部屋を出て行った。アグニの防具ができるまではこのモルストに滞在する必要があるわね。

 なら、滋養強壮剤を作り終わったら、市場にでも行って資金調達でもしよかしら。そろそろ懐が心もとなくなってきてたし。

 さて。

 じゃあすることも決まったし、まずは作ろう。

 アースドラゴンの肉を細切れにして、すり鉢でごりごりペースト状になるまでやる。その後に、小麦粉とハイポーションを様子を見ながら混ぜていって、触っても手にベタベタくっつかないようになったら、小指の爪の半分くらいに小さく丸めてオーブンで焼く。オーブンは宿屋のおかみさんに頼んで貸してもらった。熱を冷ましたら、滋養強壮の丸薬の完成ね。

 これだけでもう三の鐘が鳴ったから、四の鐘が鳴るまでは市場にいよう。

 市場に向かってシートを広げて、私は今日の商品を並べ始めた。

 売るものは、ハイポーション、ハイエーテル、解毒剤、麻痺解除剤、止血剤、化膿止め、マーカー、睡眠薬、ヒル用塗り薬、蚊取り線香、精力剤、滋養強壮剤よ。


「いらっしゃい! ハイポーションから状態異常回復剤に蚊取り線香や精力剤、滋養強壮剤色々ありますよー! どうぞ見ていってくださーい!」


 周りの声に負けないように私も声を張り上げて集客に努める。すると、市場を除いていた冒険者の二人が寄ってきてくれた。


「へえ、結構いろいろあるじゃん。これ君が作ったの」

「はい。私は薬師でるから」

「効果は高い?」

「私はそのようにしているつもりですけど。人それぞれ体感で変わりますので、その辺はなんとも」

「なるほどね。じゃあ、俺はハイポーション五つとヒル用塗り薬一つ。それから精力剤を一〇本もらおうか」

「全部で二五,五〇〇セルになります」

「じゃあ、二六,〇〇〇セルからで」

「五〇〇セルのお釣りですね。こちらが商品になります」


 私は紙袋に商品を入れてお釣りと共に手渡す。その横にいた緑髪の冒険者さんは、まだ悩んでいるよう。

 先に買い終わった茶髪の冒険者さんは、なにを見てるんだろうとその視線を辿ったみたい。


「おい、リーク。お前もしかして精力剤買うかどうか悩んでんのか」

「ば、違う!」

「なに照れてんだよ。あ、お前。この女の子から買うのが恥ずかしいんだろ」

「なっ、それは、その」


 茶化すように言うもんだから、緑髪の冒険者さんは顔が真っ赤になってる。でも、そんなに気にしなくてもいいのにな。私よりも年上なのに初心なのね。


「……じゃあ、このハイエーテル一〇個に、精力剤五本、そして滋養強壮剤を一〇粒くれ」

「合計四〇,〇〇〇セルになります」

「ちょうどだ」

「はい。たしかにちょうどですね。ではこちらが商品になります」

「ああ。ありがとう」

「ありがとうございました」


 結局買っていった冒険者さん達は、紙袋を持って去っていった。やったね。結構売れた。作りたてだから、効果は高いはずよ。気に入ってもらえるといいんだけど。

 それからも時々覗いてくれた冒険者さんや、一般のお客さんも、ヒル用塗り薬や蚊取り線香を皆多めにして購入していってくれた。

 ゴーンゴーンゴーンゴーン。

 四の鐘が鳴ったわね。今日はこの辺で終わろう。私は他の市場の売り子さん達よりもかなり早めに切り上げて、宿屋へ帰ることにした。アグニはもう戻っているかしら。


「おかえり。ユーリィ」

「ただいま。戻ってたんだね。私はさっきまで市場で売り子してたの」

「そうなんだ。どうだった」

「結構売れたわよ。売上は三〇一,五〇〇セル。三の鐘がなってから行ったから、そう考えると中々の売上よね。そっちはどうだったの?」

「へええ。すごいじゃないか。何が一番売れたんだ? 防具の方は、明日の四の鐘が鳴る頃に受け取りにこいってさ」

「じゃあ、それ以降に出る乗合馬車でモルストを出ればいいわよね。一番売れたのは滋養強壮剤よ。あと、ヒル用塗り薬と蚊取り線香も売れたかな」

「そうだね。明日、防具を受け取ったらアトの街まで行こうか。そこから西に行けば、渡し舟があるから、それに乗って島を横断してミスト大陸に渡ろう」

「渡し舟かあ。じゃあ、また酔い止めのお世話になるわね」

「定期船よりもずっと小さめの船だから、かなり揺れると思うよ。お茶よりも、効き目の強い丸薬のほうがいいと思う」

「うわあ、そうなんだ。乗合馬車の揺れには平気なんだけど、なんで海だと駄目なのかしらね」

「動きが不規則だからじゃないかな」

「はあ。やだけど、ミスト大陸には行きたいし、頑張るわ」


 小船なのかあ。どれだけ揺れるんだろう。ちょっと気が重いわね。


「でもまあ、乗ってるのは三時間くらいだから、一の鐘分頑張れば島に着くからさ」

「うん。そのくらいの時間なら、頑張れそうな気がするわ」


 よかった。そこまで長時間じゃないのね。

 そうして翌日。三の鐘が鳴るまで私とアグニは寝溜めして、モルストを発つ準備をしてから防具屋さんに行くことにした。


「へえ。これはいいね。親父さん、間に合わせてくれてさんきゅ。付け心地も悪くないし、このままでも平気そうだ」

「ふむ。そのようだな。わしも良い仕事ができてよかったわい。手直しが必要な時は残りの皮を防具屋に持っていきな」

「ああ。じゃあまた」


 アースドラゴンの鱗で作った薄茶色の竜鱗の皮鎧は、アグニにとても似合っていた。

 ミスト大陸は砂漠地帯だから、そのまま着てても大丈夫らしいし、私も首飾りは着けたままにしておくことにする。

 今度は砂漠かあ。私見たことないからっちょっと楽しみだわ。砂漠って、全部砂でできてるんでしょう。本で読んだわ。朝夜の温度差も激しいって書いてあったから、その辺が気になるわね。

 あとは、周りのうみとオアシスにしか水がないから、水分補給には気をつけたほうがいいんだって。でも、私の時魔法の異空間には清水が一〇タンクあるから、多分、大丈夫よね。

 あとは、ええと、たしか。そう、砂埃もすごいらしいから、頭からすっぽり外套を羽織った方がいいんだって。太陽の熱からも身を守る為にもね。

 うーん。溶けない氷とかがあれば、快適になりそうな感じ。そんなの作れないけど。

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