表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第三部 逃亡とモルストの迷宮と
47/84

薬師ののんびり旅紀行 四十七話

 地下二階へと下りて来た私達。その目の前には薄暗い通路が遠くまで続いていて、真っ暗な闇の中に踏み込んでいく私達を飲み込んでしまおうとしているかのよう。

 慎重に進んで行くと、またスライムがいたから、アグニが見つけ次第片っ端から片付けてくれている。

 しばらくすると、少しだけ部屋みたいな場所に出た。

 壁から湧き水が流れ出ていてその周辺に草が生えているのが見えた。


「あ、この草ってもしかして……」

「薬草?」

「うん。確かこの辺にページに……。あった、シグルモ草だわ」


 私は薬草事典を見ながら、目の前に生えている草が薬草であることを確かめる。

 このシグルモ草は、滋養強壮にいいのよ。ハイポーションと掛け合わせると、その、あれにいいらしいわ。何かってことは言えないけど。あれよ、あれ。察してちょうだい。

 使う場面なんてないだろうけど、一応、薬師としては採集しておきたいわ。何束かいただいていきましょ。

 私はハイポーションで調合するもの以外知らないのだけど、でも、例えばハイエーテルだったら、何になるのかしらね。試してみたいけど、効果がわからないから、怖くて使えないし。

 どこかにそういったレシピ集があるんだろうけど、おばあちゃんなら知ってるかも。

 今度、一度おばあちゃんの所に戻ることがあったら、その時に色々聞いてみようかな。


「ねえ、ユーリィ。その薬草ってなんの薬になるの?」

「え? あ、えと。滋養強壮にいいのよ」

「滋養強壮? なら年配の人にいいのかな」

「それは、どうかしら。逆に腰を痛めるんじゃないかな……」

「腰?」

「うん。あ、いえ。何でもないわ。とにかく。この薬草は、滋養強壮にいいのよ!」

「そ、そうなんだ」

「そうよ」


 さ、この話はこれでお終いね。これ以上は恥ずかしくってできないわ。これ以上突っ込まれないように、シグルモ草を採集した私は先頭に立って歩く。

 さくさくと進んで行くと、したの階に降れる場所にきちゃった。うーん。マッピング終わってないけど、どうしようか?


「どうするの?」

「まだ地下二階だし、マッピング終わってなくてもいいかな。先に進もう」

「うん」


 地下三階にやってきた私達。

 二階よりもさらにじめじめしてて、通路の両脇には水が流れてる。これ、湧き水かのか、雨水が通ってきてるのか、どっちなんだろう?

 このイングラスはスコールがあるから、雨水のほうかもしれない。


「なんだか湿気がすごいのね」

「途中には雨水が溜まった地下池があるそうだよ。そういえば、踏破した冒険者の話が噂になってたんだけど、ここは地下三〇階まであるらしい。もし最下層までいくのなら、それなりの準備をしないといけないね」

「アグニはどうしたいの?」

「うーん。まあ、俺も冒険者だし、最下層まで行くのは興味あるよ。だけど、今はユーリィのことを優先したいからなあ。だから、ユーリィが決めていいよ」


 どうしよう?

 私は地下三〇階まで降りたそうにしてるアグニを横目でチラと見る。……。もしかしたら、何か素材を見つけられるかもしれないし、いっか。


「私も降りてみたいな。貴重な素材とかあったら欲しいし」

「よし、じゃあ今日はもう少しだけ下りてみて、明日の早朝に来よう。今日マッピングできるだけしておけば、明日早めに深く潜れるだろうし」

「そうだね。そうしよっか」


 そうして地下三階、四階、五階と下りてきたけど、魔物は相変わらずグリーンスラムだけ。もう飽きてきたわ。スライムには。

 と、そう思ってたら。


「ユーリィ、止まって。あそこにいるの大ヒルだ。ヒルが魔力を溜め込みすぎて、進化後に大型化して凶暴になった魔物だ」

「うわあ、気持ち悪いっ」


 視線の先には体長二メートルほどの大きさの、巨大なヒルが蠢いていた。

 うねうねもにょもにょと動く巨大なヒルは、まだこちらに気づいてないようで、何かに一心不乱になっている。


「人だ」

「えっ」

「人が食われてる」

「じゃあ助けないと!」

「いや、もう無理だよ。あの大ヒルは獲物に噛みつく時に流血効果のある分泌液を流し込むんだ。そして、その分泌液は歯から出ている。あの大口で噛まれたんだ。血はもう止まらないだろうし、すでにずいぶんと吸われた後のようだから、もう」


 そっか。そうなんだ。何もできないなんて。


「せめて、何か遺品になるものを冒険者ギルドに預けたいな。所属してる人の遺品は、冒険者ギルドで預かることになってるんだ。亡くなった冒険者の遺族や関係者が形見として持てるように、そういうものを見つけたら、持ち帰ることも暗黙のルールであるんだ」

「なら、あの大ヒルを倒してから、その遺品になるようなものを探してみようよ」

「そうだな。ヒル系には火が良く効くから、魔法石で援護してくれないか。隙を見つけて飛び込んで倒すから」

「わかったわ」


 私はそう言うと、ポケットから火属性影響で赤い水晶になった魔法石を一つ取り出す。それに魔力を籠めて、私は大ヒルに投げつける。

 命中した途端、炎が上がった。

 ゴオオォッと燃え上がる炎の中へすかさず大ヒルの懐へと、アグニは赤い短剣を抜いて一点を突いた。プギイィと鳴きながら大ヒルは横にでろんと横たわる。その姿も気持ちが悪くて、私はつい目を逸らした。

 だけど、すぐに駆け出して、大ヒルに食われていた人が本当にもう駄目だなのかを確かめる。首元に指を当てると、脈打つ様子は一切なかった。

 血だまりは広がり、私の靴底を赤く濡らす。

 冒険者は男性で、苦しそうな顔をして固まったままだ。私は手を合わせてからリウラミル教の神様に祈りを捧げる。どうか、魂が巡り巡って、彼の大事な人と再び会えますようにと。

 そうしていると、アグニは大ヒルが確かに倒せたか確認が終わったみたいでこちらに来ると、しゃがんで男性の冒険者の証と皮袋に剣を取ると、私を見る。

 火葬、か。

 この男性がどの宗教に入っているのかわからないから、私達の信仰する宗教のやり方でやらせてもらう。

 私は足元、胴、頭、両腕の上に火属性の魔法石を置く。そして、二人して少し後ろに下がると、手に持っている六つ目の火の魔法石に魔力を籠めて、ぽーんと、男性の胴部分にいくようにして投げた。すると、遺体はボウッと全身を一気に焼いた。人の焼かれる匂いが辺りに広がって、思わず服の腕裾で鼻を覆う。

 だけど、顔は背けなかった。この人の最後を無関係の私達だけど、しっかりと見て弔わないとと思ったから。


「安らかに……」


 どうか黄泉の旅路で迷いませんように。私とアグニは手を合わせて祈った。

 それからは、なんだか地下へ行く気分になれなくて、遺品のこともあるし、遺骨を布袋に移すと、早々に引き上げることにした。

 私、人が死ぬところはおばあちゃんの仕事の後についていった時に、何度か見てるから見慣れてるとは思ってたけど、やっぱり嫌よね。もう少し早く着いていたら、助けられたかもしれない。私は薬師だから、できることがあったかもしれない。だけど、現実は間に合わなくて。

 ううん。もう考えるのはやめておこう。深みに嵌ってしまいそうになる。

 明日はまたこの場所に戻ってくるんだ。これからのことを考えないとね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ