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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第三部 逃亡とモルストの迷宮と
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薬師ののんびり旅紀行 四十九話

 カツサンドを食べ終えて、少しそのまま休んでから、私とアグニは更に下へと下りる。

 素材になる大蛇は、進路上で遭遇したら倒して、綺麗に皮を剥がして持っていく。もちろん毒腺も忘れずに貰ったわ。

 地下九階から十二階には大蛇がでるの。地下十三階からは何がでるのかしらね。

 とりあえず、マッピングしながら十一階まで進んでいくと、雨水が溜まって池になっている部屋に出た。砂利で濾過された雨水は、とても綺麗に透き通っていて、結構深そうなのに底まで見えてる。

 この透明度に、試に飲んでみた水の味。これ、清水として使えるわね。聖水は補充したけど、清水はまだだったから、ここで補充しちゃおうか。


「アグニ。私この清水持ち帰るね。清水として使うから」

「たしかに、ここの水は特別に綺麗だね。じゃあ、タンク貸して。俺が出し入れするよ」

「ありがとう。七つお願い。あと三つはまだ中身あるから」


 空のタンクを時魔法の指輪を使って異空間から取り出すと、それをアグニに手渡していく。アグニがタンクを水の中に沈めて水を満たしたものを、私の異空間に入れてくれる。やっぱり男の人って力持ちでいいわよね。私もそのくらいの筋肉があれば、もっと楽なんだけどなあ。薬をすり潰す時とか、もっと早く終わりそうだし。


「ありがとう」

「いいよ。それよりも、水を入れながら思ったんだけどさ、あの底にあるのって、水中花(すいちゅうか)じゃないか?」

「え、どれどれ?」


 アグニに指し示された場所を見ると、たしかに水色の花が池の底で咲いてる。この花は、乾燥させて粉末状にして、お香にすると麻薬になるのよね。

 カースリド国では作ることは違法だけど、他の国では違法でないところもあるの。このクイラス大陸の西側にあるミスト大陸では、栽培も普通にされてて、麻薬も薬として使われてるんですって。主に王侯貴族が使うんですって。おばあちゃんが言っていたわ。

 何があるかわからないし、採集だけはしておこうかしら。


「ちょっと採ってくるわね」

「え、いや、待って。俺が行くから、ユーリィはここで待って見張ってて」

「でも、私が使う素材だし」

「その格好で池に入るのは止めて」

「え?」


 私は自分の格好を見てみる。以前買った、ミニスカートとニーハイソックス、ニーハイブーツを合わせたセットに、白いチュニックを着てる。この格好がどうかしたのかな。

 わからずにきょとんとしてアグニを見ると、はあ、と溜息を吐かれた。ええ、なに?


「その格好で水の中に入りでもしたら、上半身が透け透けになるよ。サービスだっていうんなら喜んで見るけど」

「……あ。駄目!」

「だろう。だから俺が行ってくるよ」

「うん。ありがとう。お願い」


 透け透けなんかになったら恥ずかしくて一緒にいられないわ。でもよく気づいたわね。それとも私が考えなしなのかしら。

 アグニは上を脱いで、ザプンと水の中に潜ると、あっという間に水底へとついて、水中花を採ってきてくれる。一〇個採ってきてもらってそこで止めてもらう。体全体を覆う大きなタオルをアグニに渡して、私は中ケースにそっと水中花をしまった。

 なにが入手できるかわからないところが楽しくていいわよね。迷宮は。

 塗れた髪の毛から水分を飛ばす為に頭を振ってるアグニはなんだか可愛い。もう一枚タオルを取り出して、私はお礼に水分を拭きとってあげることにした。されるがままのアグニ。なんだか大きいわんこみたいね。


「ありがと。ユーリィ」

「私の方こそだよ。寒くない? 焚き火作ろうか」

「そうしてくれるとありがたいな」


 私は木と布の端切れを取り出すと、円錐状にならべてから、火属性の魔法石を放り込む。ボッと点いた火は、アグニを橙色に染めて暖かくしてくれる。


「今日はここで休もうか」

「そうだね。結界石を置いて交代で休もう。その前に食事かな。ユーリィも水浴びするといいよ。気持ちいいから」

「うん。食事終わったらそうするね」


 アグニは覗いたりしないだろうから、安心して入れるわ。むしろ他の冒険者に出会わないようにしないとね。

 結局出会うことはなかった。身も心もとても清清しい気分にしてくれた水浴びは、この迷宮にいる限り、出るまではお世話になるかもしれないわね。

 私は食べ終わったあと、寝袋を出してその中に入って眠る。アグニが見張っててくれるから、熟睡できるのよね。私が見張り番の時は、アグニ、あまり寝てないみたいだし、もっと私も強くなって頼りにされるようにならないといけないかな。


「ユーリィ。起きて、時間だよ」

「うん。交代ね、わかったわ」


 だけど、そもそも、魔物が出た時って、今まで私、あまり戦ってこなかったのよね。いつも先にアグニが倒してしまうし、迷宮にはいるのだってそんなにないし。

 せめて魔法石、もっと改良できないかな。そうしたら、もっと強くなれるわよね。私自信ではないけどさ。

 何かないかな。そう思いながら私は短剣を手に取る。近接戦闘なんて私には無理だしなあ。鞭も買ったけど、結局まだ一度も使ってないのよね。魔法石投げるしか私してないし。

 投げる、か。

 そういえば、私、命中率はいいのよね。コントロールがいいのかしら。だとすれば、弓なんかどうかな。狭い通路だとちょっと無理だけど、部屋になってる場所があれば弓矢で攻撃するの、いいかもしれない。

 ちょっとだけアグニに弓を借りてみようか。

 あ、そうだ。矢じりに魔法石をつければ……。魔力を籠めて、魔物に当てて突き刺して、魔法石の効果もあれば今よりもずっと役に立つかも。

 うん。これいいね!

 さてと、いいことも思いつけたし、朝食の準備でもしておこう。私は時魔法の指輪を使って異空間から固パンを取り出す。そして清水をいれた鍋に、干し肉、玉葱、人参、キャベツ、馬鈴薯を切って鍋に入れていく。焚き火の上で鍋が煮立つのを待ったら調味料を入れて味を決める。コンソメでいいよね。

 アグニが寝ている間に調理をしてって、そうこうしてると、馬鈴薯に串がすっと刺さった。これでできあがりね。味も……うん。いいね。


「アグニ。そろそろ起きて」

「ん……。おはよう」

「おはよう。アグニ」

「朝食作ってくれてたんだ。ありがとう。だからかな、いい匂いがするから夢の中でも何かを食ようとしてたんだ」

「あははっ、そうなんだ。じゃあちょどいいわね。食べましょ」

「ああ。あ、このスープ美味しいね。コンソメスープ」

「調理済みのものを異空間から出すのもいいけど、たまにはこういうのもいいでしょ」

「大歓迎」


 少し多めに作ったけど、アグニが綺麗に食べきってくれた。なんか嬉しい。

 こんな感じで一日目の迷宮探索は終わった。今日からは二日目。地下何階まで下りられるかなあ。

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